4-16 ミReイン〜 T Reason
sideミレイン
これで内裏2の側近1。
急がないと。
「ミレイン様までここまでとは…ハハ、参りました」
こちらの返事を待たず、懐から取り出した扉の鍵を投げるイヴァンシは、両手を上げその場に座り込んだ。
パシっ
「賢明だ。下もウチの副隊長が封鎖してる」
「でしょうね」
ーダタッザ
「間取りは分かってるな?」
「はい」
扉へ手を掛けた隊長が、前を向いたまま確認する。
" 気を抜くな、ここからが本番だぞ " と。
ガチン
『バターーンッ‼︎ 』
錠を開け部屋に乗り込むと同時、正面から右奥へと並ぶ窓から家具の配置、そして敵味方と人数を判別する。
「ブ、ブレィアストぉっ⁉︎ ちょ丁度、良い所に来てくれました近衛騎士隊長。暗殺者だ、バルハト様を狙う不届きな暗殺者を捕らえてくださいっ」
すると飛び上がる勢いで動揺する中年の内政官が、声を張り上げ指差した。
『ガキンッキィン‼︎ 』
シロっ、生きてたっ
最奥の窓から侵入したシロは、執務机の奥でバルハト兄と交戦中。
一番近くに居る側近の胸には矢が突き立っており、他の側近は未だ混乱中の様子のそこへ
「バルハトォォオーーーーーーっ‼︎‼︎ 」
部屋を震わせる隊長の雄叫び。
「………… 」
しかしバルハト兄は剣を止めはしたものの、こちらを向くのみで口を開こうとはない。
マルソラ隊長⁉︎
人数16人と数えた中に、このフラエ領でブレィアスト隊長に次ぐ実力者に目がいく。
それに第4の隊長、第7の隊長副隊長まで…
「マルソラ、ダッダフォルク、リトカー、ケーシャン。第二子バルハトに、紊乱工作及び不法密通の疑いがある。直ちに捕縛しろ」
「「「「…………… 」」」」
しかも彼等は、ブレィアスト隊長の命令に微動だにしない。
「確定…だな。家族持ちばっかネチネチと狙いやがって。この国は、いつからナルトアみてぇんなったァ〜〜ア」
肩を怒らすブレィアスト隊長が、更に一段低い声で唸るよう言うと、ビシビシビシッと音が鳴りそうな程に空気が張り詰めた。
「お前が直接来るとは意外だが…しかし、それならば止められる筈もないなぁフフ…フハハハハハハっブレィアスト、その力をもっと、もっと存分に振るってはくれまいか?」
「あぁん?」
「お前が言うそのナルトアも世代が変わり、三代振りの覇権宣言を行った。130年続いた仮初めの平和は終わりを告げたと言うのに、父上も兄君も、この危機が全く分かっていない。何年…何十年か先、我らに待つのは服従か…滅びだ」
「つまり自分が衛主となり、フラエとこの国を変えようってか?笑わせる。家族や仲間達を、守るどころか犠牲にさえするヤツに、そんな大ごと成し遂げられる訳ねーーんだよッ」
「逆だ」
ブレィアスト隊長の圧にも一切怯まないバルハト兄。
「衛主とは絶対者。領内何人を踏み躙ろうとも許される存在が、一戦さ場で部下を守り瀕死とは…クク。そんな様でこの先どう領を導くと言うのだ?守るのならば守り切れ、出来ぬのならば覚悟せよ。それすらも分からぬ今の父オージンでは、これからのフラエとイグアレムスは守れぬッ『ドンッ』
変わったね、バルハト…
「はぁ…まぁおやっさんの蛮勇にゃ〜何度も何度も苦言してきた俺だからな、お前の言うことにも一理あるとは思うぜ。けど全っ然分かってねーよ。何故フラエが今も強いか分かるか?どうしてこの国は建国以来、一度として領土を失っていないと思う?一番近くで、一番大切にされていた家族でも、こんなに伝わんねぇもんなんだなぁ」
激情を震わせるバルハトに対し、さっきまでとは打って変わるブレィアスト隊長の言葉には、悲しそうな、心底空しそうな心情が溶け込んでいた。
「伝わっている、しかと伝わっている。父オージンは間違いなく偉大だった。だがどれ程の偉大さとて永遠ではない。そして遅いのだッ、お前も衛主もこの国も。だから何と言われようと俺は信念を曲げん。俺のやり方で国を変え、そして守る‼︎ …最後にもう一度だけ聞こうブレィアスト。俺の下で…いや、俺と共に未来を守る気はないか?」
「ついて来るヤツら、支えてくれる人々。俺らの今いる場所ってなぁそう言うもんで出来てんだぜ?なのにいくらでも声を届けられる、恵まれた場所に居るテメェが選んだのが、こんなコソコソとした小汚い方法だぁ?本気で未来を変えたいってんならよぉ、男らしく真正面から堂々やれや。その身体に流れてるインの血が泣いてんぞ」
隊長の左手人差し指が、バルハトを射抜いたのち天を貫く。
「真正面から堂々か、実にお前らしい。が、それこそがこの隙であり、そこから失うものが多々有る…とは解らんか?今まででもずっと、ナルトアは水面下で動き続けていたぞ?綺麗事だけでは国を護れぬ…と、馬鹿に講釈したところで時間の無駄か」
「俺ぁ考えるのは全部ロビンノーグに任せてっからよ、馬鹿と言われてもどーでもいいわ。ただ俺は誰よりも前へ出て、誰よりも敵を屠る。尊きイグアレムスの衛士として、信じたものは裏切らねぇ」
「フフ…一番厄介なお前を始末すれば、新たなフラエがここから始まる。マルソラ、ダッダフォルク、リトカー、ケーシャン、我が部下と共に押し入った反逆者を捕らえよ。これは綱紀粛正なり」
「「「「「「「ハッ 」」」」」」」
「「「「………… 」」」」
『バタン‼︎ 』
「やめてっ」
「きゃあっ『ブシュ』痛ァァぁあっイヤァァーーーーーーっ」
扉から女の子を引っ張り出した内政官は、動かない隊長らを見て、その肩口に短剣を突き刺した。
「ミポロォォっ」
「大丈夫よっ大丈夫、こんな傷…すぐに良くなるからっ」
「痛い、痛いよお母様ぁぁー〜… 」
叫ぶダッダフォルク隊長をマルソラ隊長が掴み、母は突き飛ばされた娘の傷口を必死に押さえる。
「マルソラ隊長っ、ダッダフォルク隊長っ、従うべき人間を間違えるな」
そして恫喝する内政官は次に、マルソラ隊長の息子へと剣を向ける。
「ぐっ、すまない…ブレィ」
「すみません、近衛騎士隊長」
命令に歯噛みする4人の隊長副隊長は顔を歪め、鉛と化した足取りを引き摺るようにして詰め寄ろうとする。
「…気にするな。出遅れた責任は俺にもある」
しかし相対するブレィアスト隊長もそれは同じ。
全てを覚悟して踏み込んだとは言え、目の前に居るのは共に戦って来た仲間であり掛け替えのない友。
『ガキィッ‼︎ 』
「ー〜ッグゥっ」
その時シロがバルハトに斬り掛かった。
「きき貴様、人質が見えんんのかぁっ」
叫ぶ内政官がバルハトを見るけど、その前にシロが言い放つ。
『ガキッギィンッ』
「これ以上やれば、隊長を縛れなくなるぞッ」
「なっ…〜」
そう。
唯一バルハトを牽制する距離にいるシロが、ヤツを確保さえしてくれれば。
『ギギィ〜』
「フハハハハァっ良いではないかコソ泥ぉ。他人とは言え、貴様の方が余程座っているな」
それに対し高笑いしたバルハトは続ける。
「いいか、身の程を弁えぬコイツは俺が殺す。マルソラ、ダッダフォルク、リトカー、ケーシャン、誰か1人でも逆らったら人質全員を始末しろ。他の者の人質も、1人残らず全てだァッ」
バルハト…お前ぇ
「おいコソ泥。貴様のその隠密性、コソ泥としては一流だ。名くらいは聞いてやる」
「…それよりバルハトさん。アンタの弟が死んだこと、知ってるか?」
「弟?ホルスが死んだのか?……大人しくしていれば良いものを、父の愚かな部分を真似るからそうなる。だが生まれつき脆弱な劣等など、居ても居なくとも変わりはしまい」
「そう、か。確かに自業自得ではあるな」
ーシュッ『ガキィッギィンッギィッ』
力任せに振るわれる荒々しい剣。
初動の見え辛い不思議なシロの剣筋が舞うも、その攻撃を慎重に受け、危なげなく捌いていくバルハトが鋭い反撃を返すと
『ギンッカキギィン』
「ッ〜、クッ… 」
肩、腕と、シロの防具が削られる。
「所詮は馬の骨」
その剣技は当然のことながら、体格・膂力においても差のある2人。
私も突っ込むべきか?
いや、それは肉壁にされているマルソラ隊長らが無事では済まない。
それに自身の身に危険が迫れば、バルハトは容赦無く人質を害せと命ずる。
そうなれば動くしかない隊長らと戦わざるを得なくなり、その結果隊長らは勿論、彼等の家族の命まで散らすことになってしまう。
他に何か手は?
このままではいずれ…
「フンッ」
ーービュォー
思考を巡らす最中、繰り出されるいなしからの返し突き。
「ッ〜ー」
なんとか身体を反らし、すんでの所で避けたシロ。
だけど体勢が崩れ無防備に。
マズイっ
「シロォーーーーーっ」
ーーフォンフォンフォン『ドスッ‼︎ 』
咄嗟に投げた私の剣が、バルハトを掠めるよう間を割って壁に突き刺さる。
ビキィ
「ミレイン、貴様… 」
その隙をつき立ち上がるシロ。
二度剣を交え勝てないと悟ったか、破れた窓へと一目散に走る。
ダタタッ
「この俺からはァ」
けど逃すまいと反応するバルハトの剣が背中に迫る。
ダメ避けてシロっ
ーービシュー
間に合わない。
そう思われたシロは加速、振り抜かれた剣をすんでで避け、その背中が破れた窓から消えると
「逃がさんぞコソ泥ォオーーーーぅッ〜‼︎ 」
追うバルハトは猛るままに身を乗り出し、獣の如き荒ぶりで曇天に吠えた。
最上の結果は得られず。
けれど落胆は無い。
こうしてバルハトの眼前まで詰められたのは、シロの奇襲があったからこそ。
そして全てをかなぐり捨てたならば、ブレィアスト隊長の剣はバルハトに届く。
そう無情な取捨選択を覚悟した時
ーー〜『ゴドッドっゴロゴロゴロ〜 』
投げ込まれたのち床を転がるのは、第2内裏衛士隊長の生首。
「ドラザン……。テンメェ〜クソロン毛ェ」
背後から突如現れたのは、扉を守ってい第1内裏衛士らの隊長であり、このイグアレムスにおいて最も恐れられている1人。
知る人ぞ知る死出の案内人。
< 黄泉交わし >こと処刑人アスワン。
国内有数の異名持ち同士がここに、初めて殺気を漲らせ対峙した。
10/4
日本初の女性総理と共にこの国は再び歩き出す




