1-41 Antiヒロ
sideヒロ
「………………… 」
ミレが時間稼ぎに入ってからも、もしもの時はいつでも放てるようクロスボウは構えつつ事の推移を見守る。
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けど今の所の流れは完璧。
思っていた以上に時間を引き延ばしているミレはかなり言葉巧みななようだし、それに最初から様子の違うあの2人もどうやらミレの側に付いてくれた様子。
だけど敵の数も一気に増えたし、そろそろマズい雰囲気かも…
((ふぅーーーー〜〜… ))
…
…
((ふぅ〜、ふぅ〜))
まだ…か…シロ。
さっきから何度か額の端から頰を汗が滑っている。
…
…
((ふぅ〜、ふぅ〜))
作戦は継続だよね?
でももし失敗なら即座に撤退。
…
…
((ふぅ〜、ふぅ『ガシッ』
「ンムっ⁉︎ 」
背後から突然押さえられる口。
な⁉︎ いつの間…
捕まって…
「ー〜ッ… 」
たまるかぁぁァァッ
僕は全力で抵抗を試みる。
sideココワ
「ンー〜ッ」
ちょっ…待ってっ
『ギュゥッ』
((シッ、私はミレイン様の家の者っ))
「……っ」
必死に抱きつき押さえると、暴れ掛けた男の子の力が抜けていく。
はぁ…
((今から離すけど声は出さないで))
私はミレインお嬢様の方を見つつゆっくりと手を離す。
「「………… 」」
そうして向き合った彼の顔に覚えは無い。
それにこうして目の前で見ても、すごく弱々しいと言うか植物みたいな熱のなさ…
((貴方がどなたかは分からないけど、私もお手伝いさせて下さい))
((……ぁ、…… ))
私の言葉に口を動かし掛けた彼。
だけど何も言わずに困惑した表情を浮かべる。
…どう言うこと?
この人は言葉が不自由?
そう思った瞬間
ッ⁉︎
『ビシュッ』ーー
唐突に彼動き出した彼は矢を放った。
私も…
ギュィ…『シュゥ』ーー
そして彼は弓矢を放った私を見て頷くと、身を屈めたまま移動し消えて行く。
「……… 」
あんなのは見たことない。
でもその異妖さが今は頼もしい。
そう思いながら二の矢を番え放った時
ヒュィーーーーー…
『『『ドドォォォオオーーーーーーンッ‼︎‼︎ 』』』
夜空を吹き飛ばすような集合報。
この場の全員が引き寄せられる…
『『『ドドォォォオオーーーーーーンッ‼︎‼︎ 』』』
中、お嬢様とその側にいる衛士は動き出していた。
「……ーーーっ… 」
空を駆けたお嬢様。
まるで空の王者の様に。
そこから一気に形勢は反転。
雄々しく猛るお嬢様の命令に従った衛士たちが動き出し、地面でのたうつ裏切り者たちを次々と押さえ込んだ。
ザダタタッ
「お嬢様ぁぁっ」
「マハトの治療急いでってココワっ⁉︎ 何で貴女がっ」
「私御用を申し使ってイファに。それで用事を済ませて戻ろうとしたらイファ大橋が崩落で使えないと言われて… 」
「それでどうやってこっちへ?」
「はい。衛士の命令により突然イファが封鎖されたので何かおかしいと思っ… 」
ザ、ザ、ザ…
足音が聞こえたと思ったら、あの男の子が笑顔を浮かべて立っていた。
「ヒロッ、ココワっこの人は… 」
「はい、お嬢様のお知り合いですよね」
「うん」
そう言って笑ったお嬢様は、ヒロさんと言った男の子に駆け出して抱きついた。
本当に嬉しそうに。
sideヒロ
「ヒロまってて」
〜トスっ…
言われるまま頷いた途端、解放感にフラついて尻餅をついた。
「ふぁぁ〜〜〜〜〜〜ぁぁ〜〜〜〜〜〜… 」
マジしんどかったぁ…
クロスボウを足下に下ろし、やっと自由になることが出来た僕の両手は今も震えていた。
「〜××××××××××(よく抜け出せたわね) 」
「××××××××××っ(それくらいは私もやりますよっ) 」
それにしてもさっきは焦ったな…
突然僕を捕まえた女の子はヒョロっとしててミレより背が高い。
10代後半…かな?
あの見た目と様子からすると…
「××××っ⁉︎ ××?(大橋がっ⁉︎ それで?)」
「××、×××××××××××××××…… (はい、ですがそれは時間を掛ければ越えられない物ではなかったので…… ) 」
「…ココワ?××××?(どうしたの?) 」
「……××、×××××××××…(その、瓦礫を越えた所に… ) 」
ザッザっザっ
あっ
ザっザっザ…
「…ハァっハァっ、無事みたいだね」
走って来たシロは来るなり僕を確かめた。
「シロこそケガはっ?」
僕が慌ててそう言うと、シロはニッと笑って手の平を掲げた。
はぁ…ハハハっ
『パァンっ‼︎ 』
「あハハっ」「ウハハって痛っ」
僕の嬉しさを余さずに叩きつけたせいで、シロはビリビリする手をブラブラとさせながら笑う。
流石だよコイツは本…
そう思った時自分の手首の汚れに気が付いた。
「………ぁ、で人質はどうだった?」ゴシゴシ
「ん、ほとんど無事だと思うよ多分。見たところ死んでる人とかは見当たらなかったし」
「そっかぁ良かったぁ… 」
ずっと気になっていた大きな懸念が払拭されたのに、湧き上がるはずの喜びは生乾きの血の生々しさに泥濘む。
いつもと変わらない僕を心配するシロが、いつも通り過ぎて気付けなかった。
コイツがどれだけ危ない目に遭っていたのかを…
「けどヒロ君は喜んでばかりもいられないと思うよん」
喜んでいられない?
「どう言… 」
そう思って聞き直そうとしたとき
『ドドッドドッドドッ… 』
馬蹄?
『『ドドッドザザッドザッドドッザザッドッ』』
門の中から飛び出して来たのは10人程の騎兵で、とりわけ目についたのは先頭の大男。
「ミルレラァァッ‼︎ 」
吠えるような野太い声は見た目通り。
「ダウッ」ダタタっ
応えるように駆け出すミレと、馬から急ぎ降りる大男。
って、ま、まさか…
「プフっ正解。まぁ頑張ってねん♪」パシっ
叩かれる肩。
呆然とする視線の先で、ミレは2mくらいありそうなおっさんと抱き合った。
sideミレイン
「お母さんはっ?皆んなは無事っ?」
「あぁ安心しろ。痛めつけられた奴はいるが殺された奴はいない」
お父さんは笑って言った。
「そっかぁ良かったぁ… … 」
その言葉を聞いて一気に力が抜けた。
あっそうだっ
「ヒロッ、ヒロッ、シロッ⁉︎ 」
「あ、あぁ、ミレさん…大丈夫…です」
私の呼び声に出てきたヒロの後ろにはシロも居た。
『ガシっ』
「ありがとっありがとうっ」
私は2人の手を取って目一杯感謝を伝えると
「ミレっちょっ、ヤバいって… 」
ヒロは何故だか離れようとした。
ヤバいってなに?
ザっザっザっザっ…
「ミレイン、お前を助けてくれたのはその人達だな?」
その瞬間ヒロは痙攣する様にビクリとした。
???
「……うん。この人たちのお陰でここまで来れたし、……最後までね…頑張れたの」
本当にそう…
「……そうか」
ドザ…
「この度は本当に助かった。娘も我々も。礼は改めてさせて頂く」
お父さんが片膝をついて感謝の言葉を述べると、ヒロ達は言葉が分からないからか固まった。
ザっ…
「ミレイン、お前はお2人を連れて一度家に戻りなさい。レィシンも心配しているからな」
「うん分かった。けどお父さん私も報告したい事が… 」
「あぁ勿論だ。だが先ずは街の状況を把握するのが先決だ。それが済み次第呼びに行かせる」
立ち上がったお父さんはそう言うと、団員達を引き連れて去って行った。




