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RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ  作者: neonevi
▽ 四章 ▽ イエナイ疵痕は穏やかに心蝕す
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4-9 Dumb Cane〜 口止フ用

広島、長崎で悲劇に見舞われた方々のご冥福をお祈りします。そして日本の誇りを守る為、散って行かれた英霊の方々に、心よりの敬意と感謝を捧げます。

これからの日本が、本当の日本人達の手によって再び立ち上がることを信じて…

side八参



・・・・817号室。




薄明かりの灯る静かな病室に入ると、まず目に入ったのはテーブルに置かれた高そうな果物と花。

それにソファに置かれたヌイグルミ。

更には雑誌や書籍などが棚に整えられ置かれていた。



VIP病棟(こんなとこ)に長期でご滞在とは……県の偉いさんだっけか?親。政治家がこんなに儲かるなんて、日本はトコトン狂ってんぜ」


煮え滾る憤怒をぶつけた相手との再会。

いつかこんな日が来たのなら、もっと高笑いでもカマしてやろうとずっと思ってたのに…


「俺だよ。分かるか?ヘドロ女」


「……‼︎ 」


スタ、スタ、スタ、スタ、スタ

「安心しろよ。今更どうこうしようなんて気はサラサラねぇし」


長かった髪もそのままに、大人になった同級生は一瞬目を見開くも、すぐにその目を逸らし、慌てる様子もなく天井を見つめた。


ドサっ

「こっちもお前の顔なんてこれ〜〜っポッチも見たくもなかったんだよ。ただ運悪く偶々、偶々同じ病棟に運ばれちまってなぁ」


そう言いながらもこんな偶然があるのか?と俺自身、この余りに数奇な現実に心寒いものを感じた。


「出てって欲しければスイッチ(それ)押せよ。すぐに消えっから」


シューシューと室内に音を響かせる呼吸器の隣に腰掛けると、北居は手を少しだけスイッチから遠ざけた。


「……へ。こうして元気に苦しんでるお前を前にしても、やっぱぁ後悔は微塵もわかねぇわ」


「……………… 」


「けどこっちも中々にしんどかったんだぜぇ?クソ溜めにはけだもの以下のヤツらがウヨウヨ居やがってよ」


「……………… 」


「だからまたぁ殺人犯(やらか)しちまって、刑務所にまで堕ちて流れてどんぶらこってなぁ」


「……………… 」


「とは言え俺はこうして無事、鬼ヶ島から出て来れたわけだ。地球何十周か分の玉手箱の煙を浴びてだがよ。」


「……………… 」


何を言ってもたまーに瞬きをするだけの相手。


「……何お前、もしか喋らんねーの?…はぁ、アホ臭。んじゃあな」


元々来た理由も見つからない俺は椅子から立ち上がり、背を向けて一歩を踏み出すと



「ぁぁ〜…ゃぁ、ゃ…ま……ぃ… 」



消え入りそうな掠れる声に肩を掴まれる。


一呼吸おいて振り返ると、北居は僅かに動く指先で、スマホの画面をたどたどしく操作した。



『こんなからだになってから、こうかいしないひはない。でもこんなからだになったから、わたしはじぶんがどんなにんげんかをしれた。おやにもともだちにもせんせいにもほめられたことしかなかったわたし。ぜんぶがおもいどおりになるとおもっていたわたし。じぶんのせかいはかんぺきで、それいがいをみくだしていた、おさなくもおろかなじぶんじしんのことを」


自動音声により読み上げられる文章。


「そうかんがえるとこのばつは、わたしにふさわしいとさえおもう。いっしょうなおらないこのからだは、きえることのないつみのあかしで、ゆびさきしかうごかせないわたしは、だれかのせかいにすがるしかなくなった。でも、わたしはだれにもせめられない。まるでひがいしゃかのようにあわれまれてしまう」



「で?何もしてないアイツはいっつも小さくなって下を向いて、常に自分を押し殺して……、そうやって周りに遠慮をして生きていたんだぜ?それすら許されなかったテメェが、消えるまで追い詰めた本人が、今更何を言ってやがる。同情乞う相手、完璧間違えてんだろが」



「ぁ〜、ぉ…ぇぁ、ぉ…… 」


呼吸器の奥で震える唇。

必死に話そうとする北居の眦からは、涙の雫が次々と溢れる。


「だからわたしはねがっていた。ありのまま、つきつけられるつみのおとずれを。そしてあかごのようにあつかわれる、このじくじたるゆりかごからでられるときを。ずっと。ずっと』



「は?お前、何言って… 」



「ぉ…ぇ、…がぃ……し…… 」



「………〜っ」『ギュゥっ』


情け無ぇ。

弱ぇっ


同情心か罪悪感か知らねぇが、こんなん聞いたくれぇで湧いてくんじゃねぇよ雑魚がっ


そうやって手の平に爪を食い込ませ、自身の弱さに懸命に抗うも、俺の身体は自然と膝を折り、耳は北居の枕元へと寄せていた。












コロシテクダサイ





















ブチッ







迷ったしやりたくはなかった。


抜いた電源(プラグ)を挿し直そうとも思った。

これ以上周りに迷惑を掛けたくはなくて。


けど、ゆっくりと終わりへ近付いていく彼女が、殺したいほど恨んでいる筈の俺を見て、泣きながらも穏やかに笑って見せたから…




俺は、握っていたコードを床に落とし、そのまま静かに病室を後にした。









・・・・1F化粧室。




シャーーーーーーーーーーーーー


バシャッバシャッバシャッ

「ー〜っ…ぅっ〜ぐ…クソっ、ブゥーーーーーーッ」


神が居るかは知らねぇ。

けど、救いの手は都合良く回っては来ない。

だから絶望に追い詰められた挙句、例え自ら命を断ったとしても、誰にも責められはしない。

赦しもなく、罰だけを与えるようならそれはもう神じゃねぇ。

悪魔に近い何かだろ?


そうやって言い訳を並べ立てるのは、輪郭のボヤける胸までびしょ濡れのダセェ男。


シャーーーーーーーーーーーーー


バシャッバシャッバシャッ


「…はぁっ、ハハハっ」


なんか大層な金を遺してくれたみてぇだけどさ、今アンタの娘の、唯一のダチっぽかった松宮の姉がピンチなんだよ。

だからさ、ちっとばかし助けに行ってくる。


そんでもし無事に戻って来れたなら、未来がまだ俺の方を向いててくれるんなら、そん時は美味いモンでもたらふく食わせてもらうよ。



「嫁さんと娘に、会えてると良いな」




キィ、バタン





△△△△△△△△△△△△△





男女の張り手は油断しててモロに食らっちまったけど、その後の蹴りは見えてた。

それに根尾らと闘うシロさんの動きも、今回は何となく目で追えた。


色々と修羅場を経て、多少なりと成長してるんか?


ジャーーーーーっ

「そんでシロさん、どんくらいかかりそうなんだ?」


闇夜の中、自転車を漕ぎ出して暫く経つも、見渡す限り、灯り一つ見当たらない。


「あぁ、直で多分6〜8時間ってとこじゃないかな。けど途中の街に寄って、武具と足を調達する」

「武具?あるじゃねぇか」

「お前、向こうでどんなけ防具に助けられた?」


海に放り出された時か、気が付くと知らぬ間に身体から消えていた防具。

たしかにあれが無かったら、俺たちは高確率で死んでいた。


けど2人が吸い込まれてもうすぐ12時間。

そっから探す時間も入れれば…


「なぁ、あいつら無事だよな?」


「水は調達出来るだろうから、問題は(ヅワム)だ。この世界の獣はオレ達の世界の獣よりも遥かに多く、中には想像を超える危険な個体もいる」

地底(アっコ)で出て来た巨獣みたいな?」


「800年前と450年前。その世界では獣禍災(ゾアネクター)と呼ばれる災害によって、いくつかの国が滅んだらしい」


「く、国が?アニメかよ… 」


「けど幸いにもオレ達は、さっき(説明)の通り息を潜めてれば大概やり過ごせる。更に想定外なんて事が起きていなければ、高確率で無事だよきっと。あの2人、運も強そうだしな」

「そっか、そうだよな」


こういう時、理路整然と答えてくれるシロさんはいつも頼もしい。


「つかこんな時間に買えるのか?それに金とか持ってんの?」


シロさんのケツに乗る男女も、シロさんとこの世界がどんな感じなのか興味津々。


「金は預けてある。まぁその辺は知合いに頼んでなんとかしてもらうからさ、心配するな」




新たな地に降り立った今、何もかもこれからだけど、この世界には空もあるし人も居る。


だから大丈夫。

あの地底を生き抜いた俺たちならきっと。









side宇実果


ガサっ


ガサっガサ…



草の擦れる様な音と、冷たい背中の感触。



「………〜…ン、ン〜〜」


私の意識は徐々に浮上する。



(( 宇実果、良かった。声は上げないで ))


そして視界いっぱいの真黎さんは、声を押し殺して言った。



そうだ私


さっき暗闇に吸い込まれて…


だけど瞳を動かして見る周囲の景色は、どう見ても夜の森。


(( 真黎さん、ここは?))


そして身体を起こすと、私達は大きな木の側に隠れるように居た。


(( 分からない。私も数時間前に目が覚めて、半径3〜400mくらいを見て回ったんだけど、どこまでも森が広がるばかりで何も見つけられなかったわ ))


それを聞いて時計を見ると、私の記憶からは半日以上が経過していた。


(( そう、ですか…。でもどうして小声なんです?))


((……大型の猛獣が、チラホラ徘徊しているから))


(( そ、それって……虎とか、熊とか、ですか?))


続けて私が尋ねると、真黎さんはとても言い辛そうにしつつ口を開く。


(( 私が見かけたのは、四足歩行の鳥みたいな生き物と、二足歩行の爬虫類だったわ ))


⁉︎⁇


(( ファ、ファンタジーですね… ))


日本ではないと言う落胆は、前以てしておいた覚悟で飲み込んだけど、何か答えねばと口から出たのは、意図していないバカっぽい台詞。


((………… ))


緊張感のなさ過ぎる私に、目を剥いて固まる真黎さん。


(( あ、す、すみません。あの、ふざけている訳じゃ… ))

(( うん、分かってる。でもそうね、そう言われると確かにファンタジーかも ))



キュアキュアキュアー〜


(( それにこんな夜中でも、森は息づいているんですね ))


遠くから聞こえる野鳥のような鳴き声に、街育ちの私は新鮮さを感じていた。

けれど、真黎さんの反応はそれとは程遠い。


(( あの、何か危険が?))

(( 今聞こえたのは多分警戒音。でも距離はあるから大丈夫だと思うわ。宇実果、改めてありがとう。助けようとしてくれて ))


寝起きとは言え危機感の無い自分を反省しかけると、真黎さんはそのまま話しを移す。


(( やめて下さい。そもそも私が飛行機から転げ落ちなければ、真黎さんは今頃… ))


そう。

こんなことになったのは私のせい。


(( 皆んなは無事に帰れたのかしら ))


重ね重ね反省する私から、真黎さんは視線を外して言う。


こんな時でも他人への気遣いばかり。

この人は相変わらずだな。


((……あのシロさんですよ?きっと大丈夫ですよ ))


(( そうね。それじゃ夜が明けるの待って、まずは飲み水の確保に動きましょう。()()シロさんを、私達も見習って ))

(( はい、森なら食べれられる果実なんかも有りそうですしね ))



うん、あの地獄の様な地底を生き抜いたんだ。

絶対、絶対に大丈夫。






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