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RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ  作者: neonevi
▽ 四章 ▽ イエナイ疵痕は穏やかに心蝕す
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4-17 ミReイン〜 P ride you

10/22

副大臣ご就任、心よりお祝い申し上げます。

sideミレイン


女性のような真っ直ぐの長い黒髪に隠れ、その奥の表情を窺い知れないアスワン隊長。

しかし、体毛が逆立ってくるその威容は、上位の(ヅワム)を前にしたようで


「テンメェ〜クソロン毛ェ……、そりゃ〜一族の総意か?」


ここまで鎧袖一触に敵を蹴散らしたブレィアスト隊長にすら、隠せない緊張感を滲まさせた。


その時


『カランっ』


唐突に剣を手放すバルハト。

それは襲い来る侵入者を自ら追い払い、待っていた切り札が到着した余裕からなのか。


「ー〜っ… 」


最悪のタイミング。


出遅れてしまったことを悔やみつつ、ならばと力を入れかけた私の目に映し出されたのは、一分とて予想だにしていなかった光景。


「ゴコっ、な、なん…だ?コレば… 」

ポタポト、ポタ〜ボタポタポタっ


ゆっくりと向き直ったバルハトの首と口からは、ゴポゴポと湧き水の如き血が溢れ出していた。


「「「「「「「「「…な‼︎⁈ 」」」」」」」」」


逃げたと見せかけて、斬ったの?


「バ、バルハト様ぁぁーーーーーーーっ」


顔をクシャクシャにした内政官が悲鳴を上げる最中、返り血塗れで窓から現れたのはシロ。


ガシィギュゥゥ

「ングー〜ぅっ貴ザマっ」


彼は虚ろなバルハトの背後から組み付き、頸部を締めつつ剣を突きつける。


「「「「〜っ… 」」」」


「抵抗すれば即座に殺すッ‼︎ 」


立場が一転。

動くか動かざるべきかと狼狽える敵達にシロが釘を刺した時、その目線で人質が捕らわれている部屋へと駆け出す。

すると咄嗟に敵も臨戦態勢に。


ダダタタタッ

「邪魔ァァーーーーーー‼︎ 」


このチャンス、無理矢理でも突破す


「ミレイィンッ」


鬼気迫る近衛騎士隊長(リュレィヴナー)の声に反応し、強引に上半身を捻った瞬間


る‼︎⁈


ーシュオッフォンッー


踊る様に迫り来る高速の二刃。

反射的に両腕でガードするも


ーー「ーッ⁉︎ 」ーー


突風の如きそれは私の髪を掠って先へ飛び


「ガぁっ‼︎ 」「ゥコっ⁉︎ 」


応戦しようとした側近らに突き立つ。


アスワン隊長は味方?と混乱する思考を着地と同時にかなぐり捨て、敵の脇をすり抜け更に


「早…⁉︎ 」


内政官の前に立つ敵を一歩で躱し


ーザシュ

「ギャっ『ゴシャ‼︎ 』ーぶゴぉッ」ードタッ


剣を突き付ける内政官(ヤツ)の腕を下から斬り上げると同時に地面を蹴り、渾身の飛び蹴りを顔面に見舞って吹き飛ばす。


「キャァア‼︎ 」「こっちへ来なさいっ」

「早くっ」


慌てふためく家族達は部屋の隅へ。


そこからは一気呵成。

ブレィアスト隊長アスワン隊長、そして奮起するマルソラ隊長らも加わり、執務室にいた側近達は一瞬で制圧された。



「ミポロぉっ」「ウリオラっ」


解放された家族と抱き合う隊長らを横に、ホルスに命を助けられたと言うシロは


「前線で部下を守るのは導く者じゃないィ?それなら取り巻き連中のザマはどうだ?お前の写し鏡だぞ」


膝の崩れたバルハトの耳元で、思う所をぶつけながら揺する。


〜「ー…ー〜… 」〜


「ホルスの父さんもホルスも、託せられる人がいるから、続いてくれる人々が居るから命も懸けられたんだ。そしてそう言う一人一人は、オレはッ〜、…後ろにいる全てを全霊で守ろうとする背中に、紡がれてここに居るんだよッ」


しかしその怒りと同様に溢れ出る出血は、彼の意識を完全(とう)に断ってしまっていた。


「シロ、白目剥いてるし……多分… 」


「え?嘘…… 」





△△△△△△△△△△△△




「ーで、大義をなくした敵はその他の反乱ぶんしだっけ?もふくめ全員捕らえられ、衛都(レィレン)のくーでたーも終わり」


ここまで話していても巳邦は、元兵士と言うだけあって余り表情を変えなかった。


「バルハトは… 」

「死んだよ。シロは殺すつもりじゃなかったみたいけど、そもそも衛主(レィド)への反逆はとくべつ無く極刑。だから兵士ですらない彼には、前もってもっと強く言っておくべきだった。はじめから殺す気で行って、無理ならそく逃げてって。……どう?元兵士でも引く?」







side巳邦


簡単にと前置きしつつ、彼女も話していく内に熱がこもり、その内容はどんどん詳細になっていった。


凄惨な赤と非情な青。

それに残酷な黒を混ぜ合わせた殺るか殺られるか。


「元兵士でも引く?」


引く?


「ヒロはね、これ聞いたときあぜんとしてた。荒事に縁がないからって言って、青い顔をしてね…フフ」


けど問われて驚くくらいに、私の胸の燻りは仄か。


「率直に…とても複雑な感情と、疑問が浮かんでいます」


何故ならそこは、一瞬のミスをした者と、一瞬も躊躇をしなかった者とで運命を分かつ死の狭間。

本物の戦場。


「ですがそれよりも重く、とても重く受け止めました。シロさんやミレインさん達が、命懸けでくぐり抜けた生々しい戦いの数々を」


だからなにより私が感じたのは、遮二無二費やされる生身の熱量。

ただ生き残るためだけに躍動する命。


「そう。で、疑問って?」


本当は、敵を直接手にかけたシロさんの様子が気に掛かった。

数日前、地底に来る前の。


「シロさんは……結局なんで言葉を話せたんですか?あと衛都(レィレン)に向かっているビダンって人や、ホルスさんを殺した連中は捕まったんですか?」


けどきっと、あの人はそれを見せなかったろう。

今日までと同じく強過ぎるその信念で、自身の喉元まで縛り付けて。


「あ〜言葉はね、そのホルスの記憶が急に流れてきたんだって」


「…記憶が、…そんな」

「そうなるよね?知らない記憶が浮かぶってのはたまにあるけど、言葉が話せるのは変だよね。聞いたことない」


変…と聞いて私は、地底で傷を治してもらった事を思い出す。

それに、行方知れずのリュウコウさんって人に会ったという話しも。


シロさんは、一体何者なんだろうか?

あの黒装束に誘導されてる気もするし…


「でもそんな変人だから、フラエ初の高級な勲章をもらった」


そうか…


「そうですね、変人ですね」


例え誘導であれ何であれ、今は行くしかない。


理解の及ばない事象を深刻に捉える私と違い、余りにあっけらかんと言う彼女のその評価は、モヤのかかる私の胸にスッと染み込んだ。


「フフ、それじゃあとの話しはまたにしよう。長くなったから」

「あ、はい」


「ねぇミクニ?私、結構貴女のこと好きだから、出来ればもっと普通に話してよ。友達みたいに呼び捨てでさ」


そう言われ、気恥ずかしさと共に意図しない苦笑いが浮かぶ。


「ぁ〜〜、うん……ミレイン」


けどそれは、気品を纏う目の前の彼女に対してではなく、らしくなく間抜けだったさっきの自分に。


" あ〜と、急には難しいから少しずつで "


しまったな。

シロさんもこんな気持ちだったか。




そうして新たな防具を身に付け元の部屋へ戻ると、耳を刺すがなり声が飛び込んで来る。


「つか何でシロさん巻き込んだ張本人がよぉ、たかだか数ヶ月でケツまくってんだ?約束したんだろ?頑張るって」


「まぁ人には向き不向きがあるし…。それに何か引き抜かれたらしいからさ、頑張った結果だろそれも」

「い〜や、だとしても納得出来ねー。シロさんだってイカってたろ?さっき。本当にシロさんのダチなんかよソイツ」


どうやらこっちでも過去の話をしていたらしい。


「ザックボー」

「×××××××××××、シャシャシャ(儂は聞かれた事に答えただけですわ)」

「おぉそうだぜっ。ザックボーは正直に答えただけだ、根性無しってよおっ」


愉快そうに笑うザックボー氏をヤマが援護。

言葉通じずとも結託する2人を見て、ミレインが苦い顔をする。


「アンタ面倒クサイ。何をどこまで聞いたか知らないけど踏み込み過ぎ」


「お前のよ、他人に関心の薄い所は嫌いじゃねー。けど世話になってる人間の問題に、棚上げ放置で知らん顔は違うだろ?」


「知らん顔はしない。けど私らはあくまで部外者」

「だぁ〜かぁらぁ、それが違うってんだよっ」


「…シロさんとミレイン、当事者2人が困ってるのが分からないの?」

「上等‼︎ 俺ぁ気に入らなきゃ他人の鼻の穴だろーとケツの穴だろーとほじり倒してやんよ。けど困ってんは本当に俺にか?違ぇっ、この拗れた出来事についてだ。確かに前提としてこっちの人らにとっては恩人かも知れねぇ。けど、それがあるからって何しても良いんか?文句も不満も飲み込めってか?」


「それは違う」

「だろ?だから切っ掛けを作った人間ってのは、関わってくれた人らの気持ち(てまえ)ってやつを忘れちゃなんねーんだ。ましてミレイン嬢とウインザ団長は、右左どころか言葉すら話せねーヤツの、仕事から生活まで丸ごと世話をしてたんだぜ?期待とか努力とか成長とか、人生なんてのは上手く運ばねーもんだろ?だから行き詰まって、色んなもんが裏返って、喚き散らしたくなって当たり前で、そっからがホンモンの勝負なのにいきなり跳ぶだァ?ザケてンじゃねェッ」


確かにさっきのミレインの話しぶりからは、無関係な2人を巻き込んでしまったと言う思いが強く感じ取れた。

その彼よりも10以上歳下なのに。


「シロさんだって自分のことならアッコまで怒んねぇ。でもってダチならそう言うシロさんの性格だって分かってんはずだよな?ならなんで前もって現状(それ)を相談に行かねぇっ。誰のお陰で得られた結果なんて言うまでもねーだろがっ。つまりソイツはよ、自分可愛いいつも被害者面の甘えん坊なのさ。ガキならいざ知らず、いい歳こいて人の顔の上を平気で歩くなんざ下の下。クソオブクソ。会わずともゲームオーバーだッ」


言い切ったヤマは顔を歪め、中指の立たせた腕を床へと振り下ろした。


ミレインの為人を知った以上、ヤマの意見にはより同意する。

同意するけどでも、同時にシロさんの幼馴染への同情も湧いた。

ミレインから聞いた中の彼の印象は、シロさんに比べると随分一般的に思える。

だとすると容姿・教養・人柄の全てが備わった彼女と、彼女を取り巻く普通では無いこの環境にいきなり入り、向き合ってやって行くというのは普通に厳しいし、この結果は仕方がないとさえ思えるから。


「……そうだね、ヤマの言うことももっともだ。けど今は武器選ぶよ武器」

グイっ

「ッ〜分ってんよ、あんま引っ張んな馬鹿力」


掴まれたのを嫌がるよう肩ごと回すヤマ。


「…………。なぁ、コレ良いか?」


「××××××、××××××××××××?(良いけどシロ、双剣は実戦だと扱いが難しいわよ?)」

「××××××(それなら問題ない)」


「×、××××××××××?(ねぇ、貴方明らかに強くなってない?)」

「××?(そうか?)」

「××××、××××××〜 (何その顔、教えなさいよ〜)」


ミレインとウインザ団長とシロさんは、その辺りも含めて話していたと思うけど、それでも大人だからこその枷に捉われ過ぎるな、呑み込み過ぎはおかしいとヤマは熱弁した。


「さてさて、俺はどれにするべかな〜?……、……お?クソカッキーの発見っ」


物色するヤマが嬉しそうに手に取ったのは、三又の武将のような重厚な長槍。


本当アンタの言う通り、世の中は思うように運ばないよ。

でも主観であろうとも、堂々ぶつかれる真っ直ぐさには人を打つモノがある…か。

コイツのそう言う所は私と真逆だな。


「いやアンタ、そんなのを持ち歩いて行くつもり?」


「ち、違ぇよっ。こんなん見たらテンション上がんだろがっ」


「ハイハイ」







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