1-42 Villain
sideヒロ
『ゴトゴトゴロッ… 』
20分ほどで乗り込んだ馬車は停まった。
「ついた」
カシャ
ミレがそう言うとココワちゃんが扉を開けた。
「………………ぉぉ… 」
僕は全体を見回した。
ここがミレの家…と言うかお屋敷。
めっちゃデカい…
ここから見るだけでも僕の実家が20軒は建ちそう。
それに馬車を止めたこの庭……庭?
「……、……、…… 」
((流石持ってるねぇ〜たまたま逆玉とか))
キョロキョロする僕に悪魔の囁きが。
言葉も通じない僕たちは出会いもあんなだったから、正直ミレがお嬢様なんてこれっぽっちも思っていなかった。
「……… 」
それに当人にもお嬢様らしさと言うか、女女した感じが一切無い。
見た目は飛びっ切りなんだけど…
「何?ヒロ… 」
「えっ?いや何でもないよ…って言うか、大きいお家だね?ハハ」
僕はミレと視線を合わせられず、両手を大きく広げて話題を変える。
「…うん」
ザ、ザ、ザ、ザ…
それに対してミレの返事はあっさりしたもの。
うーん、こう言う所だよなぁ。
なんかこう若い女の子が持ち合わせている筈のはしゃいだ感じ?ってのが全然ない。
普段は笑顔もほぼ無いし…
ザ、ザ、ザ…
「はぁ… 」
まぁ良いけどね。
スタスタスタスタ…
いくつもの扉が並ぶ紺色の長い廊下は50mは続いている。
"ココワ、××××××××(客間に案内して) "
そう言ってミレは屋敷に入るなり走って消えた。
スタスタスタ…
『ガチャ』
「××××××××××××(それではこちらでお待ち下さい) 」
先導するココワちゃんはその割と手前の扉を開き、緩やかにお辞儀をして中へと促す。
スタスタ、スタ、スタ…
「………、………、……… 」
案内された客間はまるでTVで紹介される高級スイート。
スタスタ…
『ギシィっ』
戸惑う僕を置いて進んだシロは、真ん中に置かれた大きなソファーに遠慮なく座…横になり背を向けた。
お前のそう言うところすごいよ。
そんな感想を抱きつつつ、僕も対面のソファーへと腰掛けた。
10分後
シロは寝入ったみたいだけど僕は全っ然眠れそうにない。
大勢の武装した兵士、鼓膜にこびりついた怒声と悲鳴、トランポリンで飛び跳ねてた心臓…
それら全部に泡食った脳みそが、未だに熱を帯びていてしんどい。
はぁーーー…
細いため息を吐きながら、両手が自然と顔を覆った。
((×っ××××… (ちょっお嬢… ) ))
((×××××××(良いってノックなんか) ))
『ガチャ』
スタスタ…
「ヒロ、シロ食べて」
そう言って入って来たミレの後ろには、細いワゴンを押したココワちゃんが居る。
コト、コト、コト、コト、コト…
静かに置かれていく皿。
コト、コト、コト、コト、コト…
まだ置くの?
そしてそこへ置かれるカップやボウル状の器。
「×××××××、××××××××(そっちのとスープと、後は口当たりの軽いので) 」
「×××××(承知しました) 」
僕の隣に腰掛けたミレがそう言って指示をした。
「…ヒロ君、飲み物は冷たいのでって伝えて」
未だに背中を向けたままのシロがボソボソ言った。
「あ、うん。ミレ、飲み…飲むの冷たいの、良い?」
これじゃ伝わらないかと思ったけどミレはすぐと理解してくれ、丑三つ刻を回った真夜中の食事が始まった。
……
…
sideウインザ
『ガチャ』
「お、団長、早速ですが私から報告が有ります」
「お父さんで良い。なんだ?」
「イファ大橋に死体があったってココワが」
死体?
「身元は?」
「ううん、かなり損傷が激しくて見られなかったみたい」
「…そうか。フラエ方面へは第3隊を調査に行かせてある。直に判明するだろう」
「イグアスはやっぱり… 」
「あぁ、全てやられていた」
「…ッ」
「だがヤツらがどんな手を使おうと、このフラエ領の衛都が簡単に揺るぎはしないさ」
ミレインは小さく頷く。
「……ねぇお父さん、何故ビダン隊長達はこんな事をしたの?」
「ビダンの妻が他界した事は?」
「知ってる。身体が弱かったんでしょ?」
「いや、元々はそうではなかった。娘が居なくなるまでは」
「…娘さんは病気?それとも獣?」
「拐われた。おそらくだがナルトアに」
「……そう。第二に来る前よね?」
「そうだ」
「けどどうしてそれが原因なの?」
" 団長、衛都からの返答は来ましたか?"
" 団長、衛都はどうして動かないのですか?"
" 団長、恒都は娘を…拐われた人民を見捨てる気なのですかっ "
" 団長っ "
" 団長っ "
「ビダンは衛都と恒都にずっと掛け合っていたんだ。国と領による娘の…行方不明者の大々的な捜索をな」
「…つまりそれが叶わなかったから?」
「だと思う」
「確かに不幸な話しだけど…でも、家族を亡くした人は他にも大勢いるわ」
「だが生きている可能性がある以上諦めたりは出来んだろう。私もお前やレィシンが拐われれば… 」
「ッ…それはそうだけど… 」
「ミレイン、お前が居てくれて本当に良かった。お前がここを追われてからの話しを聞かせてくれ」
「……うん」
そうして私はこの数日の出来事をミレインから聞く。
「〜〜…って流れで二手に別れて行動したの。そっから先は知ってる通り」
「……うむ、…そうか」
「凄いねお父さん。この話を何も言わずに最後まで聞くなんて」
「質問は全て聞いてからするべきだろう」
それに俄かには信じられん部分が多々あれど、私の娘が嘘などを言う筈が無い。
「で?質問は?」
「今はこっちの問題について話さねばならん。その部分に関しては後日だな。勿論他言は無用で」
「そうね。なら今度はお父さんが聞かせてくれる?あの日の事」
「そうだな…〜〜ーー
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7日前
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『ドガラっドガっドガラっドガラっ』
「団長、第5第6はどちらか一隊でも良かったですね」
並走する第1隊隊長代理がそう言った今回の獣被害は69人(死者46・負傷者23)。
しかしその内の死者34名と負傷者4名は犯罪労働者であり、当初寄せられた被害報告を上回る事は無かった。
「まぁそうだが、そのお陰で早く片付いた」
「ハハ、それは間違いないですね」
それでもこの災害により家族や連れ合いを喪った者達の今後は、大きな変更を余儀無くされてしまう。
……七級相当か。
私は衛都へと上げる損害報告書についての内容を頭で纏める。
苦難に見舞われた管内の人民が、少しでも早く元の日常へと近づけられるように。
「結局原因はなんなのでしょうか。あの森はずっと静かだったのに… 」
「そうだな」
今回は街の区画拡大の折に起こった事故なのだが、リングマーの言う通り場所的にも距離的にもあの作業は森の獣らを刺激したとは思えなかった。
この辺りはヘイドの街区長らと行った実地調査でも判明せず今後に不安を残す結果となった。
とは言え森の中層への本格的な調査は難しい。
隊員達の危険を抜きにしても、過去数度発生した大規模な獣災害の引き金となっては元も子も…ッ、おっと。
『ドガッドザッドガラッドガッ』
時折強まる揺れに対処しつつ考えを巡らすが、もう少しで4日振りの我が家と言う事実に心が軽くなる。
…そうだな。
一旦気持ちを切り替えねばな。
そんな風に握る手綱の向こうには、見慣れた街の姿が顔を見せ始めた。
『ドォォーーーーー…〜〜ン… 』
ッ⁉︎
あれは集合報かっ
「全隊警戒態勢だ、急ぐぞォォ‼︎ 」
「「「「「「「「「「ハッ‼︎‼︎ 」」」」」」」」」」