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RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ  作者: neonevi
▽ 四章 ▽ イエナイ疵痕は穏やかに心蝕す
119/128

4-8 傷被者物価指数〔P2〕

side八参


タシっ

「…ーー〜ッっ‼︎⁉︎ うおぉっほぉぉおォォっ、度肝が串刺しだぜーーーーっ」



『ザザァァーー…ザザァァーーーーー〜ン… 』


百聞は一見にしかずと目の前で消えたシロさんに続き、恐る恐ると踏み込んだその先は海の上。


「なんか夜空の色も違ぇしハハァっ、マジで別の世界じゃねぇかよォっ」


そしてその不可思議な場所から臨むのは、さっきとは丸きり違う広大な浜辺の連なり。


『ドン』

〜「っと」〜


タシタシタシっジャポっ


シロさんの指示で予め裸足で裾をまくっている裸足の俺は、後ろから来た男女に押され狭い脚立を駆け降りた。


「…ーー〜っ… 」


脚立の上で固まる男女。


「ぶっ、はははっなんよなぁ?流石のお前でも。これ、昼間だったら3倍ブチ上がってんぜ」


「…一緒にしなでくれる?ちょっと驚いただけだから」


「和同さん。降りたら脚立、沈めておいてね」

「あ、はい」


「へっ」ジャポジャポジャボっ


取り繕うも抑えきれない高揚が溢れている男女を背に、シロさんの後に続く俺の足も、小気味良く浅瀬をかき分け進む。






『ザパァァァーーーーー〜ン…ザザァァーーーー… 』


「んじゃ、靴履きながら聞いて。いくつか基本の説明してくから」


地面に腰掛けたシロさんはそう切り出すと、この世界のおよその文明レベル、社会構成、そしてモンスターと呼ぶべき凶暴な猛獣(ヅワム)について話し、最後に飛行機に乗る前の自身記憶が、部分部分喪われていることを明かした。


「それよぉ、シロさんこそ検査した方が良いんじゃねぇの?」

「いや、これは病気とかじゃないから問題無いよ。それより先ず、ここで生き抜かないとだ」


何故か言い切るシロさんだが、ここに来た今話しても意味は無い。


「まぁそこは大丈夫だろ?あのムチャクチャな地底と違ってヅワムっての?デカい猛獣くれぇならよ、(コレ)で仕留めちまやいい。それよか心配なのは2人だぜ…手ぶらだし。こっからどんくらいかかりそうなんだ?」


「その前に和同さん、とりあえず一発撃ってみても良いですか?」


突然そう言ったシロさんは立ち上がると、運動会よろしく満天の星空に銃口を向けた。


「あ、はい。あのここにセーフティがあるんで」


「んじゃ」



パスンっ



『ザザァァーー…ザザァァーーーーー〜ン… 』



「………は?」「………え?」


波音をかき消すかと思われた銃声は、軽く打ち鳴らした拍手のしけた音。


「やっぱりか」

「やっぱりって?」

「どうもこっちはね、燃焼の速度が遅いんだよ」

「燃焼の速度?」



それから改めて他の銃も確かめたが、結果は同じ。


「つまり、銃は使えねぇと… 」


ハンティング気分で高揚してた俺は、結構…いやかなりショックだったが、ライフルを抱きかかえたまま動かない男女を見て、萎れたテンションに喝を入れる。


「まぁしゃあねぇか。ってことはシロさん、何かあんだろ?」


「あぁ、ん?和同さんどうかした?」


俺の問いに答えようとした所で、落ち込んでいた男女が、やや遠慮がちに手を挙げる。


「あの、実は私の本名は、加賀巳邦です」


「カガミクニさん……分かりました。加賀さんで良いですか?」

「苗字名前、どちらでも良いので呼び捨てでお願いします。私、シロさんより歳下なので」

「あぁ、はい。分かりました」


突然の意味不明な開示だが、戸惑いを呑み込んだシロさんは大人な対応をする。


「いや待て。何なんだよお前いきなり」

「あ?じゃいつ言えば良いって言うの?」

「つか名前なんて今更どうで… 」

「おいヤマ。お前は歳下だから加賀さん、だ」


尊大な態度で言う男女は拳を握り、筋張った前腕を俺に向けた。


「はぁ……お前のそゆとこ、ホント男みてーだわ。根尾って野郎と言い、軍人ってなぁそんな暴力至上主義者ばっかなんか?」

「命のかかる職業が、実力至上主義になるのは仕方がない。けど根尾と一緒にされるのは心外。あれは個人的悦楽で、私のは躾」


躾だ?コイツぅ…


「あ〜じゃぁクロスボウとコンパウンドボウが用意してあるから、とりあえず練習しよ」

「その前に聞かせて下さい」


はいはいと小競り合いを流そうとするシロさんを、男女が強い口調で止めた。


地底(むこう)でのシロさんの行動(いろいろ)は、帰る手段を模索してる最中の共助の一環、と一応は理解しました。けど貴方自身死ぬ目に遭って、やっと帰って来たばかりだと言うのに、今またどうして2人を助けに行くのですか?」


「それ、聞く必要あります?」

「はい。私にとってはとても」


「……単純に、納得したいだけだと思います」

「命は一つですよ。それをかけてまで何を?」

「いや、命がかかるのは今回…あぁ〜と言うか、その時その時の結果であって……、後でギリギリ後悔未満の反省をしてますよ大概。逆に聞かせてもらえます?加賀さんは死生観を、人生をどう捉えています?」


「人生…ですか。捉えると言うご質問の返答としてはズレるかもですが、今私の頭に普通に浮かんだのは、平穏無事に、人並みの幸福を享受したい…って思いですね」


「ほ〜ん。お堅い仕事してっから、役割とか責務とか言うのかと思ったぜ」


「無くはない。けど人生って大きさで括るなら、私は今の仕事じゃなくても構わない」

「そうなん?つか悪い、腰折っちまった」


そう言ってシロさんの方を見ると、シロさんは問題ないと小さく首を振る。


「オレも考えたことありますよ、当然。30位までに結婚して家庭を持ち、家族の為に生き、家族中心に送る人生を。それは色々なことが有って、毎日がとても大変で、でもきっととても幸せなんだろーなぁなんて」


たしかに夢見てたなぁ俺も。

味わった事のない、そんな普通の未来ってやつを。


「がしかし、現実には避けちゃいけない波乱や、避けられない有事がある。仮に自分はそれらを上手く避けられたとしても、その避け続けた人生を末期に振り返ったと想像して、オレは、そんな人生を幸せだと肯定出来なかったんです」


あぁそうだ。

死ぬほど理解出来るぜ。


もし俺が何もしなかったら、間違いなくヤツらは今も嗤っていた。

そして世界の一部を踏み躙られた俺はどうしてた?

今の俺よりも、俺は自分を好きでいられたか?


だから男女が、こんな質問すん意味もよーく分かった。


「つまり今回の事はシロさんの生き方として、避けてはならない波乱なんですね」

「えぇ。勿論2人には助けたいと思うくらいの情も有ります。でも根本の動機を突き詰めるのなら、そう言う感情や、可否を分析した理性よりも、ただ自分がどうしたいのか、これからの自分がどう在りたいのか…が、何よりも第一なんだと思います」


唇の下に手を添えながら、小さくもゆっくりと何度も頷く男女(コイツ)は、初めて犯行を決意したあの時の俺と同じなんだ。



その後約15分、最低限の武器取扱練習を行った俺たちは、あの2人が無事で居ることを信じて先を急ぐ。






▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

一時間程前 (巡洋艦から戻った後)



・・・・810号室。




" 八参、準備が出来たら裏の駐車場な?"


小声でそう言ったシロさんと別れ、自分の病室に戻った途端


ブーーーーーっ


ブーーーーーっ


「チっ」


置きっ放した携帯がテーブルを揺らす。



「おー〜やっと繋がったわ」


クソデカイ第一声。

その余りの能天気振りに重ねてイラッとする。


「何時だと思ってんだ爺さん。昼間も会ったしボケたんか?」

「そう、ボケてもおかしくない年じゃろ?分かっとんならもうちょい労われや」

「はいはい、んで何だよ」


「今、1人か?」

「あぁそーだよ」


「実はな、お前に伝えなくてはならんことがあったんだわ」


そんな風に勿体つけた爺いの話しは、俺の想像の及ばないものだった。


一つは一年近く前、日棗の母親が他界していたこと。

もう一つはつい一週間前、ただ一人となった父親までもが事故死してしまったということ。



「溺れたガキを助けようとして死んじまった?ハ、どんなけお人好しなん……だよ」


面会含め何度か顔を合わせただけのおっさんに、いつもの憎まれ口がついて出るが、その途中でリュウコウさんのことを思い出し息が詰まる。


「やはり、少し変わったようだのぉお前。それで本題だがな、以前お前にいくつか署名させたことを覚えとるか?」


「ん?署名?…なんか書かされたよなぁ何度か」


けどあの頃は何も分かんねーガキで、とにかく書けって言われたら書いてたもんだから、正直内容なんてスッカラカン。


「その中の一つが養子縁組の書類じゃ」

「養子?」

「うむ、お前は法律上日棗陽一氏の子でもある」

「ハァ?」

「そして今回の不幸な事故によって、お前は正式な保険金の受取人となった」


保険金?



「聞いとるか?」


「………なもん要らねぇよ」


「…そう言うな。日棗夫妻はな、娘の未来を守れなかったのも、お前の将来を奪ってしまったのも、全てが何も出来なかった自分たちの所為なんだと日々苦しんどった。これはそんな彼等が最後に遺した、その思いの一部なんじゃ。面倒もない、汲み取ってやれ。良いな?」


こう言う時、この爺いは一歩も引かない。


「はぁ…何でもイイや、分ぁったよ。他は?用がそんだけならもう切るぜ。俺もいい加減疲れたからよ」



「……それともう一つ。お前と同じ病棟に入院しとる」


「誰がだよ」


「お前の同級生。そして犯行の被害者でもある北居萌結菜じゃ」



北居、萌結菜…



「……ハ、あの女、まだ生きてやがんのか」


「相変わらず生きているだけ、じゃがな」


爺いの言葉は短かったけど、当事者である俺にも出せない複雑さが込められていた。


「で?何でわざわざ報せんだ?」


「…以前のお前であれば、報せんかったじゃろうな」


知った顔して何もせず、説教だけ偉そうに垂れ流す大人どもを心底軽蔑した。

事が終わってから急に、悲痛なフリをし合う周りのヤツらに興味が失せた。


「そうだろーな」


人は中々変わらない。

変われない。

決意を固めたあの日から、変わってたまるかと足掻き続けた俺自身が、それを何より証明している。


「遅くにすまんかったの。それじゃ近い内にまた連絡するで、しっかりと休め」

「あぁ」



けど、そうは言っても人は変わる。

知らぬ間に、過ぎゆく時と共に。


あるいは今の俺みたく、劇的な、誰か何かに引き寄せられて。









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