3-51 Sick迅雷
sideシロ
で、ここはあの世とかなん?
《ンー〜…それよりシ、ロは分かる?》
何が?
《何ってボ、クの存在》
声じゃなく?
《うん。ボクはシロ、との繋がり、を、存在を強、く認識して、いるんだ》
ホルスの……存在か…
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3ヶ月前(日本に戻って数日後)
ジジジジジジジ
ジジジジジジジジジ
ジジッジ
ジジジジジッジジジジジジジッ
「マジやっちまったぞ俺。お前の母ちゃんにド突かれんじゃね?」
「……〜〜っ、アホ、もう子供じゃねぇ…よぉおぉ」
おぉぉ、マジで切れない剃刀だっ
イッタ…いっぅっ…
「ブハハッ、流石のシロも手を握り締めるくらい痛いか?」
ジジジジジジジジジジジジッ
「マジで切れない剃刀だなっ…ってかこれ後どんくらいかかる?」
早く終わることを願いつつ聞く。
「眼はまわりも含めて2時間ありゃいけるな。けど羽がな〜……ン〜〜最高速でブッ飛ばしても5〜6時間はかかるわ。どする?日ぃ改めるか?」
ジジジジッジジジジッジジジジジジジジ
「いや、全、部頼むっ」
あの時の、身体を貫いた痛みに比べたらこんなもの。
ジジジジッジジジジジジジジ
「オッケェ。んじゃ頑張って行きましょかっ」
ダイヤはノリのイイ熱のこもった声で答えた。
ジジジジジジジッ…
ジジッジ
ジジジジジッジジジジジジジッ
ジジジジッ…ジジッジ
ジジジジジッジジジジジジジジジジジッ
ジジッジ
ジジジジジッジジジジジジジッ
「……っ……ぅ、っ… 」
ジジジジジッジジジジジジジッ
ジジッジ
ジジジジジッ
……
…
ジジジジッ…ジジッジ
ジジジジジッジジジジジジジジジジジッジジジジッ…ジジッジ
ジジジジジッジジジジジジジジジジジッ
「……ぅぐっ、っぅ」
ジジジジッ…ジジッジ
ジジジジジッジジジジジジジジジジジッジジジジジッジジジジジジジッ
ジジッジ
ジジジジジッ
「……ー〜〜っ…… 」
ジジジジジッジジジジジジジッ
ジジッジ
ジジジジジッ
…〜〜
ジジジジジッ
ジジジジッ
ジジッ
ジジジジッ
ジジジジジッ
……
…
…
「…どうだ?無くすのは出来ねぇけど、上から色被せて多少の修正は出来るか。なんか気になる所があれば言ってくれよ」
「………、……… 」
鏡に写るのは、全てを見通すと言われる眼と翼。
背中の上部に置いた目は、賢いアイツの魂。
そこから心臓の上を通り肋まで羽ばたく下向き翼は、身命を張ってくれたアイツの身体。
オレの中にはアイツがいる。
「ダイヤ、流石だ。完璧だよ、ありがとう」
終わった後はシクシクする痛みより、身体中に入っていた力みの疲労感が凄かった。
けどそんな不快な筈の全部を、今は心地良くすら感じている。
「……命の恩人って言ってたな。宿ると思うぞ」
「そう願うよ。神様にだって心の底から」
この痛みでやっと少しだけ、少しだけなんだけどホルスに身体を返せる気がしたから。
「らしくねぇことを言うようになったじゃねーか」
「可笑しいか?」
「いや、良いんじゃね?普通っぽくて」
それが自己満足でしかないことなんて、百も承知だとしても…
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
あぁ…感じる。
背中に感じるよ。
《じゃ視える?》
見える?
《オッケー分、かった。頭の中、を楽にして》
頭の中を楽に?
奇跡的な再会。
不可思議な今。
オレの混乱は増すばかりだというのに、矢継ぎ早に指示を出してくるホルス。
けどコイツが言うのなら、それは今のオレに必要だってこと。
《ふふ… 》
頭を楽にってのは無になる感じか?
それとも気持ちを鎮めるだけで良いのか?
《後者かな、ぁ多分。ボクを周囲、毎感じ取、る感覚?》
背中のホルスごと、周囲を
感じる…
「《……… 》」
うおっ‼︎⁈
突如白黒の版画の様な、けれど色も認識出来るエコーの様な画像が現れる。
なんだ…これ?
《それがボク、の視界、みたい》
何とも表現し難い異様な感覚だけど、それにより自分の視界の外側までが視えた。
こ、こんな事が出来るのか…
《じゃ手も治、ったし、そろそろ行、こう》
行く?
そして言われてみると、千切れそうだった左腕どころか、全身の細かな傷や痛みまでもが消えて無くなっていた。
何で?
ちょっと待てっ
リュウコウ君は?リュウコウ君のことは知ってるのか?
《……それはあ、とで。もう時間だ》
うわっ
ー
漲るホルスに引っ張られ
ー
ーー
意識が感覚が
ーーー
ーーーー
急速に浮上していく
ーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
「……ンッムぅー〜ッ」
最初に感じたのは息苦しさ。
《大丈夫、反撃開、始だっ》
おおッ
仰向けで押さえ込まれる手足を思い切り振り動かし
「ンォらぁァァアーーーーーーッ」
《ンアァァアーーーーーーーーッ》
僅かに隙間の空いた瞬間身体を捻りつつ引き抜いて、そのまま一気に腰を持ち上げると
『オボっ‼︎ 』『オボぉぉ⁉︎ 』『ボあぁー〜⁉︎ 』
さっきまでとは思えない程軽々と、まとわりつくゾンビ達が振り解ける。
「うぉォォーーシロさん無事かァァーーーーー」
「シロさ…んっ」「シロさんっ」
喜んでくれる皆んな声を受けながら、素早く足元の剣を拾い上げると
" 得物を持った自分の間合い。剣先10cm。イヤになる程繰り返したろ?"
" いいか?敵がこっちの位置を定めた瞬間に、その線上から軸をズラすんだ。すり抜けるよう前に向かってな?けど早過ぎはダメだぞ "
頭に響くブレィアストの声。
そして周囲のゾンビ達が少しスローに感じるけど、極鮮明な感覚は気を失ったさっきとは真逆。
前へ?こうか?
襲い来るゾンビと接触するかと思うタイミングで踏み込みスレ違う。
ズザッ
ー『ザシュッ』ー
と、そこには敵がポッカリ居ない。
振れる、動ける。
ーザシュー
ーーザシュー
感じる、見える。
ーーーザシュー
ーーーーザシュンー
そして誇張でなく羽根のように軽い身体でそれを繰り返すと、周囲のゾンビは瞬く間に倒れ伏した。
「フゥーー… 」
《スゴいよシ、ロっ》
「HOLY…FU◯K」
「ぅぉぉ〜、やっぱとんでもねェェーーー」
そこに開く、ヤツまでの一本道。
《すぐに復活、する。今の内、に行こうっ》
あぁっ
馴染んで行く身体。
重なり合う2人の共感覚。
『ダッ』一歩
『ザッ』二歩
蹴り出す足がカモシカのように跳ね
『ザッ』三歩
『ザッ』四歩
その押し上げられる様な推力を押さえ込むよう前傾すると
『ザッ』五歩
『ザッ』六歩
視界は滑走するかのように流れ始め
『ザッ』七歩
『ザッ』八歩
いつも越えられなかった自分の壁を
『ザンッ』九歩
『ブワァァ』ーーシューー
突き破った。
ダザダンッー〜〜
「ウゥラァァーーーーーーッ」
《お返し、だァァーーーーッ》
その爆発的な加速から飛び上がり、竹のようにしならせた反動を肩から腕の先に乗せ
叩き付けるっ
『『ガッギィィィンン‼︎‼︎ 』』
ー「ッ〜づぁァァっ」ーズザザァーー
受け切れず転がる巨体。
「ハァハァハァ、もう大丈夫だ皆んな。後は任せて⁉︎ 」ブシっ
「ま、漫画みてぇな鼻血⁉︎ だ、大丈夫かよホントにっ」
「あぁズズっ、問題無…い 」
ツ‼︎
問題発生…
オレ、多分ションベン漏らしてる。
《あぁ、大じゃなく、て良かったね》
「ハァ、またか… 」
《うん、股だ》
余裕あんなお前っ
「また?ってことはお前、もしかあの巨獣なのか?」
「フフフ、中々鋭いじゃないか。予想外の凝縮には手を焼いたが、確かにアレを使役していたのは私だ」
そう言ってヤツは得意気に語る。
「なぁ、コソコソコソコソ乗り移らず直接来いよ」
「心配か?コイツが。容赦無く撃ってくれたもんなぁ仲間なのに」
負傷箇所に手を当てるヤツは、銃撃した和同さんを見て嗤う。
「何でお前が仲間なんだ。和同さん、あの時は助かったから」
「…いえ」
「フハっ、しかしこれ以上やると死ぬぞ?」
「あっそ」ダザッ
ーヒュー『ガギィィバキン‼︎ 』
「ンな⁉︎ 」
さっきの一撃で亀裂があったのか、ヤツの剣が中程で砕けた。
空かさず剣を振り上げると、焦るヤツは受けようと折れた剣を上げる。
ダザッ
ー『ドフッ』
「…ッグ〜」
そこで空いた懐へタックルをし
『ドッ』
「いギャ‼︎ 」
上がっている右腕の肘を左腕の掌底で跳ね上げて
ズザッークルっー
そのままヤツの右側を回転ドアのように反転し、右背面に肘を
ー『ドスゥッ‼︎ 』
叩き込むッ
「〜っ…その力は透過か?だがやはり殺せないようだな…クク」
そう言うヤツは平気そうにしながらも、右腕をダラリと下げている。
脱臼?
《シロ、多分シロ、の左腕、が効いてる》
左腕?
《ボクには感、じるんだ》
「…左腕、か」
リュウコウ君が繋いでくれた。
「ッ… 」
その呟きに、ヤツは明らかに動揺した。
それからは一方的。
「あぐゥ」
「ギぁっ」
一撃入れる毎にヤツの自由は失われていき、ゾンビの動きまでが見る見る緩慢になる。
「ハァハぁハぁ、今回、は、完全にして…やられたが、私も、ただではやられんぞ」
『ドサっ』『ドサっ』
『ボトボトボトっ』
膝を折ったヤツがそう言った瞬間、ゾンビが一斉にバラバラに。
そして死体を繋いでいたと思しき黒い影が、糸を巻き上げるように収束して飛んで行く。
「止めろボケェ」
『バゴッ』
「ゥブフッ…もう遅い」
「逃げろ皆んなァァアっ」
オレの掛け声で全員が蜘蛛の子を散らす。
「八参君ッ『ドンっ‼︎ 』
「キャァっ⁉︎ 」ーー
「真黎さんっ⁉︎ 」
しかし八参を庇った真黎さんが、伸びて来た影に足を掴まれ引き摺られる。
「「「「「「‼︎⁈ 」」」」」」
ダッダッザッダンー〜
ー「真黎さァんっ」ー〜『ガシっ』
飛び付き真黎さんの手を掴んだのは、そばでいち早く反応した宇実果さん。
「「ナイスゥッ」」「GJッ」
ーーズザザーーザザザーーーーー
ーー「「キャぁぁー〜ー〜」」ーーー
だが、多少遅くなったものの2人は止まらない。
ダッダッザッザッザッザッ
「ッー〜真黎さんーーーーーーー」
痛めた足も何のそのでダッシュする八参。
「根性見せろ八参ィィーーーーーーーっ」
行けっ
ーー〜ズザザーーーーー
ー〜ーー「宇実果放してッ」ーー
ーーーザザザ〜ーーーーー
ーーー〜ー「ー〜ダメッ、放さない」ーーーー
ダッダッザッザッザッザッザッ
「ウォオァーーーー姉ェェーーーーーーーー」
あと少し
追い付くっ
『ガシッ』
ー「ンわぁっ‼︎ 」ズザザァーー
しかし、あと半歩。
半歩で届くと言うところで八参は転倒。
ーーー〜ズザザーースゥ
ーーーー「「キャぁぁー
ーーーシュンーーー
2人は飲み込まれ、その瞬間黒い渦も跡形無く消え失せてしまった。
「ー〜ッ、ハァハァハァ…、ハァハァ、何が……って何でテメェが」
「悪いね」
尻もちをつく八参の腰にしがみ付いていたのは新美さん。
「テンっメェェッ、何してくれてんだよクソッタリャァァぁあーーーーーーーーっ」