4-7 Resourceと幻実
side根尾
「イタタタタっちょ小山、もう少し優しくやってくれ」
シュシュシュシュっ
「ゴチャゴチャうるさいなぁ。文句言うなら任務外でケガをしないで下さいっ。勿論治療費は天引きですからね」
「分かってるよ」
ギュギュゥゥ
「何度目ですかっ」
「痛い、痛いって」
「にしても最強の強襲班様が、こっ酷くやられたなぁ。鼻は一応無事みたいだが、右中手骨に左腕橈骨、それと肋骨も〜…三本だな。ヒビぃいってるぞ?簡易プロテクター越しにこれとは、相手は格闘チャンピオンかなんかか?」
レントゲン画像を見る阿藤先生の後頭部は、今日も寝癖で鳥の巣状態。
あの時俺と山県は前後で挟んだ。
確実にどちらかが死角になり且つ、一方が先手を取られないよう間合いを測って。
そして同時にフェイントを入れ、同時にこっちから仕掛けた。
俺はパンチを一瞬見せた瞬間受けさせる為の左ミドル。
とは言え7歳からキックを始めた俺の渾身の蹴りは、プロでもガード無しなら確実に効かせられる。
対して山県は前蹴りのモーションから、俺の蹴りを受けると見ての高速タックルへ変化。
終わった。
と確信した次の瞬間、俺は信じられないモノを見る。
ヤツは俺の蹴りの圏外へと跳躍しつつ、山県の頭上でバク宙しタックルをも回避。
唖然とする俺と敵を見失った山県は接触。
慌てる山県は瞬時に体勢を整え振り返るも、俺がガードをしろと言い終わる前に、既に間合いを詰めていたヤツの、刺すような足刀蹴りが山県の顎の動線を突き抜けた。
" 〜〜〜ドサっ "
中腰のまま、呆気なく昏倒る山県。
" ウソ…だろ?"
タックルを跳んで躱すなんてアリか?
しかも何で背後の山県に反応出来た…
" 完璧過ぎるタイミングだけど、躱された後まで想定しとかないと "
躱す?
誰が想像するんだよ、格闘戦において跳んで躱すなんて。
いやそれより有り得ないのは、極小の予備動作であそこまで跳ぶ筋力だ。
「おい、おい根尾?どうした?このまま寝ていくか?」
俺の顔の前で手を振る阿藤先生。
「あぁ、いや大丈夫。今後のことも確認しないとなので、一旦戻ります」
「ワハハっ、暴れん坊には良い薬になった様だなぁっ。小山ちゃん、一応痛み止め出しといてやってくれ」
「はぁ〜い」
ガチャ
「…っ‼︎ すまん。油断した」
診察室から出ると、組んでいた腕を下ろした山県は、腫れ上がった俺の鼻を見て驚く。
「いや、油断は無かっただろ?お互い。それに、あれはスイッチして出れなかった俺が悪い」
相手を見失った山県と違い、俺はヤツを捉えていたのだから。
「俺は…何をされた?」
「蹴りだ。振り向きざまを狙いすまされた」
「……そ、そうか。それでその後は?勝ったのか?」
「ん、両手ともガードの上からブッ壊されて、固まってるとこ身体が浮くくらいのボディ二発。でラストは顔面に膝で終わり」
俺は固定された両手を見せる。
「ま、まさかだが、一発も返せなかった…なんてことはないよな?お前に限って」
「反射速度も瞬発力もレベチ。出しても全く当たらない上返ってくる一発一発が、鉄とまでは言わないけど異様に硬くて重かった」
「それ、ホントに素手なのか?」
「あぁ、それは間違いない。正確には固まってるとこ腕掴まれて捻られて、体勢崩されてのボディだったからな。早い早い」
「クソ…、俺がもっと慎重に詰めていれば」
終始冷静な山県には珍しく、激しい悔恨の情を滾らせる。
まぁ何も出来ずにオトされたら仕方ないか。
けどもし仮に山県が組み付けていたとしてらどうだった?
いや、山県のレスリング技術であっても倒されるとは考え難い。
アイツには、85kgある俺をアッサリと持ち上げた腰の強さがある。
そうなると…いや、あの抗えない異常な腕力は、もしかすると教官レベルか。
良い想像が全くつかない。
「完敗だ。ぐうの音も出ないくらいに」
「…そう、だな」
「それより第七の連中が来るんだろ?」
「あぁ、30分後には」
「ったく、こう言う時に限って動きが早いよな?アイツら」
「お前、出る気か?」
「戦う訳じゃないし行くよ。当然な」
……
…
『『ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン』』
「ジェネラルツツミ、ソレニカーネルクキ、オアイデキテコウエイデス。ソシテトツゼンノライホウヲ、ココロヨリオワビイタシマス」
「着艦及び会談の要請は、海軍からのはずだったが?」
続く相手の名乗りを遮り、堤局長は相手を睨む。
「ソウコワイカオヲナサラナイデクダサイ。ワタシハ米海兵隊少佐ベン=ヘンドリクス。デキレバオチツイテハナシアイヲシタイノデスガ……フゥ」
交渉人として知られている米兵は艦の扉を一瞥するも、動く様子の無い局長を見てため息を吐いた。
「それで?招かれざる君が、一体何の用かね?」
「ヤクソクノチ Avalon?ソレトモ Eden ノフッカツデショウカ?フフ、Land、Material、T echnology、マサニ Dvine providence 。ワレワレニモアワセテクダサイ。ホシヲマタガズトモイケル、Another wold カラノセイカンシャタチニ」
「…………… 」
「ト、ハツレイケンジャデアル副大統領カラノオウカガイデス」
いちいち権威をかざすじゃねーか。
だがな…
「彼の愛国心は理解するが、行き過ぎた自国第一主義は、次代の選択肢を著しく閉ざしてしまう」
「オコトバデスガジェネラル。ステイツノハンエイハ、ジャパンノハンエイデモアルノデハ?」
「君と議論するつもりはない。私への協力要請は、特権事項を以って正式にお断わりする」
口を挟んだヘンドリクスに、局長はノーを突きつけた。
ほら見ろバカが。
「ジェネラルナラバソウオッシャルトオモッテマシタ。ダカラコソノワタシナノデス」
そう言ってヘンドリクス少佐が手を挙げると、海兵隊の連中は一歩前に出る。
「君らで我々に勝てるとでも?」
「イイエ。シカシワタシノブタイトジェネラルノイノチナラ、コチラハジュウブンナオツリガデルトイウコトデス」
「詰まらん。少佐よ、貴様は期待外れだ」
強気を崩さない局長。
何故なら既に移乗された際の戦闘隊形を取っている俺達の足元からは、いつでも特殊防弾装甲が張り出せる。
((根尾、お前は一応下がっていろ))
((これくらい問題無い))
けどこれは後々面倒になる。
指揮系統が全く別とは言え、友軍同士での戦闘なんて…
洋上に居ながらも空気は一気に乾き、グリップの握り具合を数度確かめた時
『淺ましくも愚かしいな』
「「「「「「「「「「ッ⁉︎ 」」」」」」」」」」
突如甲板の端から現れたフードの男。
ここから事態は思わぬ展開へ。
な、何者だ?
いやそれよりも、なんで隣で語らう様なあの声が全員に届いた?
((ブッー対象はV5。L3警戒で待機))
そんな戦慄と同時に、教官からは絶対待機の命令が出される。
「ン〜ジェネラルツツミ、コチラハ?」
「分からないな。私にも」
「ワカラナイ?アナタノフネナノニ?……オーケー、ナルバホンニンニチョクセツキクトシマショウ」
そう言いながらも俺達を疑っているヘンドリクスは、一層険しい空気を醸しつつ、耳に指を添え旗艦と交信した。
「…アナタノショゾクハ?」
「…………… 」
「 You affiliation. answer meッ‼︎ 」
だがどう威圧しようとも、ゆっくりと歩いて来るフードの男は何も答えない。
やれやれとヘンドリクスは肩をすぼめた次の瞬間
『ドババババババッ‼︎‼︎ 』
夜闇を裂くマズルフラッシュ。
「「「「「「「ギャァァーーッ」」」」」」」
それと同時に咲いた悲鳴。
一斉に倒れ伏した前列の海兵隊員達はのたうち回り、そこからは夥しい量の血液が流れ出る。
「ど、どう言う事だ根尾、分かるか?」
「いや、全く… 」
山県の言葉通り、この場の誰もが状況を飲み込めないでいると
「Wow〜ohーー〜ッ⁉︎ 」
突如ヘンドリクスが吹き飛ぶようにフード男の前へ。
「コ、コレハ…イッタイ… 」
しかもヘンドリクスの脚は、ブラブラと地面から10cmほど浮いていた。
何だこれ…
超能力?
" 対象はV5 "
最上位の非交戦対象…
一瞬で銃を抜いたヘンドリクス。
『ドパンドパンドパンッ‼︎ 』
「Awooohーーーー〜ゥ」
だがその結果は部下達と同様に終わる。
「ハァ、ハァハァ…Freak 、die 」
しかしヤツは荒々しい息を吐きながらも、フードの男を睨み捨て台詞を吐く。
『『ビシュォォオオォォオーーーーーッ』』
すると空気の灼ける轟音が、洋上にこだました。
「ブッー全員爆撃に備え退避ッ」
ホントに射ちやがった。
だがこっちは準備万…
教官の指示に反応する身体が突然固まる。
……………
いや、俺だけじゃない。
『『『シュゴォォォオオオーーーーーーッ』』』
山県も、局長と教官も、艦の全員が静止している中、四発のミサイルは泳ぐ魚のように夜空に弧を描いた。
おい迎撃…まさかブリッジの連中まで?
ダメだ間に合わないっ
と誰もが動かない身体を強張らせた。
ーシュゥーーーー
ーーシュシュゥーーーー
ーーーシュゥンーーーーーパパパンッ
『矮小よな。拍手程の衝撃も無しか』
しかし誘導され着弾するかと思われたミサイルは、フードの男のかざす手の中へと吸い込まれて消えた。
「「「「「「「「「「???」」」」」」」」」
その光景に誰しもが目を疑う。
が、全長4mを超えるミサイル四発は、確かに滑空して目の前で消失した。
最後に情け無い破裂音だけを残して。
〜「ぅおぉっ⁉︎ 動ける」
『60秒後、あの船を消す』
向き直ったフードの男の宣告。
「ヘンドリクス、全隊員に艦を放棄させろ」
「ナ、ナニヲバカナ… 」
「ブリッジ九鬼だ、90番を射て」
動揺から現状を受け入れられないヘンドリクスを無視して動く教官。
シュゥーー〜『ドパァァンッ』
命令後即時に発射されたのは、友軍に退艦を報せる二色の光弾。
その光が花火のように瞬き、ゆっくりと落ちていくと、あろうことか標的となった艦が海面から浮き上がる。
「Jesus… 」
「山県…アレ、浮いてるよな?」
「あ、あぁ」
まるでオモチャの模型に見える艦はそのまま上昇を続け、2〜30mの高さまにまで到達した。
『パンッ』
そこで死神による合掌。
ーーーー『『ヴィションッ』』ーーーー
それと同時に米海軍の誇るミサイル駆逐艦は、ミサイルと同じく跡形も無く消滅してしまった。
「ノォォーーーーーーーーッ」
悲鳴の様なヘンドリクスの声。
それを皮切りに、パニックに陥った海兵隊員達がヘリへと逃走。
がしかし次の瞬間
『『クシャクシャクシュ‼︎ 』』
ヘリは折鶴でも潰すかの如く、操縦士ごとペシャンコに圧壊。
駆け出していた海兵隊員達は急ブレーキをかけ、その場で力なく膝を折った。
「ア、アナタハカミ…デスカ?」
『逆であろう?欲深き貴様らにとっては。それに何をしようとも、こちらからの干渉は不可能』
「アゴゴ、ガっカカ… 」
『美しい地中海と違い、ここらの海は随分と汚れているな』
吹きさらしの風にロープの裾をはためかせる死神は、ヘンドリクスの額に指を突き刺しながら、ここまでの所業を行ったとは思えない口調でそう呟いた。
翌日、アメリカでは下院議長以外数名が辞任を発表。
そのまた翌日には、フランスの某血族当主と、中国国家主席の急逝が俺達の耳に入ることとなった。




