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RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ  作者: neonevi
▽ 三章 ▽ 其々のカルネアDeath
101/128

3-42 Star Trap〔P3〕

side八参



「た、助かった…のか」


「お久し振り?ですね、九鬼さん。長髪、なかなかお似合いですよ?」



「ハハ、ハ…君は、何者なんだ本当に」


突然の脱出劇。

混乱覚めやらぬ九鬼のおっさんだが、シロさんの軽口でその目に光を戻し、分厚い身体を力強く立ち上がらせた。


「マジでどうなってんらよシロさんっ」


「そこはサッパリ。たださっきの状況、九鬼さんがずっと生きてたってことは基本殺す罠じゃなく捕らえる罠ってことだろうから、出られる可能性も有ると踏んで何でも試すつもりでいた。で、結果捕まった本人からは見えない状態(ブラインド)で、しかも後ろ向きでしか出られない空間だったと」


いや、俺からしたら色々理解が出来ねぇって。


「何でも試すっつったって、助けるんなら普通そこに行くことを考えんらろ?」

「そりゃそうだけど考えてみろよ。九鬼さんが出られない様な場所なんて絶対普通じゃないだろ?だからそれ前提で手を尽くしてみて、助けられそうにないのなら一旦諦めるしかないとも思ってた。だからこんなに上手く行ったのは本当に偶々。運だよ、九鬼さんの強〜運」


やっぱぁこの人の行動と線引きは普通じゃねぇ。

そもそも呼ばれたってとこから意味分かんねぇし。


「デカい、借りが出来てしまったな」


「借り?加勢してもらった件とでチャラですよ」

「あれはっ…俺達が先に戦っていて、加勢されたのはむしろ… 」

「ては目的の一致、それだけです」


「フ…そうだな。君がそう言うのなら、そうしておくとしよう」


「ほらよおっさん」


「あ、あぁすまん。ゴクっゴクっゴクっゴクっゴクっ」


返り血…とかはねぇな。


『シュルルルル』


「どうした?この人は大丈夫だから落ち着けよ。それで九鬼さん、その1年半の間誰かを見かけたり、何かと遭遇する事はなかったですか?」


「いや、ずっと…ずっと1人だった。君らはこれからどうするんだ?」


「約束通り巨獣を倒したので、帰れる準備が整う前に皆んなと合流しようと呼びに行く途中です。九鬼さんは一旦戻りますか?飛行機には新美さんらも居ますし」


「新美か… 」

「気に掛けてましたよ?」

「アイツのは歪んだ興味だ。君らは仲間ではないよな?」

「仲間ぁ?なワケ『グイっ』

「はは、成り行きですね」


こんな状況で余計なことを言うな、とばかりにシロさんに服の裾を下に引かれる。


俺を追って来た殺し屋だよ、クソ殺し屋っ


「それならおっさんこそ何者なんら?飛行機に銃を持ち込めるって軍の人間か?」


「…軍は元、だ。今は……国を跨いだ組織に居る。これ以上は出来れば勘弁して欲しい」


助けられた手前、言えないとは言わないおっさん。


「まぁ危険が無いなら良いよ」


「危険?と言うと、また何か有ったのか?」


そして俺は機での事を説明する。



「…そうか。だがどちらにしろ今戻るのはマズイ…と思う。ここに来る途中、死体を見なかったか?カップルの」


「いえ、見てませんが、それが何か?」


「見ていない…と言うことは、今居る場所とは道が違うのか………あぁすまない。実は俺が大将達避難組の方へ向かっている時、途中に見覚えのある若いカップルが死んでいたんだ。ミイラ化して」


「「ミイラ化?」」

「あぁ。それも死んでからのミイラではなく、老化した白髪のミイラだ」


白髪…


「それで、外傷も何も見当たらなかったから俺なりに考えた。おそらく戻ろうとしたこの2人は、引き返したからそうなったのでは…と。君らの話しを聞く限り、その予想は満更外れて無かったみたいだが、避け切る事までは出来なかったらしい」

「いや、素晴らしい直感ですよ九鬼さん。もしそこで戻っていたら、今こうして会えなかった可能性が高い。ただこうして合流出来たと言うことは、ここはその抜け出せない道ではない…と思いたいですね」


「…そうだな」

「では、一緒に先へ進みま… 」


バッと前を向いたシロさんに追随すると、洞穴の奥から明かりが……いや、パタパタと倒れるドミノが別の模様を作り出すみたく、暗い灰色の洞穴は、天井、壁に床までが、絢爛豪華な極彩色の通路へ。



「…………、………… 」


目が眩みそうな色とりどりのステンドグラス。幅6〜7mはある重厚な真紅の絨毯。


今度は何だ?

化かされてんのか?


〜ヒヤッ〜

「ー〜ッ」


冷…たくない。

何だ今の変な感覚は。


そしてその変貌は、身構える俺たちを無視して追い越して行った。



「これ、どう思います?」

「すまん、捕まった俺は君の判断に委ねたい」


「……………では進みましょう」


そうして俺たちは、息を飲んで踏み出したその一歩目で


「「「…っ‼︎ ……、……… 」」」


揃って動きを止める。


何故ならその一歩で十歩分くらい景色が移動したから。



「何だよこりゃ、気持ち悪ぃ… 」

「シロ君、どうだ?」

「変な感じはしないですけど、動く床の進化版、とかですかね?」

「それを言うなら俺はゲームの滑る床を思い出したぜ。間違うと落とし穴に落っこちるや… 」


「「「……………… 」」」


俺の言葉でシロさんと九鬼のおっさんと、俺自身までもが固まった。

この危険に溢れた世界において、異様に豪華な人工建築物の出現は…


今まで以上の罠、しか連想出来ない。



トンっ

「っ…どうした?」

『シュバフっ』


「なんだ?大丈夫ってことか?」


黒スケリーダーはシロさんの背中を頭で押し、返事をするように一鳴きすると、コッチを見ながら駆け出した。


「アイツはワープしないのな?」

「あぁ。先導してくれるみたいだから行こう」


俺たちは黒スケの後を追って二歩目を踏み出した。


そして三歩、五歩、十歩…


景色はビュンビュンと流れて行き、乗り物にでも乗っているかの様な感覚で前へと進む。




ー「……もう十歩どころじゃねぇな」ーー



ーー「歩いているのに全速力よりも早いのは… 」ーーー



ーーー「えぇ。これはきっと、何かに招かれているんでしょうね」ーーーー



そんな会話をしていたら、あっという間に目的地が見えて来た。



「追いついたっ」


「…止まりましょう」


通路に広がっている避難組を見て湧き上がった安堵は、シロさんの一言により直ぐに消し飛んだ。


「おい……大将っ」


果てない通路にこだまする太い声。


松宮姉…も居るな。



だが、20人前後居るだろう避難組は、誰一人として答えない。

誰一人として反応すらしない。


避難組(アイツら)は全員が全員とも、まるでこの荘厳な室内の、オブジェみたいになって固まってしまっていた。


「次は助ける側か……。だが掴めば動き出す…なんて単純な仕様では無いよな」


「××?×××××(おたくか?これをしたのは)」


またあの女と会った時同様、シロさんが不思議な言葉を話し始めた。

それを聞いた九鬼のおっさんが、目ん玉広げてこっちを見るが、シロさん自身も分かんねーから俺も首を振るしかない。



「×××××××(これは失礼を致しました)」


「「ッ〜⁉︎ 」」


正面で固まっている真黎さんと名前の知らないCA、それと緋芦花って女の子を負ぶった体格の良いじぃさんら4人の向こう、何も無い場所から突然、真っ黒なコートに身を包む男がスゥッと現れた。










side宇実果


←ー←ー←

数時間前

←ー←



こちらへと近付いてくる灯り。


それは灯りだけじゃない。


真っ白な壁の天井近くには、目を釘付けにする青を基調としたステンドグラスが音も無く配置されていき、この空間自体が全くの別物へと変化して行く。



パシャシャシャッ

直ぐ横で鳴るシャッター音。


「え?何?」


通路の真ん中で列をなしていた私達は、誰も動いてはいないのに通路の端へと移動した。


「何だ?」「は?」「なになになに?」


ここまで来て、初めて全員がこの状況に気が付く。


あれ?梓が向こうに…


〜ヒヤッ〜

「ー〜ッ」


そして一瞬の寒気の後、通路の真ん中をキメ細やかな真紅の絨毯が魔法の様に走って行く。


「美沙子っ」

「玉君っ」

「何だ⁉︎ 何も無いのに行けないっ。そっちは?」

「こっちも、こっちもよっ」


絨毯に隔てられ、左右に別れてしまった野木ご夫妻のやり取りで、私達もこの異常な状況を知る。


「松宮さん、緑川さんっ」

「宇実果っ」


変わらず通路中央、絨毯の上に居る真黎さんと比奈が、隔てられた私と咲を見て叫ぶ。


タッタッタッタッ

「前は、ダメだ。これ以上進めない。後ろは?」


タッタッタッタッタッタッタッタッタッ

「後ろは、……行けるっけど中には行けないっ」


私が居る方で野木さんのご主人と、その声で後方へと走って確かめる男性が言う。



「堤さん、どうすればっ」


スタ、スタ

「…私達は、進めるか。さて」


野木さんの切羽詰まった問い掛けに対し、二歩程進んだ堤さんは冷静に呟いた。




「××××」













キィーーーーーーーン…







「…ぬゥッ⁉︎ 」「ハッ‼︎ 」


小さな耳鳴りが消えると同時、突然後ずさった堤さんと比奈。


誰?


その先には、さっきまでは居なかった全身黒ずくめの、黒い仮面を付けた大男が立っていた。


「大将ぉッ」


「っ⁉︎ シ、シロさん」

「九鬼、なのか?」


真黎さんと堤さんに続き、私も後ろを振り返る。



「や、八参君、良かった……。あれ?だけどどうして急に?」


タタタタタタッ

「バっカヤロー、良かったはこっちの台詞らぜ松宮姉ぇ」


見えない壁に隔てられた向こう、絨毯の上に居る八参君が私の前まで走って来て、鋭い目尻にシワを寄せて微笑んだ。


「そうなの?フフ」


彼らしからぬその眼差しの柔らかさは、私の疑問を緊張ごと吹き飛ばして頰を緩ませた。



「×××××××××××××××、×××××××××××(ワタシとしたことがメインゲストをお迎えする前に先走ってしまいましたので、勝手ながら他の皆様には少々お待ち頂きました)」


「×××?×××××××××?(待たせた?なら九鬼さんのことは?)」


「×××××××、×××××××(それに関しましてはまた、別の事情でございます)」


これ何語?

英語フランス語ドイツ語スペイン語…そのどれでも無い言葉で会話をするシロさんと正体不明の男に、この場にいる全員が視線を注いだ。


「シロ君。出来たらでいいが、俺達にも内容を聞かせては貰えないか?」


「そうですね、分かりました」



「ンンっァ〜〜、その様なお手間はお掛けいたしません。ワタシの方が話音を整えましょう」


「「に、日本語だっ」」「日本語が話せるのかっ」


「その前に一度だけッ、忠告をしておきます。この絨毯の上におられる方以外は、その口の一切を開かぬように」


いくつかの声が重なった様な声で話す黒ずくめの大男は、真っ黒な人差し指を立てた長い両腕を、左右に居る私達へと突き出した。

その丁寧な話し方とは裏腹な、高圧的とすら感じさせる荒々しい動作で。



「「「「「「「「………… 」」」」」」」」


それにより目を合わせた私達は、一斉に頷きあって口を閉じる。



「結構」


思うことは多々あれど、今何をするべきか、何をしてはいけないのかをここまで来た面々は分かっている。

解っているからこそここまで来れた。



「それでは貴方様と従者の方、こちらへ」


「従者?」


そう言って自らを指差した八参君は納得した様に頷くと、片足を引きずる様にしてシロさんに続いた。


道を開ける堤さん真黎さん比奈。


そしてシロさんと八参君が目の前に来ると、黒ずくめの男は2人をこちらへ振り返らせ手を上げる。


「「ー〜… 」」


すると2人が2メーターほどの高さにフワリと

浮き上がった。


「ではお報せします。先刻、この方と従者のご活躍により開放は成されました。間も無く約束である帰還への道が開かれるでしょう。それでは皆々様、貴方達をここへと運んだものの元へと急がれよ」




その瞬間、声無き歓喜がこの場を包み込んだ。







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