4-11 サイ&カイ
sideシロ
「もしかしなくてもアレか?アレだよな?」
「あぁ」
ずっと続く長い外壁の上、美術館もかくやと言う建物が顔を出す。
「デ、デケェ……、ホテルかよ」
窓に張り付く八参。
その気持ちも分かるけど、これで驚いたらお前えん家は城だもんなぁ
《ウチの場合、衛士本、部も、敷地内にあ、るからね》
ガチャ
キィ
「到着しました。どうぞ」
獣車が停まり、守兵の人が扉を開けてくれる。
「ありがとうございます」
「良い風」
「いや〜スゲェ。やっぱ偉いさん家は警備も物々しいなぁ」
門に立つのは厳つい衛士。
「おぉ⁉︎ お久しぶりですね」
「お久しぶりです」
けど彼らは瞬時に相貌を崩し、出迎えるような優しい態度で声を掛けてくれる。
「あ、お久し振りです」
「おいシロさん、ここに婿入りしたら超逆玉じゃねーの」
" 流石持ってるねぇ〜たまたま逆玉とか "
久方ぶりの屋敷との対面。
そして感嘆する八参の冗談が自分の声と重なって、頭の中の記憶が整合されていく。
そ、そうだヒロ君⁉︎
何で憶えていた筈のヒロ君のことまでまた忘れてんだっ
どうかしすぎだろこのクソ頭ッ
「ど、どしたシロさん⁉︎ 」
「いや、実はオレの幼馴染が居るんだよ」
「幼馴染が居る?ここに?」
突然取り乱したオレに驚く2人は、急な情報の追加に戸惑った。
「あー〜〜悪い。記憶がグチャグチャで、今思い出した」
《あ》
タっタっタタタっ…
ん?
タタタっ
ー「シロっ、久し振りぃっ」『ガシィッ‼︎ 』
〜「ウおぁっ⁉︎ 」〜
タックルのような威力でハグをして来たのは、その後の動静が分からなかったあのミレインだった。
「あれ、貴方気配が」
ガシっ
「ミレインお前、元気かっ」
「ちょ、どうしたのよシロ。見ての通り私は元気だけど、…こんな夜に来るなんて、そっちこそ何かあったの?」
血相を変えたオレの剣幕に、ミレインの笑顔が少しだけ引き攣る。
「あ、あぁ悪い… 」
「それにそちらは?」
「友人だ。本当は物見遊山で皆んなに会いに来たかったけど、お前の言う通り色々と込み入っててな」
「分かった。とりあえず中へどうぞ」
いつもの笑顔に戻したミレインに続き、オレ達は視界いっぱいに広がる屋敷へ向かう。
丸い天井の落ち着いた廊下。
藍色の柔らかな絨毯を踏みしめつつ改めて思う。
やっぱデカいな
《まぁインの、三分家筆、頭。キー一族の直、系だからね》
そう言ったホルスの記憶がフィルムの様に映り行く。
キー、レグ、ヨフ、ザーって…ん?
元は四家だったのか?
《あぁうんら、しいよ。ボクが生まれ、る前の話し、だけど》
お家騒動でもあったんかね?
《ううん。確かザーデ、ィンって、当主の病死、だよ。ボクの母上、と同じ病、での》
そっか
どの世界にも厄介な病気はあるもんだな
「なぁシロさん」
「ん?」
いの一番に騒ぐかと思われた八参が、屋敷に入ってから黙り込んでいた。
「そのスンゲェ美少女が領主の…ナーグスだっけか?の娘なんだろ?」
「あぁ、そうだけどなんだ?一目惚れとか面倒いこと言うなよ」
「違ぇよ。ただデジャブだなって思ってよ」
「デジャヴ?なんだ、お前も記憶がどうか… 」
「デジャブです」
《確かにデジ、ャブだ》
加賀さんに続いたホルスの思考から、琴吹に抱きつかれた光景が広がる。
「バ、違うって。コイツはその幼馴染が惚れた相手なの。そも… 」
「つまり手助けしたんだろ?ダチの。何だよその顔。それくらい分かるっての」
「うん、それくらいなら私でも分かる。けど女心はそれとは関係無いと思います」
「ブっ、ブヒャハハハハハっ。お前でも女心分かんの?こんなとこで会心のやつカマしてくんじゃねーよ腹痛ぇ」
「あははははヤマ、後で憶えておけ。あと声大きい」
「おぉ悪ぃ悪ぃ、お前のせいなんだけどな」
何だかんだ相性良いな、この2人。
「何?何か楽しそうね?」
何気ないその仕草が優雅なミレイン。
「騒がしくてゴメン。オレには楽しくない内容だ」
「そ」
「あっ‼︎ 」
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3ヶ月前(衛都フラエにて)
報告した反乱についての対策会議が終わり、胸を撫で下ろして部屋を出た途端
ドムッ(鳩尾)
「うっぐぉ…お、前、いき…だり、なにしやが、る……ぅぅ」
放たれた唐突なボディブローが、無警戒の腹に突き刺さる。
「べーーっ、崖から落とされた仕返しよっ」
「こっの…や、ど、助けてやっ…たん… 」
息が止まっているせいで関取みたいな喋り方になる。
確かにオレはあのジップラインでの一件を根に持っていた。
が、あの策は確実に彼女を敵の手から遠去ける為で、仕返し云々なんて他意はない。
謂れの無い暴力を受けた今は、もうちょい痛い目みろよクソ…とは思うけど。
ビクっ⁉︎
その時ミレインが再度近寄った為、オレは心を読まれたのかと焦って身構える。
((ありがとう…助けてくれて。でも、1人で無茶はしないで… ))
しかしミレインは小声で礼を述べるに留まり、肩透かしをくらったオレは腹を押さえつつ答え様とするけど
「……ぅぅ…言った通り…これっが最後スゥーーーーハァッハァッハァッ……ふぅーー〜、オレも、こんなのもう懲り懲りだし」
「あれっ?あなた言葉が?」
「おいおいミレイン副隊長、命懸けで情報を伝えてくれた功労者だよ?」
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「どうかした?」
「…いや、なんでも」
「そう」
涼しい顔で歩きやがって。
何か不意打ちしてやろうか…
《ちょっとちょ、っとシロ、終わったこ、となんだから、さ》
お前はあの理不尽な暴力を振るわれてないだろ
《そ、そうだけど》
まぁ分かってるよ
抑えろ、怒れるオレの細胞達よ
コイツの本性を知っているオレは、騙されている2人に正直な所を言ってやりたいが、手助けを頼みに来て機嫌を損ねては本末転倒。
そして前回も案内された客間へ着くと、扉脇に控えているメイドのココワさんが、オレに仰々しくこうべを垂れる。
「お変わりなさそうでなによりです」
「ありがとうございますシロ様」
すれ違い様に声を掛け中へ。
ドサっ
「じゃ、座って」
ミレインは気楽な様子で腰を下ろすと、対面のソファーに手をかざした。
トサっ
「八参、巳邦さん、先ずは幼馴染のことを始めに聞く。少し待ってて」
「ういよ」「はい」
「ヒロ君は?もう寝てるのか?」
「…早速ね。けどその前に貴方の気配、普通だけどなんで?」
「調整出来るようになった」
「ヘェ、簡単に言うのね」
感嘆するミレインだが、その笑顔は僅かに曇っている。
コトコト、コト
「どうぞ… 」
「あぁありがとう」
「ざす」
「ありがとうございます」
そんな折りを待ち構えていたかのよう、絶妙なタイミングでお茶を出すココワさん。
はぁ…
《良い予感、はしないね》
だなぁ
「ズズ……で?」
ヒロ君だからと覚悟したオレは、緩やかな湯気の立つ例のアップルティー的なお茶を啜り続きを促す。
「うん。実は今、ヒロはウチに居ないの… 」
一拍おいたミレインの言葉は想像の範疇。
「シロが帰った後、ヒロは毎日言語学習と体力作りに励んで一月半くらいかな?身体も引き締まり始めた頃、衛士候補生の訓練に参加したいって言い出したの」
「いや一月半じゃ早いだろ。そこまで身体も変わるわけ無いし」
「うん、私達もそう言ったんだけど、シロを驚かせたいからって全然聞かなくて。それで案の定ついていけなかったんだけど、それでもヒロは折れずに頑張り続けて「あー〜ちょっとストップ」
何となく流れを理解したオレは話しを止める。
「とりあえず無事なんだよな?」
「えぇ勿論」
「はぁー〜…… 」
あっちもこっちも何でこんな時に…
やっぱヒロ君だなぁ。
「っ⁉︎ でっでも、ちゃんとフォローはしたのよっ。各隊長から勿論団長副団長も」
オレの苛立ちを察したのか、ミレインは弁解するように説明する。
『コンコン』
「私だ、入っても良いかな?」
久方振りの太い声。
ミレインがオレを見るので頷きを返す。
「どうぞ〜」




