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RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ  作者: neonevi
▽ 一章 ▽ いつだって思いと歩幅は吊り合わない
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1-16 One & Toe〜 双離ボッチの戦い

sideヒロ


「ミレっ‼︎ 逃げるよっ」ザっザザっ…


様子見をしていた最中に突然動き出した敵たち。

それは明らかに僕らの方へと向かって来てた。


気を付けてたのに何でだよッ


「ミレッ」


「…………フゥッ、やる」


でも僕の言葉を一蹴するミレの目は完全に据わっており、ダラリと脱力させた身体は完全に戦闘態勢への移行を示していた。


「っ… 」


ダメだっ

ここでミレと一緒にヤツらと戦って、よしんば上手く倒したとしてもここは敵のテリトリー圏内。

必ず増援が来る。


そうなったら更に厳重な警戒態勢が敷かれ僕たちの目的である人質の解放は一気に困難になる。

そもそも正直言って正面から戦って勝てる自信なんて僕にはない。


猶予はあと2〜3分っ


ッ…


なら…


グイっ

「ミレっ、聞いてっ」

「…………」


ミレの腕を掴み言うけれど、ミレの反応はほとんどない。


『ガシィィっ』

「ミレっ、お願いだから聞くんだッ‼︎ 」


僕はミレの両肩を目一杯の力で掴みこっちを向かせた。


「ヤツらを倒したって家族は助けられないっ、だろッ?僕らがここへ来たのは何の為なんだッ」

「…ヒロ」


ここで漸くミレは僕を見た。


「敵にとって予想外なのはミレが生きてること。だからそれを知られちゃダメなんだッ。分かる?」


僕はミレの胸を指で突き、その手を払うように振り動かす。


伝わったかっ?


「……うん、わかる」


良しっ


「そして何も知らない僕はもし捕まっても怪しまれにくいっ。それに大丈夫、捕まったりしないから…ね?だから今は、ミレが先に逃げるんだっ」


コレが今のところの最善。

出来るだけジェスチャーを交えたんだけど…


伝わったか?


「……っ…ぁ…… 」


ミレは口をパクパクさせて何か言おうとするけれど、目を伏せて首を横に振った。


クっソォっ

何で解ってくれないっ

2人で逃げれば見つかる可能性が高いのにっ


『ギュグゥゥ… 』


焦る僕の手は無意識に胸にいき、自分の襟元を虚しく引き掴んだ。


どうする?




どうすれば1人で逃げてくれる?




ミレを動かせる言葉は?

可能性を示せる材料は…


何か…


何か「…っないのかっ」


思考が思わず声になったけど、頭の中は止まらない。


『ギュっ』

「ヒロ、ありがとぅ… 」


そんな時突然僕の手を握るミレ。


何っ…だよそれっ

諦めたようなその顔はぁあっ


僕は諦めて無いんだよおォッ



"ハァ…またトラブル?"


その時降って来たいつもの声。


ッ…


「………シロに、シロを呼びに行ってッ」『ドンっ‼︎ 』


そう言って僕はミレの両肩を強く押すと…


「早くっっ… 『ギュゥゥッ』ぅっ⁉︎ 」


彼女は僕を強く抱き締めてから背を向け走って行く。


ダダダっダダダタタっ


ダタタタっタタタ…


元来た方へと。



「……ふぅ〜」


良かった、伝わった。


遠ざかって行く彼女の背中が木々に消えるのを見送りつつ、僕は気持ちを入れ替える。


あとは僕も捕まらなければ尚のこと良しなんだけど、…2人でいたのは正味5日間くらい、かな?



((ドクッドクッドクッドクッドクッ))


「スゥーーっ、ふぅーーーーー」


「スゥーーっ、ふぅーーーーー、スゥーーっ」


早まる心臓に手を当てて、ゆっくりと呼吸をする…


「ふぅーーーーー、スゥーーっ」



こんなに緊張する鬼ごっこは久し振りだな。






sideミレイン


「ミレっ逃げるよっ‼︎ 」


ヒロは言った。


逃げる?何処に?


それに逃げてどうなる?

逃げてもまた1人になるだけ。


「…………フゥッ、やる」


私の覚悟はとうに決まっている。


だからここから奴らに思い知らせる。

(最期)復讐(足掻き)がやっと始まるんだ。



「ミレっ、お願いだから聞くんだッ‼︎ ヤツらを倒したって家族は助けられないっ。だろッ?僕らがここへ来たのは何の為なんだッ」


でもそんな私をヒロは強く嗜めて、そして私が生きている事を知られるなと言った。


確かにヤツらは今度こそ私を確実に殺すか捕らえるかまで諦めない。


でも味方も策もない私が、1人逃げた所でどうなるの?

周囲の街だって封鎖してるに決まってるし、ここからもう一度衛都を目指せと言うの?

今更?


いいの。

もういいの。



貴方が差し出してくれた甘いパンとお茶。


それが不甲斐ない私をどれだけ癒してくれたことか…



"ミレェェエッ、ミレッどこだぁあっ、ミレェエーーーッ"


必死に追い掛けて来てくれて叫ぶ声。


あれが独りじゃないんだってどれほど勇気付けてくれたことか…



"僕はミレの家族をこのまま放っては行けないよ"


任務の遂行に囚われて動けない私の鎖を貴方のこの言葉が解き放ってくれた。


だからもうそれで充分……



何度も何度も私を救ってくれた貴方を、こんなところに1人捨て置けるわけがない。

この人を守れれば、私が死ねばヒロには帰る場所があるのだから。


「ヒロ、ありがとぅ… 」


私はヒロにこそ逃げて欲しいのだと伝えようとしたその時…


「…………シロに、シロを呼びに行ってッ」『ドンッ⁉︎ 』


そう言ったヒロは鬼気迫る形相で私の両肩を突き飛ばした。


なのにその目の奥には怯えが…


やっぱりダメ「早くッっ‼︎ 」


そう続けたヒロには絶対に諦めないって覚悟が見て取れた。



…ー〜ッ…


私こそ覚悟を決めたはずだったのに…


でも、ヒロのこの顔を見たら…


もしかしたらと言う希望が…


また湧いてしまった。



私は身体中に溢れるありったけの感謝と、ヒロの無事の願いを込めて目一杯彼に抱きついてから走った。




『ダダダタっタっタっタっタ… 』


私は間違った選択をしたのかも知れない。


でも、今のこの思いだけは絶対に間違えてないと信じられる。


その感情が私の足を強く動かした。




……





「ハァッハァッ、ハァ、ハァッ」


ザッザッザッザッザッザッザッザッ…


森の中には入らないように平地との際を全力で走る。


平地にも平地の獣が徘徊しているけど、森の中に比べれば圧倒的に少ない。

それに日中はそれ程活発に動かない。

テリトリーを荒らせば動きだす凶暴なものも多くいるけど……だから気配に細心の注意を払いながらも全力で足を動かすっ


『ダッダッダッザッザッザッザ… 』


早く静かに、一歩一歩を力強く踏み出す。




……





ザっザっザっザっザっザっダザっザっ

「ハッハッハッスゥ、ハッハッハッスゥっ」


休む暇のない肺は熱く乾き、その乾きは痛みに近い苦しさにすぐ変わった。


一縷の希望が突き動かしたこの足も、時が経つほどにのし掛かる不安で重くなる。



ザっザっザっザっザっザっダザっザっ

「ハッハッハッスゥ、ハッハハッハァスゥ… 」


そして追っ手から離れ頭に登った血が落ち着くとどうしても考えてしまう。


ここから私の足で休まず走り続けても丸1日は掛かる。

それからあっちでシロを探して見つけ、事情を話し一緒にまたここまで戻る。

おそらくどんなに上手く運んだとしても往復に3日…



ザっザっダザっザっザっザっザっダっザっ

「ハッハッハッスゥっ、ハッハハッハァスゥっ… 」


仮にあそこでヒロが逃げ延びてくれたとしてその後は?


森は危険だと教えたけど平原だって安全ではない。


それに私が牙鱗種(ゲザーリ)を殺した時も茫然と立ち尽くしていたヒロは戦える感じじゃない。

身を守る術がない。


食料だってもうほとんど…


ザっザっザっタっザっ

「〜〜〜ッ、ぅぅっ」


考えるほどに不安が渦巻いて…

何かが刺さったような感情に涙が滲む。


それは疲労より息苦しさよりずっと重くて辛い。


今すぐ戻ってヒロの下に行くべきじゃないの?


何度目かも分からない囁きが私を惑わせる。


ザっザっタっザっザっザっ

「〜〜ッ、大丈夫、大丈夫っ」グっゴシゴシ…


その度にあの時のヒロの顔を…言葉を思い返して目元を拭う。



「………… 」


時おり獣がこちらの様子を見てるけど、それを警戒するよりも私は足を動かし続けた。




……






ザっザっザっザっ

…「ハァ…ハァハァ… 」



…ハァハァ、ハァ…




たまの休憩で水分を摂り、一晩中走り続けてやがて朝になった…



…後、もう、すこ…し…

急がないと…



いそがない、と……




……





ザっ…ザっ…ザっ…ザっ…ザっ…

「ハァ、はァ、ハぁっ…はぁっ… 」


もう棒みたいな足は地面を突く振動を伝えるのみで感覚もよく分からない。


汗も出なくなってきた。


それでも走る。


それでも止まらない。



ザっ…ザっ…ザっ…ザっ…ザっ…

「ハァ、はァ、ハぁっ…ハァァーーーッ… 」


絶対に顔は下げないっ


この一歩が、この1秒がヒロを助ける事になるかも知れないから。


ヒロはきっと待っててくれるから。





… … …



… …






その後も走り続けた私の身体は…



次第に考える余裕すら…



奪っていく…





…それでも…手を振り…続け…




…地面を蹴り出す足は…




…決して…




止めない。




絶対に。









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