1-25 試近責〜 Dealing
side御月
忙しい毎日は順調に推移して行くけど、時には予想通りに行かないことも多々あった。
「このポロシャツうちの客層にはウケなかったっすすみません」
デザインもカワイイこのポロシャツはカラーバリエーションも多くしかも仕入れ単価が良かった為多目に取った。
「時期的に早目に処分価格にしますか?」
「いや、そこのは出来も良いから次もある。安売りはやめよう」
でもこのままじゃなぁ。
「御月君この前仲良い同級生が高校の先生になってたって言ってよね」
「あぁはい」
「その子が部活の顧問とかしてたらさ、部員の移動着に提供してあげたら?シンプルだから学生でも問題ないだろうし、校章をワンポイントでどっかに入れるとかしてさ」
「それは喜ぶと思いますけど…良いんですか?アイツそんな良い客にならないと思いますよ?」
「けど仲良いんでしょ?」
「それは、ハイ」
「今は店の売上も悪くないしさ、儲けとは別の方向に種蒔きしても良いんじゃない?」
「じゃすぐに連絡してみますっ」
けどそれらはそんな風に予想外のやり方でオレの中に蓄積されていき
" ウソっ御月マジで?俺去年から吹奏楽の顧問やってるからさ、部員の子らめっちゃ喜ぶよぉ〜 "
そしてこの人にもっと認められたいと言う思いがまた、更なる意欲に火を点ける。
敬意と言う名の信頼感を燃料にして。
けどそれとは別に湧き上がる物もあった。
人はそんなに潔くない。
狡い生き物だろ?
オレも味わった通りこの世は騙し合いなんだって。
だからさ、過度なは期待するなよ…
と、そんな声が少しずつ少しずつと。
そしてある日、ちょっとしたイベントに軽く協賛しないかとの打診があった。
数万円でバックボードに名前を入れ、+そのイベントに関わるインフルエンサーやモデルを店に行かせ宣伝させるからという話し。
その後オレはシロさんと相談し協賛を決め、支払いをシロさんにお願いした。
1月後、協賛したイベントは無事に終わった。
……
…
それから数日後の飲み会。
「そう言えばこの前のイベント、御月さんの所も協賛してましたね。お互い顔でいけたみたいで良かったですね」
知り合いが指先を擦り合わせニヤついた。
コネ…ね。
オレは笑いながら話を合わせつつ、この小さな変化の行く末に想像を巡らせた。
……
…
翌日。
「お疲れさ〜ん」
シロさんが店に来た。
「お疲れ様です。そいやシロさんこの前のイベントどうでした?新規のお客様来ますかね?」
「…ん〜、あれシャンパンイベントだったからね〜。あんま期待はしない方が良いよ」
シロさんは笑って言う。
((ドクン、ドクン、ドクン、ドクン… ))
逸る鼓動を感じつつ、オレはシロさんの表情を窺い…
そして口を開く。
「…でも、数万とはいえ出した協賛金分は来て欲しいですよね〜」
"まぁ宣伝なんてそんなもんだよ"
それとも
"だね。来てくれると良いね〜"
なんてサラッと言うのか…
「あぁ…… 」
良いんだよそれが当たり前だ。
この店のオーナーであるシロさんは立ち上げ資金だって全て用意してるんだし多少出入りする場所が違ったって財布は同じ。
けど、協賛金が掛からなかった事実は揺るがない。
「そうそう……はいコレ」
そう言ってシロさんは傍らのバックを漁り、そこから取り出した封筒をオレに渡して来た。
「何ですか?これ…… 」
差し出されたそれを取り敢えず手に取る。
「元協賛金と言う名の慰労金。結局タダで出してもらえたからそれ御月君が使いな。頑張ってるからね」
「………あ、りがとうございます」
「うん。そんじゃオレちょっと出るからあと頼むね〜」
そう言ってシロさんは店を出て行った。
「………… 」
確かに金に執着しない人だと思うけど、これはこれでどうなんだ?
いや、勿論ありがたいんだけど…
またも予想に反した結果を受け、オレは手の中の封筒に不思議な重たさを感じた。
……
…
一月後。
「おぉ御月さんお疲れ様です。そちらは最近どうですか?調子良いって聞いてますけど?」
「いやいやまだまだ全然です。大変ですよ〜」
まぁ実際悪くないからの噂なんだろうけど、調子に乗ってると見られるのは厳禁だ。
「ハハハまたまたぁ。あっ、そういやこの前御月さんの所のオーナーさんとご一緒させて頂きましたよ。めちゃくちゃ酔っ払ってバリバリ女の子に絡んでましたけどねアハハっ」
「っそうなんですか⁉︎ 絡んでたってどんな感じでした?」
シロさんの見たことのない一面が聞けるっ
オレは湧き上がる興奮を抑え切れなかった。
「いやぁベロンベロンでめっちゃ口説いてましたよ。けどまともに会話になっていなかったですからね〜、あの感じじゃフラれたんじゃないですか?けどあの日は…〜〜」
その後の話はどうでも良かった。
シロさんが女の子に嫌がられた。
あのシロさんが……
またオレの中の仄暗い気持ちが燻り出す。
……
…
数日後。
店に来たシロさんといつもの他愛ない話しをした後、オレはタイミングを見計らって切り出す。
「そう言えば先日の飲み会でシロさんの話しが出ましたよ」
「そうなん?」
「◯◯さんって覚えてます?」
「………誰?」
だと思った。
シロさんの方は見て呉れからもすぐに覚えられるからなぁ。
「なんか飲み会で一緒になったらしい人なんすけど」
「飲み会って言ったらあの日か…… 」
「なにかあったんですか?」
ため息混じりに顔を顰めたシロさんに、オレは素知らぬ風で先を尋ねる。
適当に流されるか?
もう一歩突っ込むべきか?
そう考えを巡らせてると
「いやあの日久々に酔っ払ってさぁ、初めて会った子に鬼口説きしちゃったんだよね〜」
「えぇっ⁉︎ 珍しいっすね。そんな可愛い子だったんですか?」
っ…
ちょっと大袈裟だったか?
「……普通、と言っとくよ」
「なら中の上ですね」
「いや。途中から記憶飛びっ飛びでアレだけど、正直全く好みじゃなかったんだよね。なのにフラれたって言う」
「……でも皆んなの前だから乗らなかったってだけで、女の子も内心喜んでたんじゃないですか?」
オレは擁護するように誘導する。
「いやいやナイねあれはナイ。自分でやらかしといてなんだけどさ、途中から相っ当ーヤバかったからね。マジで前後不覚のしつこいキモ男。でも止まんなかったんだよなぁ〜、はぁ……深酒なんて何も良いことなしだよ、ホンっトに」
シロさんは苦笑いしながら言った。
「………… 」
「…ん、御月君どした?」
ワケが分からない。
「なんで隠さないんですか?」
「ん?なにを?」
「酔ってたんだから誤魔化せばイイじゃないですかっ。フラれたなんて言わなくたってっ」
思わず喉が震えた。
「ぉぉ、どしたどした?」
「あっ、いえ…すみません。けど… 」
「そりゃオレとしてもショックだったよ。今思い出してもちょっと悶えそうになるし。でも事実だからさ、トボける方がダサいじゃん」
シロさんの顔を見れなかったオレは俯いていたけれど、その時の視界は何も捉えていなかった。
何だよ…
何でこうなるんだよ。
人は自分の都合で生きている。
誰だって傷付きたくはないんだから。
だから嘘じゃなくても隠すくらいは普通にするし、そのくらいしたって誰にも咎められはしない。
なのに…
「…シロさん」
「ん?」
「…オレ知ってたんです」
「なにを?」
この時のオレは何も考えられなくて…
ただただ理解の出来ないこのやり取りに必死に追いつこうとしていた。
「先月のシャンパンイベントの件。協賛金が掛からなかったことを知っていたんです。知っていてシロさんにカマをかけるような事言ったんです」
言って…しまった。
そして言い終えた時にそう思ったオレは、何でこんな事を始めたのだろうかと自分で自分が解らなくなってしまっていた。