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RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ  作者: neonevi
▽ 四章 ▽ イエナイ疵痕は穏やかに心蝕す
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4-11 サイ&カイ

sideシロ


「もしかしなくてもアレか?アレだよな?」

「あぁ」


ずっと続く長い外壁の上、美術館もかくやと言う建物が顔を出す。


「デ、デケェ……、ホテルかよ」


窓に張り付く八参。


その気持ちも分かるけど、これで驚いたらお前えん家は城だもんなぁ

《ウチの場合、衛士(レィヴ)本、部も、敷地内にあ、るからね》




ガチャ

キィ

「到着しました。どうぞ」


獣車が停まり、守兵(エィカー)の人が扉を開けてくれる。


「ありがとうございます」


「良い風」

「いや〜スゲェ。やっぱ偉いさん家は警備も物々しいなぁ」


門に立つのは厳つい衛士(レィヴ)


「おぉ⁉︎ お久しぶりですね」

「お久しぶりです」


けど彼らは瞬時に相貌を崩し、出迎えるような優しい態度で声を掛けてくれる。


「あ、お久し振りです」


「おいシロさん、ここに婿入りしたら超逆玉じゃねーの」


" 流石持ってるねぇ〜たまたま逆玉とか "


久方ぶりの屋敷との対面。

そして感嘆する八参の冗談が自分の声と重なって、頭の中の記憶が整合されていく。


そ、そうだヒロ君⁉︎

何で憶えていた筈のヒロ君のことまでまた忘れてんだっ

どうかしすぎだろこのクソ頭ッ


「ど、どしたシロさん⁉︎ 」


「いや、実はオレの幼馴染が居るんだよ」

「幼馴染が居る?ここに?」


突然取り乱したオレに驚く2人は、急な情報の追加に戸惑った。


「あー〜〜悪い。記憶がグチャグチャで、今思い出した」



《あ》


タっタっタタタっ…


ん?


タタタっ

ー「シロっ、久し振りぃっ」『ガシィッ‼︎ 』


〜「ウおぁっ⁉︎ 」〜


タックルのような威力でハグをして来たのは、その後の動静が分からなかったあのミレインだった。


「あれ、貴方気配が」

ガシっ

「ミレインお前、元気かっ」

「ちょ、どうしたのよシロ。見ての通り私は元気だけど、…こんな夜に来るなんて、そっちこそ何かあったの?」


血相を変えたオレの剣幕に、ミレインの笑顔が少しだけ引き攣る。


「あ、あぁ悪い… 」


「それにそちらは?」

「友人だ。本当は物見遊山で皆んなに会いに来たかったけど、お前の言う通り色々と込み入っててな」


「分かった。とりあえず中へどうぞ」


いつもの笑顔に戻したミレインに続き、オレ達は視界いっぱいに広がる屋敷へ向かう。




丸い天井の落ち着いた廊下。

藍色の柔らかな絨毯を踏みしめつつ改めて思う。


やっぱデカいな

《まぁインの、三分家筆、頭。キー一族の直、系だからね》


そう言ったホルスの記憶がフィルムの様に映り行く。


キー、レグ、ヨフ、ザーって…ん?

元は四家だったのか?

《あぁうんら、しいよ。ボクが生まれ、る前の話し、だけど》

お家騒動でもあったんかね?

《ううん。確かザーデ、ィンって、当主の病死、だよ。ボクの母上、と同じ病、での》

そっか

どの世界にも厄介な病気はあるもんだな


「なぁシロさん」

「ん?」


いの一番に騒ぐかと思われた八参が、屋敷に入ってから黙り込んでいた。


「そのスンゲェ美少女が領主の…ナーグスだっけか?の娘なんだろ?」

「あぁ、そうだけどなんだ?一目惚れとか面倒いこと言うなよ」

「違ぇよ。ただデジャブだなって思ってよ」


「デジャヴ?なんだ、お前も記憶がどうか… 」

「デジャブです」

《確かにデジ、ャブだ》


加賀さんに続いたホルスの思考から、琴吹に抱きつかれた光景が広がる。


「バ、違うって。コイツはその幼馴染が惚れた相手なの。そも… 」

「つまり手助けしたんだろ?ダチの。何だよその顔。それくらい分かるっての」

「うん、それくらいなら私でも分かる。けど女心はそれとは関係無いと思います」

「ブっ、ブヒャハハハハハっ。お前でも女心分かんの?こんなとこで会心のやつカマしてくんじゃねーよ腹痛ぇ」


「あははははヤマ、後で憶えておけ。あと声大きい」

「おぉ悪ぃ悪ぃ、お前のせいなんだけどな」


何だかんだ相性良いな、この2人。


「何?何か楽しそうね?」


何気ないその仕草が優雅なミレイン。


「騒がしくてゴメン。オレには楽しくない内容だ」

「そ」


「あっ‼︎ 」





▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

3ヶ月前(衛都(レィレン)フラエにて)



報告した反乱についての対策会議が終わり、胸を撫で下ろして部屋を出た途端


ドムッ(鳩尾)

「うっぐぉ…お、前、いき…だり、なにしやが、る……ぅぅ」


放たれた唐突なボディブローが、無警戒の腹に突き刺さる。


「べーーっ、崖から落とされた仕返しよっ」


「こっの…や、ど、助けてやっ…たん… 」


息が止まっているせいで関取みたいな喋り方になる。


確かにオレはあのジップラインでの一件を根に持っていた。

が、あの策は確実に彼女を敵の手から遠去ける為で、仕返し云々なんて他意はない。


謂れの無い暴力を受けた今は、もうちょい痛い目みろよクソ…とは思うけど。


ビクっ⁉︎


その時ミレインが再度近寄った為、オレは心を読まれたのかと焦って身構える。


((ありがとう…助けてくれて。でも、1人で無茶はしないで… ))


しかしミレインは小声で礼を述べるに留まり、肩透かしをくらったオレは腹を押さえつつ答え様とするけど


「……ぅぅ…言った通り…これっが最後スゥーーーーハァッハァッハァッ……ふぅーー〜、オレも、こんなのもう懲り懲りだし」


「あれっ?あなた言葉が?」

「おいおいミレイン副隊長、命懸けで情報を伝えてくれた功労者だよ?」



▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲




「どうかした?」


「…いや、なんでも」


「そう」


涼しい顔で歩きやがって。

何か不意打ちしてやろうか…

《ちょっとちょ、っとシロ、終わったこ、となんだから、さ》

お前はあの理不尽な暴力を振るわれてないだろ

《そ、そうだけど》

まぁ分かってるよ


抑えろ、怒れるオレの細胞達よ


コイツの本性を知っているオレは、騙されている2人に正直な所を言ってやりたいが、手助けを頼みに来て機嫌を損ねては本末転倒。




そして前回も案内された客間へ着くと、扉脇に控えているメイドのココワさんが、オレに仰々しくこうべを垂れる。


「お変わりなさそうでなによりです」

「ありがとうございますシロ様」


すれ違い様に声を掛け中へ。



ドサっ

「じゃ、座って」


ミレインは気楽な様子で腰を下ろすと、対面のソファーに手をかざした。


トサっ

「八参、巳邦さん、先ずは幼馴染のことを始めに聞く。少し待ってて」

「ういよ」「はい」


「ヒロ君は?もう寝てるのか?」


「…早速ね。けどその前に貴方の気配、普通だけどなんで?」

「調整出来るようになった」


「ヘェ、簡単に言うのね」


感嘆するミレインだが、その笑顔は僅かに曇っている。


コトコト、コト

「どうぞ… 」

「あぁありがとう」

「ざす」

「ありがとうございます」


そんな折りを待ち構えていたかのよう、絶妙なタイミングでお茶を出すココワさん。


はぁ…

《良い予感、はしないね》

だなぁ


「ズズ……で?」


ヒロ君だからと覚悟したオレは、緩やかな湯気の立つ例のアップルティー的なお茶を啜り続きを促す。


「うん。実は今、ヒロはウチに居ないの… 」


一拍おいたミレインの言葉は想像の範疇。


「シロが帰った後、ヒロは毎日言語学習と体力作りに励んで一月半くらいかな?身体も引き締まり始めた頃、衛士(レィヴ)候補生の訓練に参加したいって言い出したの」

「いや一月半じゃ早いだろ。そこまで身体も変わるわけ無いし」


「うん、私達もそう言ったんだけど、シロを驚かせたいからって全然聞かなくて。それで案の定ついていけなかったんだけど、それでもヒロは折れずに頑張り続けて「あー〜ちょっとストップ」


何となく流れを理解したオレは話しを止める。


「とりあえず無事なんだよな?」

「えぇ勿論」


「はぁー〜…… 」


あっちもこっちも何でこんな時に…

やっぱヒロ君だなぁ。


「っ⁉︎ でっでも、ちゃんとフォローはしたのよっ。各隊長から勿論団長副団長も」


オレの苛立ちを察したのか、ミレインは弁解するように説明する。


『コンコン』

「私だ、入っても良いかな?」


久方振りの太い声。

ミレインがオレを見るので頷きを返す。


「どうぞ〜」






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