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RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ  作者: neonevi
▽ 四章 ▽ イエナイ疵痕は穏やかに心蝕す
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4-6 傷被者物価指数

side御月


「ーーで、あの後いきなり武装した軍人が乗り込んで来てヘリで強制連行」

「ヘリで⁉︎ 」


「ビビるだろ?んで洋上の巡洋艦で事情聴取。あ、プリペイドの携帯って用意出来た?」

「じゅ、巡洋艦って自衛軍すか?つか携帯(コレ)対策(ソレ)用すか?」


俺は頼まれてたガラケーを渡す。


「おっありがと。ん、なんか英米日合同の非公式な軍らしい。契約してる電話だと回線から盗聴されそうだからさ」


それでこの夜逃げ的な移動ね。


「またヤバイ橋渡ってますね。てかその話し、俺聞いちゃって大丈夫なやつっすか?」

「大丈夫じゃないねー」


シロさんは意地悪な顔をする。


「まぁでも連行の理由は本当に事情聴取だったからさ、大丈夫だと思うよ吹聴しなきゃ。ただ謎だったのがさ、オレら6人以外、向こうでの記憶が曖昧ぽいんだよ」


「………例えばっすけど」

「ん?」

「機内で集団催眠的な事があって、そのトラブルで飛行機が墜落…とかはないすかね?で、その影響で記憶が塗り変わった人や混濁してる人も出てる…みたいな。まぁそうは言っても俺自身、そんなガチの催眠とか1ミリも信じてませんけど」


「いや、良いようん。相変わらず御月のそう言う所好きだわ。信じてても盲信はせず、自分でちゃんと考えるところ。だから信頼出来るよな、互いに」


その反応は無いってことか。


「そう言うシロさんだから、俺も正直に何でも言えるんすよ。つーか遅いっすね」


「だね。あ、ちょっと電話させて」

「どぞ」


シロさんの周りはグレーな人が多いけど、まさかあの毒殺王子と会うなんて。


「………あ琴吹、オレ。…また用事が出来て行くことになった。もう病室も出たんだけど、……ちょっと時間が無いから聞け。帰って来たら連絡するから。……あぁ、ちゃんと戻るから心配するな。……うん、何?……ホントか?うん、うん、そうか、分かった、また連絡する。……じゃあな」


「いい加減付き合ってあげたらどうすか?こんなに一途で尽くしてくれる人、滅多に居ないと思いますけど?」


「……嫌だよ。自分のことくらい自分で出来るんだから、別に尽くしてもらう必要がない」


この言い方。

琴吹さんが聞いたら3日は寝込むな…


「助けに行く2人、可愛いんすか?」

「そうだなぁ、かなり美人だと思うよ」


つまり綺麗系か。


「その、チーフでしたっけ?シロさんぽい行動する人」

「オレっぽいかは知らんけど…まぁそうね、中々な人間だと思うよ。けどちょい待て恋愛体質。そんな数日じゃ何も分からんし、惚れたとかは全くないからな?」


「いや、世の中の普通はこっち。そんな数日でも惚れた腫れたしてんすよ皆んな。ましてや危機的状況っすよ?ロマンス盛り盛りじゃないすか」

「無いから、本当に命が掛かってたらそんな余裕なんて」


「はぁ……、そう言う所が皆んなを追わせるんですよ」


「つかなにお前、オレが行くの反対?」

「なに分かり切ったこと言ってんすか、ちょいちょい死に掛けておいて…。まだ惚れた女の為って言われた方が、応援も理解も出来ますよ」


「ゴメンゴメン、ってあ、来た来たハゲが『ウィーーーン』こっちこっち」


ったくこの人は…



『ガチャっ』

「悪ぃシロさん、ションベンしてたら見つかっちまった」


「なに和同さん、トイレの中まで行ったの?」

「入ってませんっ」


「つか八参、お前頬…と目も真っ赤じゃない?大丈… 」

「それよりもシロさんっ、私も連れて行って下さい。宇実果とチーフは、仕事関係なく大切な友人なんですっ」


答えようとしたハゲを押し退けて、ボーイッシュな女が必死に訴える。


「とりあえず乗って」


『ガチャン』



「和同さんは警察関係の特殊部隊員なんだよね?」

「そうです」


と、警察の特殊部隊⁉︎

また濃い新キャラ来たぞっ

つか行方不明の2人と仕事関係ってんならCAじゃ?


「任務で人を殺めたことは?」


っ…


いきなり来た質問に思わずバックミラーを見ると、俺の視線に気が付いたハゲが顔を逸らす。


「無い、です」


だよな。


「人にブッ放したのは九鬼さん時が初?」

「はい」


いや撃ってんかお前。


「結果九鬼さんは助かったけど…その前、撃った相手が突然血を吐き出した時はどうだった?」

「ショックでした。でもそれは、操られていた九鬼さんが元に戻ったからで、敵だったら躊躇も容赦も、ましてや後悔なんてしません」


おぉ……淡々としたこの冷徹さ、中々の迫力。

ただスゲェ物騒な会話ながら、やり取りはメチャ詳細で齟齬も全くない。

やっぱ催眠って線は無いか。


「なぁシロさん、とりあえず出そうぜ?連れてかねぇならどっかで降ろしゃいいだろ」


「そうだな。よろしく御月」


バックミラーのハゲは窓の外を見たままだけど、心なしイラついている感じ。


「うっす」

「あ、今回はN気にせず最短で行っちゃって良いから」

「え?そうなんす?」


「うん。あんなレベルだと衛星使うだろうから、バレたらバレたで仕方無し」


衛星…

そりゃ無理だ。


「分かりました」


病棟一階の駐車場を時計回りにグルリと周り、川沿いの公道へと出る登りスロープに差し掛かろうとした所で


『キキィッ‼︎ 』


「うわっ⁉︎ 」


順路を逆走して来た黒いセダンが急ブレーキ、進路を横断するように塞いでライトを点灯。


マジか…


「……シロさん、どうします?」

「クラクション」


『プォーーーーーーーーッ‼︎ 』


正面を向いたまま指示通りにするも、車は少しも動く様子がない。


「やっぱ野放しにはしないよなぁ堤さんは」

「なぁシロさん。行かないって選択肢はあるのか?」

「無い」


「クク、だよな。んじゃぁさ、全部俺の(せい)で良いから突っ込んでくれ」


即答したシロさんを嬉しそうに見るハゲは、無責任な提案をする。



「……御月、車「ちょい待てお前、この車が幾らするか分かってんのか?」


それに乗ってまた損害を被ろうとするシロさんを遮り、俺は世間知らずのハゲに大人の現実を突きつける。


「あ?……知らねぇよそんなもん。じゃこの車代+100万払う。そんでいいか?」

「ガキかお前。そんな口約束で… 」

「絶対に払う。だから頼む」


目付きは悪く、言い方も粗雑だけど、バックミラーのハゲは頭を下げた。


「はぁ…分かった」

「ゴメンな、ありがとう御月」

「いっすけど、運転は替わりませんよっ」


俺を下ろそうとする雰囲気で、ギヤを4Dに入れる。


『『ブオオオォォォッ‼︎‼︎ ギキュキュゥッ』』


いきなりのアクセルベタ踏みでエンジンが唸り、悲鳴を上げるタイヤが地面をグリップ。


「ちょ⁉︎ 」「うおあッ」


シートに吸い寄せられる身体。

後部座席の驚く声とは違い、シロさんだけは手足をしっかり踏ん張っていた。


「偉そうに塞いでんじゃねぇーーーーーッ」


『『『ゴガンッ‼︎‼︎ ガギギギボゴッゴガガッ‼︎ 』』』


不快な音と衝撃が車体を揺らすも、車は黒いセダンの左前を上手く押し退けスロープに。


「おおナイス御月っ、っと、どうした?」

「ウハハハハハハっ、うぉっ」


シロさんとハゲの笑い声を聞きながら坂を登り、公道へと出たところで急停車しギヤをバックに。


「何で停めんっ… 」

「ウルセェッ」


『ンオォォッ‼︎ 』


『『ゴガッシャァァッ‼︎‼︎ 』』


「キャァっ」


ピッタリと追ってくる背後のセダンが、公道へ出ようしたタイミングで再衝突。


『ンオオオオオォォッ‼︎ ジュギギュギュギュ』


「四駆ナメんなオラァ、落ちろぉぉ」


『ギジュギギュギュギュ』


斜めになっているセダンを押し返し


『ドッドッ、〜バキバキバキっ〜 』


ガードレールの無いのり面へと強引に突き落とした。


「シャァァっ、行きますっ」


『ブォォォーーーーッ』


バックミラーを確認しつつ川沿いを抜け、左折して橋を渡る。


「プッ、ハハハハっ」

『パンッ‼︎ 」


そこで吹き出したシロさんとハイタッチ。


「リュウコウさんと言い、シロさんの仲間はスゲェなホント」

「だろ?皆んな揃ってバカなんだよ」


ハゲの素直な賞賛に、シロさんは満面の笑みを浮かべる。


「御月だっけか?最高だぜ、ありがとな」


「いいけどちゃんと金は払え。あとシロさんに迷惑ばっか掛けんなよ、八参」


「ハハ、了解だ」



それからすぐ、シロさんは意思を曲げない和同って女の同行を了承するが、俺が頼まれた旅の物資は二人分。


「あの、もし寄り道が可能ならすぐに用意出来ます」

「距離は?」

「ここから10分掛かりません」


頷いたシロさんを見て行き先を変更。

何事もなく数分ほど走っていると、さっきまでの興奮が冷めて落ち着いてきた。



はぁ、やってしまった。

買って一年ちょいでベコベコか…




……




「ここで」

「ここ?」

「えぇ」


言われて停車したそこは、JRの高架橋と、更にその上に高速道路が重なっている、主要道から一本逸れた人通りの少ない道路脇。


マンション…とかないけど?


だが車から降りた和同は俺の視線とは逆、高架下の立入禁止(道路公団)とある高い金網の扉を開き、コンクリートの倉庫の様な建物の中へと入っていった。


「…こんな、都市伝説みたいのもあんすね」

「ホントね。けど大概の事は知らず関わらずが一番だよ」


そんなシロさんの言葉通り、和同はいかにもな黒い装備に身を包み、ゴルフバックのような荷物を担ぎ出て来た。


ドサっ

「お待たせしました」

「それってライフル?」


普通に聞いた…


「本来の私は狙撃手なので。あとハンドガンを三丁と催涙弾に携帯食料、それに折りたたみ自転車を持って来ました」


なに、銃撃戦でもするの?


「任務外の持ち出しは懲戒もんじゃない?」

「それならそれで構いません」


俺は構うけどな。


「ふ〜んあそ。テイザーは?」

「ここには無いです」

「そっか。じゃ御月、宜しく」


ブルブルっ

「〜〜っ、うす」


頭を振り、要らぬ心配を追い出した俺は、例の海沿いへと向かってアクセルを吹かす。


映画の運び屋みたいな気分で、霧雨みたいな雨を跳ね除けながら。






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