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RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ  作者: neonevi
▽ 一章 ▽ いつだって思いと歩幅は吊り合わない
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1-21 呑人智〜 Decide

side御月


「………… 」


あんま言いたかないけどさ、やっぱこの子は別格だよなぁ〜


「ん?何?」

「あぁ、いや、今日も可愛いなぁと思ってね」

「あぁふふふっ、ありがとう」


肩に掛かる髪を手で流すユウキちゃんは自然な笑みを浮かべるけど、全く心に響いていないのが分かった。


まぁありきたりな美辞麗句なんて聞きたくもないか。


「じゃ行こっか?すぐ近くだから」

「あぁうん、よろしく」


街行く人とすれ違う度に彼女に止まる視線には、同性のものも多く含まれていた。

それは正しく羨望なんだけど、彼女にそれを気にした素振りは一片も無い。


そんなことを考えつつ歩いていると、本当にすぐ近くの店へと入って行った。


和食か…



ウィーーン

「いらっしゃいませーーっお2人様ですか?」

「いえ、待ち合わせなんですが…あ、居た居た」


彼女は店員さんに会釈して通り過ぎると、見つけた相手に手を振りながら近付いて行く。


「シロさんゴメンね〜お待たせ」

「いや、オレも今来たところだよ。ありがとうねユウキ」


あっ⁉︎


「はい座って座って……じゃ早速紹介するね。彼が話してた御月君。前々から服が好きで、本当はファッション業界に携わりたかったんだって」


そう言ってユウキちゃんが紹介してくれたのは、さっき目の前を通り過ぎたカッコいい人だった。


…この人だったんだ。


「…あっすいませんっ、御月と言います。今日はよろしくお願いします」

「シロと言います、こちらこそ。飲み物頼もうか?食べ物も好きなの頼んでね。遠慮とかせず気楽にしてくれたら良いからさ」


シロさんと言ったこの人は、見た目にそぐわない落ち着いた声で優しく言った。


「わーい、頼もう頼もう御月君。わ、蟹もあるじゃんっシロさん頼んで良い?」

「何でもどうぞ」

「やったっ」


ユウキちゃんが嬉しそうにそう言うけど、なんだかめちゃくちゃ緊張する。


「………、…、……… 」


オレはユウキちゃんが広げたメニューを見つつシロさんをチラ見する。


ファッション系?ってより……何だろ?

なんか良く分からない不思議な雰囲気のスタイリッシュさを感じる。


「じゃ、店員さんを呼ぼっか?」

「うん」

「お願いします」


オレはあんま人に緊張しない方なんだけど、この人…静かなんだけど立ち振舞い?に隙がなくてちょっと怖いな。



「「「お疲れ様ぁー〜」」」

カツンカツン


「じゃ私はこれから食に徹するからさ、そっちは2人で好きなだけ話しちゃって下さい」


そんなユウキちゃんの振りからオレは、このシロさんと言う人に順を追って話し始めた。


嫁と子供がいる事。

5年間会社に勤めている事。

最近嫁に逃げられて離婚した事。

そして仕事を変えて人生も変えたい事を。


その間シロさんは頷きながら、ひたすら静かに聞いてくれた。



「本当に辞めていいの?」


一通り話し終えたオレを見て、シロさんは穏やかにそう言った。


「えっ?あ、はい」


いや、そっちも人探してるんでしょ?と内心思ったけど、オレはそれを顔に出さないように答えた。


「……そう、か」


シロさんは短くそう言った。


オレはシロさんの表情をジっと観察したけれど、抑揚のないその言葉の意図するところが分からなかった。


そしてその後も料理をつついていると、もう1人オープンに協力する人が来ると聞かされた。


「やるかやらないかは今決めなくて良いからね?とりあえず今日はこっちの事を知ってもらえたらって感じだからさ」


今日は3人だと思っていたオレの戸惑いを察してか、シロさんは空かさずそう言った。


オレそんな顔に出てたか?


「えぇ〜、御月君お勧めだよぉ。シロさんは御月君ダメなの?」

「ははは、ユウキは相変わらずストレートだね。いや、ルックスとか雰囲気は申し分無いんじゃないかな?ただ会ったばかりじゃそれ以上分からないってだけだよ」

「そう?なら良いけどっ」


テンションの変わらないシロさんにそう言ってから、ユウキちゃんは笑顔でオレを見た。


食に徹すると言いながらこう言う気遣いを入れてくれるのは助かる。



……


1時間後。



「チィーッスお疲れーース」


「……… 」


明らかにチャラい怪しいお兄さんを見て、完全に嫌いなタイプ…と瞬時にそう思ったけど、絶対に顔には出さないようにした。


どうやらと言うか見たまんまイベントとかを手掛けているこの人は、ユウキちゃんも認めているかなりやり手の人…らしい。


「シロ君この男の子?良いじゃん良いじゃん、可愛い顔してるし」


この安定の軽チャラで褒められても…


オレは瞬きを忘れていた。


「……そうだね」


それに対しシロさんは短く答えた。


「………… 」


てかどっちなの?その反応は。


と思っているオレを置いて、その人はその後も1人喋り続ける。


あの社長がヤバいとか、あのモデルの子が裏ではどうとか、とにかく矢継ぎ早に色々と。


オレは興味ある様に相槌を打ちながらシロさんを見る。

目が合うとシロさんは軽く苦笑いを返してくれた。

なんか嬉しかった。


「んじゃこれから宜しくぅ、絶対上手く行くからねっ。ってことでこれからお祝いも兼ねてクラブで飲もうか?あそこのVIP押さえるから乾杯しようよ」


そう言って唐突に場所を変えることになる。



「ご馳走様でしたっ」

「ご馳走さまです」

「シロ君ゴチィ」


店を出るとユウキちゃんはここで帰ると言った。


((御月君、シロさんは間違いない人だからね。頑張って))


最後にそう言って。






「ではこちらのお部屋をお使い下さい」


この街にいくつもあるクラブの中でもかなり大箱のVIPルームに通されソファーに座る。


入れ替わりに入ってきたボーイの子は既にシャンパンを持ってきており、テーブルに並べられたグラスへと次々に注いでいく。


シュワシュワと軽快に泡立つシャンパンは優しく調整された光で金色に輝き、ギッシリと氷の入ったワインクーラーは薄桃色の妖艶な光を纏う。


「んじゃ「「カンパーイ」」」


ゴクっゴク…


うん、シャンパンはまだ飲みやすいな。


ゴクっゴクっ


ふと見るとチャラいお兄さんは片膝をついたボーイの男の子に何かを耳打ちしていた。



そしてその後また取り留めない話をしていると…


『コンコンコンっ』

ガチャ


「失礼しまーす」「「しまーす」」


元気な声の女の子3人が、軽く頭を下げて入ってきた。


え?

なに?

キャバクラじゃないよね?ここ。


そう思ってると、不思議そうなオレの顔に気付いたチャラいお兄さんが


「ボーイの子にお酒好きそうな女の子に声掛けてもらってんの。彼女達はVIPでタダでシャンパンが飲める。ボクらは可愛い女の子とタダでお喋りできる。win-winでしょ?」


そう言ってニカッと笑う。


今時ウィンウィンとか言うやつマジヤダわ。


と今日何度目かの感想を抱く


「隣、いいですか?」


オレの真横から良い匂いがカットイン。



ゴクっゴクっゴクっ

「っぷ……へぇ、ここよく来るんだ?」

「そうそう新しいしね」


元々酒をあまり飲まないオレは緊張も相まってかあっと言う間に酔い、隣の子ともいつも以上に打ち解ける。


おぁ〜〜〜…

仕事の紹介って意気込んでいたけど、だんだんとテンション上がって来た。



「お代わり持って来ちゃってぇ〜 」

「「「わぁーーっ」」」


チャラ兄のノリではしゃぐ女達。


街スゲェなっ

キャバクラなんて行く必要ないじゃんっ




……




その後は酒のせいもあって細かくは覚えていない。


「オレはそろそろ行くよ」


ある程度時間が経った頃、シロさんはそう言って席を立った。


あっ、終わりか…


やや覚束ないオレも席を立とうとすると近寄って来たシロさん。


((女の子くらい口説けないと商売は出来ないよ))


そう囁いて去って行った。


薄暗い中でしかも酔っ払っていたけれど、オレはあのシロさんの悪戯な笑顔を忘れない。

言い方は軽かったけど、あれはシロさんの何かが込められていた…気がした。


「……フゥッ…し」

「アハハどうした?大丈夫?」


その一言でもう一度火がついたオレは、隣の子とクラブを出てからも2人で飲みに行った。





……




翌日




「ふァ〜ぁ、気持ち悪ぃ… 」バサっ


二日酔いでベッドから起き上がる。


スマホを確認するとメールが二件。

オレは迷わずシロさんのから開く。


[ お疲れ様、昨日は楽しめたかな?オレが言うのもなんだけど、仕事は辞めない方がいいと思うよ。もう一度良く考えてみて。それでも気持ちが変わらないのならまた連絡を下さい ]



「…………… 」


これ、オレじゃダメってことなのかな?


そんな考えが真っ先に浮かんだけど、オレはシロさんに言われた通りもう一度考え直してみる。


だけど最終失敗しても再就職するだけの話。

1人になった今のオレ……いや1人になれた今だからこそオレは好きに生きる。

やり直しはもう始まってるんだから。


そう結論付けたオレだけど一応…


[ とても楽しかったです。ありがとうございます。もう一度良く考えてみます ]


と返事をしておいた。




「ぁイツツ……、頭いてぇ」


酒はやっぱ合わないなぁ。



[ 昨日と言うかさっきはありがとう。飲み過ぎて覚えてないとか怒るからね。またいつでも誘ってね〜待ってるっ ]


久し振りの朝帰りで体調は最高に最悪。

だからかすぐには気が付かなかったんだ。


昨日までずっと張り付いていた、あの虚無感が消えて無くなっていた事に…








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