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RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ  作者: neonevi
▽ 一章 ▽ いつだって思いと歩幅は吊り合わない
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1-2 Doubt Things〜 さがしもの

sideヒロ


「いえ見てないです。全く」

「まぁいいからチョット来いよ」


何の模様……ってそんな場合かっ


無遠慮に伸びてくる太っとい腕…



「お待た〜って誰?知り合い?」

「ぅあ、シロ」


「…………… 」


を伸ばしたまま首だけ動かす武闘派Pはシロを睨んだ。

じっくりと値踏みするように。


「何?なんか揉め事?」ポリポリ


けど、左手で頰の辺りを掻くシロに緊張感はない。


「え?ううん何も」

「そ。じゃオレら行くけど良い?」ポリポリ


「……フン」


相変わらず頰を触っているシロに対し、武闘派Pは少し威嚇するみたく鼻を鳴らして背を向けた。


ふぅ〜〜〜〜、何で僕って…


と過ぎ去った危険から目を離そうとした瞬間


ーーフォンッーー


ーー『『ドボンッツ‼︎‼︎ 』』ーー


はァ?


すぐそこに居た人影が車道からかき消えた。




『『『ドンッ〜〜ガッシャガザズザザァァァッツ‼︎‼︎ 』』』


そしてポッチャリを風の如く連れ去ったその塊は中央分離帯でひっくり返り、激しい火花とけたたましい擦過音を巻き散らして止まった。



「うぉわぁッヤバ、事故っ、事故だっ」

「誰か救急車っ、110番っ」

「つか今誰か轢かれたくない?」

「ウソマジで?」


天井が半分ほど潰れた車の後輪が、騒然とする現場とは場違いにゆっくりと回っている。


「ー〜っ……ぁ、…… 」


「あ〜ぁ逝ったねアレは完璧に。つか目の前でストライクとか勘弁しろよ」


言葉どころか息も詰まりかける僕の隣から、随分といつも通りな台詞が聞こえる。


行った?

いや逝った?ってそれ…


「どど、どうしようか?救急車っ、呼ぶ?」

「いやソッチは手遅れだってどう見ても。車の運転手の方は……どうだろね?てかここ離れよっか」

「いや、でも…『ガシッ』

「救急車は誰かが呼んでるよ。それにゾンビ映画で目を背けるレベルだとメシが食えんくなるよ」


ってことは、バラバ…


事故現場を見ようとする僕の肩を掴んだ警告の後


「×××××ーーーッ」

「おマエェェっコラァッ」


ビクッ⁉︎


自分が怒られたかと錯覚するタイミングで怒声が。


「ホラ。やっぱただの事故じゃないっぽいからさ、巻き込まれる前に行くよ」


「……、………… 」


そう言って返事も待たずに動き出したシロを追いかけつつ、僕は怒号の飛び交う背後へと何度も視線を動かした。




事故に吸い寄せられる野次馬たちに逆らいながら、スタスタと通りを歩いて行くシロ。


「ったくエラい目遭ったわ。けどヒロ君解ってる?」


現場から200mくらい離れ喧騒も聞こえなくなると、不意に立ち止まったシロが振り返った。


「え、何が?」


「フーーー…、さっきの事故」


事故が何だろ。


「アレがもしか故意だとしたらさ、タイミング次第でオレらもトンでたかもよ?ボーリングのピンみたくパコーンて」


「……、…ぇ?」


故意ってあの車はポッチャリを狙った?


まさか…


「いやそんな… 」


でも、もしそうだとして


" まぁいいや、ちょっと来い "


あの太い腕に掴まれてた


ーードボンッツ‼︎‼︎ ーー


ら…


「ーー〜ッ… 」


人が視界から消える程の勢いで弾け飛んだいまさっきの光景が反芻され、そこに自分も…と考えたら身が一瞬で竦み上がった。



「ま、結果こうして無事だったから…ね。んでどする?何か食べ行く?」


「…あぁ、うん、どうしよっか」


「んならとりあえず行こっか。食えなきゃ出ればいいしさ」


切り替えきれない僕を見てか、シロはそう言ってまた通りを進み出した。




……


3時間後。




ガラガラガラ

「はぁーーーっ食ったし喋ったっ。あ、シロさんゴチっす」

「あぁうんそれよかヒロ君さぁ」

「ん?」


「あのショック受けてた風は何だったの?てか太るよ?そんな食うとその内」

「シロのお陰で見てないし今日は昼少ししか食べてなかったんだよね〜」


「オレ腹出たヤツとはつるまないから覚えといて」

「へーい」


相変わらず厳しいなぁコイツは〜と思いつつもそう言うだけの身体だから言い返せない。

それに口下手な僕でもコイツとは自然と会話が弾み、普段は飲まないお酒すらも進んでしまう。


一個下だけど色々と経験値が違うんだよな〜


そんな心地良い酩酊感でほんの少し覚束ない足取り。

繁華街のネオンに揺られるようブラブラと人並みに乗り話していると、細い路地の隅に座るホームレスの人らに目がいった。



「……そういやさ、オレら小学校んときホームレスのおっさんにお菓子あげてたよね。帰り道の途中の神社で」


同じく目には止まったらしいシロが視線をきって言う。


「ん?あぁ、そいやあったような気が………なんでだったっけ?」


「………相変わらず忘れっぽいね。あん時ヒロ君落ち込んでたじゃん?」


「…え?そうだったっけ?」

「隣の学区の心中事件」


あ…


そう言われ蘇る記憶。

子供3人が親に殺された居た堪れない事件。


「そんでたまたま居たホームレスのおっさんに、"かわいそうだから持って行こ"ってヒロ君が言い出したんだよ。ジョーおじさん、憶えてない?ちょっと斜視のさ」

「ああっ‼︎ そうそうそうだそんな名前だった。ヒゲモジャで自分を指差してジョー、ジョーって言ってたね。たしか1週間くらいいたよね」


つか20年以上前の事とかをなんでそんな鮮明に覚えてんのコイツ。

僕なんか小学校の先生の名前すら出てこないのに記憶力良過ぎてキモいって。


「あん時オレら子供だったから駄菓子ばっかあげてたけど、でも今考えると普通にオニギリとかあげるべきだったよね… 」


シロは懺悔するように言う。


「いや、ビッグカツは今でもおかずとして食えるから悪いチョイスではなかったはず」

「いやいやおかずにならんから。なんで若干胸張ってんの?つか今でも食ってんの? 」

「そりゃ買うよ、コンビニに売ってんだから」


「………はぁ、んでもあのおっさんいつの間にか見なくなっちゃったけどさ…今も生きてるんかね?」

「ん〜まぁ自由な人達だからね〜、どっかに移動しただけっしょ?」


「…だろうね」


そんな風に繋ぎ合わせるような昔話しは弾み、あっという間に僕らを最寄り駅に引き寄せた。



「じゃまたね」

「ん、また〜」


電車で帰るシロとはそこで別れ、僕はマイ原付を停めた3階建ての駐輪場へ向かう。




ザ、ザ、ザ、ザ、ザ…


「はぁーーーーーー〜つ」


少し寂し気な1日の終わりを感じつつ、吐き出した呼気に混じるアルコール臭。


置いていかれてる疎らな自転車たちの間を進むと、気怠げな瞼を乗せる瞳が違和感を捉えた。


「ん?」






「ん?」





無い。


無いぞ…


そこにあるはずの愛車が。



((……、……サァーーーーー ))


首から背中を走り抜け、そのまま足下へと零れ落ちていく何か。




絶望………



この圧倒的絶望感………



ズザっ


僕は目を閉じて身体を反転させた。


ザっザっザっザっザっ…



うん。


そして巻き戻された僕はもう一度駐輪場の入り口に立つ。



ザっザっザっザっザっザっザっ…


さっきはボーっとしてたしな。


と、夕方過ぎの記憶を呼び戻しつつ歩く。


ザっザっザっザ…


ザ…


「……、……、…… 」


左右と背後を見て確認する。


うん。

間違いなくこの場所だ。



「……グぅ」


鼻の奥で鳴るぐうの音。


何の役にも立たない鍵を握り締めた僕は、寂れた夜の駐輪場に溶け込んでいく。



なに?


警察署?


この時間から?



わーーーーっ


うわーーーーーーーーっ


うわーーーーーーーーーーっっっああーーーーーーっ


頭頂部から吹き出しそうな脳内絶叫で見上げる天井は、今は無きアスベストに似た吹き付け加工。


いやダメだ、現実に戻らないと…


後回しは余計心にくる。


そう冷静な僕が訴えるけど足は動かない。

一向に動こうとしてくれない。


だから辛うじて言う事を聞く右手でスマホを操作した。


((プップップップップッ))


((プップップップップッ))


「はいはーい、どした?」


「…無くなりました。……マイ原付が」

「はぁ?マジで?迎え行こっか?」


当然のように掛けられる幼馴染の言葉。

それは思っていた以上に僕のダメージを癒してくれた。


「いや、ありがと……うん。ちょっと落ち着いて来たから大丈夫。また何かあれば掛けるね」


「うん、分かった」


そうして通話を終了した僕は、仕方がない仕方がないと心中で唱えつつ歩き出した。










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