第七話 ベランダの流星
Ⅰ
〔聖徳絵画記念館〕
明治神宮外苑を観光バスなどで初めて訪れ、目にした者は、十人中八人は国会議事堂と勘違いする建造物だ。
夏休みを控えた日曜の夕方、一体の怪獣がこの前から伸びる銀杏並木を割って現れた。電気・水道・ガス管・光ファイバーケーブル・地下鉄などのインフラをかいくぐってである。
「あの地域にある、戦時中に大本営が造りかけた司令室用防空壕や未完成のままの地下鉄のトンネルで怪獣を育てていたんだろう。土の掘削量が少なく、地中音響探知機でも観測できなかった」というのは、後日のシンイチの談である。
体色は暗い深紅。寸胴の太めの胴体に、多頭竜の首か、あるいは指にも見える五本の触腕を戴いている。胴体上部には一箇所、眼球とおぼしき灰色の結晶体が埋まっていて、そこが体の正面だと伺わせている。怪獣の特徴は、アキラに「殺意に満ちたイソギンチャクまたはオニヒトデ」と言わしめた。後者をとり、シンイチは怪獣を〔アカンサスタ〕と命名した。
ATMに政府から出動要請が行われた。カズヤにはパトカーが迎えに寄越され、羽田空港からリレー方式でヘリコプターに乗せられた。
彼の隣には、いつもいるはずのユウはいない。ずっと呼び出しを続けたカズヤのスマートフォンは電池切れになってしまった。
神宮外苑の現場に到着したとき、すでに自衛隊の高速装甲車が砲撃を始め、旧ATM譲りの怪獣用体細胞破壊弾は有効に見えた。肉片が確実にえぐられ、周囲に飛び散っていたが、怪獣は悠々と銀杏並木を闊歩していた。記念館の正面では、スタッフが総出で貴重な絵画をトラックに積み込んでいる。これが国会議事堂や霞が関の庁舎だったら、避難やデータのバックアップは簡単にできていただろう。この場所への出現自体、想定外だったのだ。基本人力による移動しか手段がなく、かつ慎重に扱わねばならないものだけに搬出は進まない。砲弾をまったく意に介さないまま中庭に達したアカンサスタが、記念館の屋根に、触腕を振り下ろそうとした時。
上空から、カズヤが巨大化しながら急降下してきた。落下しながら空中で体勢を整え、右足の底にナットリウム光壁を展開し、触腕の根本めがけて全体重を突き刺す――。が。
(止めただと?)
カズヤの足は、引き返してきた触腕に止められ、跳ね返された。絵画記念館前の駐車場で尻もちをつき、止まっていた自動車を十台ほど押しつぶしてしまった。
「カズヤ、慌てるな。本家アストロマン並みの活躍は誰も期待していない。記念館スタッフが避難を終えるまでの時間を稼げればいい」
記念館の周辺では分析のための肉片回収が始まっている。さらに破壊力の強い砲弾も現場に到着する予定だ。火力で撃破できずとも、アカンサスタに有効な酸なり塩基なり神経毒を開発できればいい。
「それが変だ、シンイチ。活躍がどうのこうのいう問題じゃない!」
カズヤは自分の仮説を確かめるかのように、チョップを連続して打ち込んでみた。凶悪な女トレーナ、別名高峯ユウのいびりもとい訓練のもと、カズヤのアストロ・チョップは切れ味鋭い手刀として研ぎ澄まされている。
「触腕の先端を鮮やかにそぎ取っているように見えるが――」
「いやシンイチ、カズヤの言うとおりだ。全く効いていないぞ!」
アキラは現時点で判明しているデータをざっと眺めた。チョップを受け止めている触腕の先端は、アカンサスタの体の中でも最も再生が早い箇所だ。
「本当だな。打ち込んだ十八発全てが、このダメージが少ない箇所で受け止められている」
「偶然にしちゃあ、小賢しさを感じるじゃないか! カズヤ、いったん距離を取れ。どこかで君たちの戦いを観測し、怪獣に指示を送っているやつがいるはずだ。シンイチ、現場周辺の電波塔を使って、宇宙人からの脳波とおぼしき電波が出ていないか探るんだ」
「とっくにやっているが、それらしい脳波は検出できていない」
アキラとシンイチは無言のうちに顔を見合わせ、共通の見解に達した。
「これまでの怪獣と違う。自律して行動している」
「あるいは、あれ自体が宇宙人なのかもな。ところがどっこいだ。旧ATM時代にも、無限に再生を繰り返す怪獣はいたんだぜ」
いくら科学が発達しても、無から有は生み出せない。原料が何もないところから組織は再生できない。再生の原理は、植物が空気中の二酸化炭素と土中の窒素からアミノ酸・脂肪酸を合成する仕組みを発展させたものにすぎなかった。
「毒を生成する上での選択肢が増えただけだ。空気か地下水のどちらかに、再生を阻害する物質を混入させてやればいい」
「カズヤ、自衛隊から通報が来た。これから怪獣に集中砲火を浴びせる。お注射が用意できるまで、丸裸にするとさ。……おっとATMの計算部門がおいしい結果をはじき出したぞ。この火力なら、触腕どころか本体にまでダメージを与えられる」
アキラの言葉に従い、カズヤは記念館まで退却した。正面玄関には、大型のトラックが横付けしている。
打ち上げ花火のような音が四方八方から聞こえてきた直後、アカンサスタの触腕で火花が炸裂した。一発だけではなく、瞬く間に数発。火炎と煙がアカンサスタを包み、肉片と体液が神宮一帯、二つの球場と競技場、信濃町駅前まで散らばる。
カズヤはしゃがみこみ、玄関先で絵画を抱えたまま身動きできなくなっていたスタッフを爆風から守った。
砲弾の驟雨が止む。爆炎と砲弾の破片が、直後に吹いた風に掃き流されると――。
怪獣は、そこにいた。触腕の先端は欠けていたが、それもみるみる再生が進んでいる。その他、胴体はおろか触腕の根本に、まったく傷はついていない。
「優等生のお二人さん、カメラで見てるんだろう? 感想をどうぞ」
「認めたくないものだな、計算外の事態というやつを」
「してる場合じゃないが感心するよ。あの怪獣、知性だけじゃなく体術まで持ち合わせている」
かわりに、アカンサスタを中心として周囲の土がえぐれている。記念館と相まって美しい光景をなしていた銀杏並木も、半分がなぎ倒された。むき出しになった電線が火花を散らし、水道管からは水が吹き上がる。襲い来る砲弾のすべてを、触腕の先端ではたき落としたのだ。
正体不明の既視感が、カズヤを戦慄させた。
「カズヤ、逃げろ。向かってくるぞ」
「駄目だ。まだスタッフが残っている」
「諦めろ。見捨てろ。君にはそこまでの義理も、力もない!」
アキラにより告げられた残酷な真実に、それでもカズヤは躊躇していた。アカンサスタは距離を詰め、とうとう絵画館の直前まで迫った。
アカンサスタの眼球と思われていた結晶体に亀裂が入る。本体ではなく、外皮にあたる部分だ。磨ガラスのような表面が剥がれ落ちると、そこには――。
ユウがいた。
「お前、何やってんだよそんな所で!」
むしろ怒りさえ覚えて歩み寄ろうとするカズヤ。呼びかける声も届いていない。ユウは眠っているわけでも無表情なわけでもない。
ニタリと笑っている。
「お前が怪獣なのは本性だけで必要十分だ。こんな正体の現し方があるかよ!」
アカンサスタは、再生が進んだ触腕を振り上げた。その先端から、無数の針が突き出す。それが返答だった。
絵画記念館の玄関には、避難が終わっていないスタッフが固まっている。反射的に玄関に覆いかぶさるカズヤの背中に、触腕が振り下ろされた。
「ぐうつ……!」
献血の経験がある人は思い出していただきたい。採血用の針は、予防接種のものと違って太い。人助けのためとはいえ、慣れるまではけっこう痛い。人間で言えばその十倍の太さ、三十倍の長さ、十倍の本数に背中から貫かれたのだ。
針はカズヤの肺、胃、肝臓、脾臓を貫いた。傷つけられた内蔵からの鮮血が、数秒遅れて傷と口から吹き出す。痛みと虚血によりカズヤは気を失い、血の池の中で元のサイズに戻った。
再度、自衛隊の火力が集中する。アカンサスタは前方から来るミサイルや砲弾を足元に叩き落とし、穴を穿った。ピクリとも動かないカズヤの姿に満足したか、アカンサスタはさらに穴を深く穿ち、土と砂を撒き散らして地中に戻っていった。
Ⅱ
「ちょっと情けないわね、ベクター君。アストロ戦士が、不意を突かれて氷漬けなんて」
「俺は戦士じゃないからいいんだよ、リリィさん」
「いやあ面目無いで、おばちゃん。『トラフグの生白子の軍艦巻きを握ってみたから、食べにいらっしゃい』とシヲリはんに誘われて、のこのこお邪魔したら不意を突かれたわ。あのお茶に、アストロマンにも効く睡眠薬が入っとったとは」
「ねえエレナちゃん、そんなお寿司食べたら、普通の地球人は死んじゃうんだけど……」
[タグ]から運び出され、とりあえず[ラーメン菱美]の店先に置かれたベクターとエレナに、リリィはドライヤーを当てたり熱湯をかけたりしている。強固に凍結してあったため、ようやく頭の部分だけ解凍できたところだ。
「いっそ、コウジさんにアストロニウム光線撃ってもらおうかしら」
「やめてくれ。電子レンジの卵状態になる!」
「できたぞ!」
そこへ、厨房にこもっていたコウジがオカモチを提げてやってきた。
「おい親父ちょっと待てなんだその蓋を閉めていてもなお漏れだしている禍々しい辛味臭は? まだ距離があるのに目と鼻と喉の粘膜が痛いぞ!」
「フフフ、作るのはじつに十八年ぶりになるか。開店の目玉メニューにしようと目論んだものの、当時の師匠に『危険すぎるから封印せよ』と言わしめた幻のピリ辛メニュー」
「は、早まるなやおっちゃん。あああっ、なんで駅前商店街が一瞬にしてシャッター通りになっとるねん? リリィはん止めたってや……って、既にいないっ!」
「ジャーンッ♪ お待たせ、[ピリ辛麻婆茄子コウジスペシャル]」
オカモチの中では、茄子とピーマンと挽き肉が地獄の赤に染まっていた。
「もともとは自分の寒さ対策に考案していたメニューだったんがな。基地の厨房で作ったときは何故か全隊員や長官まで行方をくらませて、ATMの機能が一時間ほど停止したな。ついでに隊員に化けて潜伏していた宇宙人もひっくり返って正体を現していた。やつらも旨いものには目がなかったらしい」
「多分違う絶対違う。ピリ辛なんてレベルじゃねえ物騒な化学兵器開発してんじゃねーよ」
「これで体の内側から温めるんだ!」
「ああ、百年前に大往生した婆ちゃんが三途の銀河の向こうで手ぇ振っとる……」
「待ってエレナ、先に逝ってオレを一人にしないでェェェッ!」
「エレナちゃんからいってみるかい?」
邪悪な笑みを浮かべたコウジは、経口摂取の兵器をレンゲでエレナの口につっこんだ。
「んっほおぉぉぉぉっ!」
エレナの顔が灼熱の太陽となる。
「お前は囚われた姫騎士かっ?」
「ほれ、お前もだベクター」
「んっほおぉぉぉぉっ!」
罅一つ入っていなかった氷に、パッキーンと亀裂が走った。
「よし、有効だな。エネルギー摂取も兼ねてどんどん行くぞ」
ベクターとエレナの寿命が、一口ごとに二十年縮まっていた頃。カズヤは無人の[タグ]にいた。服の下は包帯で巻かれているが、誰の手も借りずに自力で歩いている。
「さすがはアストロマンか。回復の速度が驚異的だな」
「ああ……」
カズヤは、シンイチに曖昧な返事をした。自分の治癒能力の高さは幼い頃から意識していた。それをユウがブラセボ効果を過剰に喧伝し、ごまかしてくれていたのだ。
状況から、ユウだけでなく高峯シヲリが侵略行為に加担していると判断され、[タグ]はすでに封鎖されている。本来は立入禁止なのだが、ATMの三人は特別に許可をもらって店に入っていた。
調査に入った警官たちは引き上げ、店は廃墟のようにしんとしている。スイッチを入れても電灯がつかないのは、電気・ガス・水道の契約を切ったからか。食料庫も冷蔵庫もレジの中身も空っぽだ。店も土地も借地なので、更新も切っているのかもしれない。
「ここに来ると、子供に戻った感じがする。調度品とか什器とかは、シヲリさんは大事に使ってて、昔から全然変わってないんだ。チキンライスにパスタ、ハンバーグカレー。シヲリさんは料理が好きだからメニューにない料理も作ってきた。子供が好きそうなものを安く工夫して、その試食に呼んでくれた。失敗作なんて、まずなかった」
そこで、カウンターの端に置いてあるピンクの電話が鳴った。
「出前かオードブルの注文かな? さすがに閉店は――」
「いや、注文用の電話は奥にあるんだ」
アキラの言葉の途中で、カズヤは受話器を取った。
「シヲリさんですね?」
私の母はいわゆるシングルマザーでね。DVとかじゃなく生まれついてのだらしなさだったわ。男をとっかえひっかえしては、愛想を尽かされて捨てられていたのよ。消費者金融相手に電話していた記憶しかないわ。どこかに遊びに連れて行ってもらったことも、弁当を作ってもらったこともない。バイト先のスナックの残り物があればいい方で、たいていは見かねた近所の人がめぐんでくれたわ。借金を重ねて居づらくなって、引っ越しを繰り返していた。保健師に勧められて保育所には入れたけれど、それも子育てが面倒だったからでしょうね。小学校に入って、給食を食べられるのはありがたかったけど、滞納の連続。水道もガスも止められていたから、公園の水道で服も、体も洗ったわ。掃除なんかできやしない。近所からゴミ袋をもらって出したら、部屋の中には何も残らなかった。
最後の引っ越しは中学生になってからだったわ。半世紀以上改修してない、昭和博物館アパートだった。服やカバンは教会バザーの売れ残りをタダで貰った。ご飯も最初、教会に行けば食べられたけど、ある日、母がそこのお金を持ち逃げしたまま行方をくらませてね。さすがに気まずくていけなくなったわ。遊びに行く友達もいない。修学旅行にも行けなかった。手すりが壊れかけたベランダから夜空を見るのが、唯一の楽しみだったわ。
ヒロシさんが隣に引っ越してきた日から、世界が変わったわ。氷の天井みたいな雲が割れて、光が差し込んだ。私は何も言わなかったけど、全部を察してくれたわ。扉を開けて部屋には入ってこなかったけど、ベランダの手すり越しに、自分が作ったごはんを私にくれた。温かい布団もくれた。自治体が配った商品券も全部くれた。授業参観は無理だったけど、お弁当を作ってくれて、運動会も見に来てくれた。他人同士の、ただの隣人としてのつきあいだったけど、一緒にベランダで過ごす時間が私にとってはこの世界の真実だった。だから頑張って、捨てられていた問題集を使って、高校も受験できた。
合格通知が届いた夜、人相と頭の悪そうな連中が部屋に押しかけてきたわ。あの女がどこかで借金だけ残して、野垂れ死んだって。あたしを拉致して、水商売で働かせるか臓器でも売り飛ばす算段だったんでしょう。
私の悲鳴に、その日初めて、ヒロシさんはドアノブを引きちぎって飛び込んできてくれたわ。初めて見せた怒りの表情で、連中を一人残らず殴り殺してくれた。壁も床も天井も血だらけになったけど、まごうことなき、正義の味方だった。
ヒロシさんはそのまま姿を消したわ。警察には事情を聞かれたけれど、私は一言も答えなかったわ。短大を出て、今の[タグ]を開いた十八年前、一度だけ会いに来てくれた。そこで打ち明けてくれたわ。「自分は地球を侵略に来たヴォーダン星人」だって。
「そして、ユウが生まれたんですね。だから侵略者と手を組んだんですか?」
私が泣いているとき、地球人は何をしてくれたかしら? 家族同士で話し合えと言うだけで、誰も私の手をとって助けようとはしてくれなかった。
「落ち目だったうちの商店街も、シヲリさんが嵐の夜の終夜営業を始めてから活気を取り戻したと聞いています」
ヒロシさんが私を助けてくれたのも、嵐の夜だったからよ。
「小さい頃から、ユウだけじゃなく、僕にまで弁当を作ってくれたのも、嘘だったんですか?」
電話は、そこで切れた。
「カズヤ――。敵う敵わない以前に、戦えるのか?」
「シンイチ、小さい頃は父さんがいないっていうだけで、僕はいじけて拗ねて、同級生を妬んだこともある。母さんを問い詰めて困らせたりもした。でもその度、僕が間違った方を向こうとする度に、ユウは叱ってくれたんだ。アストロマンとして戦うと決めたときも、あいつは少し困った顔をしたけれど、『そう思うんならやりなさい』と背中を押してくれた。その答えを見せてやる」
Ⅲ
三日後の昼下がり。アカンサスタは東京都港区芝公園四丁目、すなわち東京タワーの真下から出現した。鉄骨の格子に器用に触腕を差し込んで、エレベーターと外階段を破壊。メインデッキにいた来客、職員合わせて百人余が、地上から隔絶された。額にいるユウは、相変わらずの無言で、ニヤニヤ笑ったままだった。
時を同じくして、日本全国の新聞社にメールが届く。総理大臣、及び衆参両院議長宛に、ヴォーダン星人への無条件降伏を求める署名の書式だ。
「この署名を集めて、国会にて提出せよ」というわけだ。アカンサスタはそのままタワーのそばに鎮座した。
「ご要望どおり、大門乗り換えでやってきたぞ。なかなか考えたじゃないか」
沈黙を続けるアカンサスタに、地上から呼びかける者がいる。菱美コウジだ。解凍されたベクターに、エレナもいる。。
「自らは降伏しろと命じず、その是非を人質の家族に委ねる。署名を集めたり、署名したり、提出すれば『裏切り者』と誹られる。見捨てればその他の地球人が未来永劫恨まれる」
「人質の直ぐ側にいるから自衛隊も迂闊に手が出せない。最初から、オレたちに来いって言ってるようなもんだ」
ベクターの言うとおり、上空では自衛隊のヘリが手を出しあぐねて旋回していた。
「あんたのおかげで、サエズリからテッポウまでピリ辛の下味がついてもうたで。しゃっしゃと片付けたる。今晩は花火大会やからな」
エレナがアストロケットを高く掲げる。コウジとベクターも、アストロマスクを取り出し、顔に当てる。
「アストロ・ゴー!」
三人を包んだ光が、瞬く間に超人の姿に変わった。
アストロマンヘプタとエレナが飛び出す。ヘプタは両手から伸ばしたビーム刀〔アストロセイバー〕で触腕をぶった切る。エレナは力任せに引きちぎる。ベクターは駐車場に停めてあった観光バス二台の前部を切断。両手につかんで飛び、高さ百五十メートルにあるメインデッキに頭から突っ込ませた。
捉えられていた来客が、バスに乗り込んでいく。積み残しが無いと確認し、最寄りの増上寺駐車場へ。
再生を終え、針を生やした触腕がエレナに襲いかかる前に、ベクターはバリアを張って食い止めた。
「ダッ(ああ、こいつらがみんなイカゲソやったらなあ)」
「ダーッ!(後でたらふく食えばいいだろ)」
触腕は三本一組となり、三ツ編みの容量で太い三本の束になった。たやすくは切れなくなった太い腕が、アストロマンたちをなぎ倒そうとする。
「デアッ!」
三人は、それぞれ腕を受け止め、しっかりとつかんだ。そこへ、上空で旋回していたヘリコプターが急降下する。
飛び出したのは、カズヤだ。巨大化しながら、触腕を封じられたがら空きとなったアカンサスタの頭部にへばりついた。
「ぬうん!」
ユウがいる結晶体を引き剥がそうとするカズヤ。
「ダッーッ!(時間がないぞ、急げカズヤ)」
アストロマンたちのエナジーインジケーターが点滅する。触腕を保持していられるのはあと三十秒だ。
時間との勝負であり、賭けだった。巨大化したとはいえ、カズヤが持ち上げられる重量はせいぜい二千トン。引き剥がすためにどれだけの力が必要なのか、ATMの観測でも分からなかった。と――。
カズヤは、結晶体の中のユウと目が合った。瞬間、カズヤは両手にナットリウム光壁を展開。二刀流のアストロ・チョップを結晶体の両脇に振り下ろした。
結晶体の引き剥がしに成功したカズヤは、尻もちをつくが、手近なビルの影にユウを隠した。
ヘプタがいったん触腕を離し、アカンサスタと距離をとった。意図を察したエレナとベクターは、棘で貫かれないよう体表にバリアを展開。触腕を抱えたまま左右に拡がった。
両脇を引き絞り、正拳突きのように突き出した右拳から放つのは――。必殺・アストロニウム光線。三万度の熱線が、三本ひとまとめになった触腕を焼き尽くす!
「ダッ(今度はお前の番だぞ、エレナ。遊んでばかりいたわけじゃないって、証明してみろ)」
「ダッ?(ああそうやった。すっかり忘れて毎日遊んどったわ)」
「ダーッ!(なんでもいいから早く決めろ!)」
インジケーターの点滅速度が早まる。エレナが離した触腕をヘプタがつかむ。そしてエレナは、ユウがえぐり取られた穴へ右拳を突っ込んだ。
アストロ・ケツ爆竹!
狙いが定まらない光線を、アカンサスタの体内に直に打ち込むエレナ。
「デアーッ(もっとマシな名称、思いつかんかったんかいっ)!」とすかさず突っ込むベクター。
名称は最悪だが効果は絶大だ。特に今回のような再生能力が高い怪獣には、表面に覆われた本体を直接攻撃するほうが効果的だ。
たっぷり五秒打ち込むと――。アカンサスタは膨れ上がり、爆発し、砕けた。撒き散らす破片は大きく、固い。組織として死んでいる。
やったじゃねえか、と、肩をたたいてやろうとしたベクターだが――。敵は、消えていなかった。エレナの拳の一歩先に、そいつはいた。
(ヴォーダン星人!)
赤い雪のように舞い散る肉片の中、ヴォーダン星人Lが、無傷のまま立っていた。
「そうだよ。君たちが弾き飛ばしたのは、私が被っていた『肉の鎧』に過ぎない。そしてその鎧を剥がすためだけに、君たち三人は全てのエネルギーを使ってしまった」
ヴォーダンLの腹が縦に横に裂け、歯のない口が拡がる。
三人は、そこから放たれる火炎をまともに食らった。ただの炎ではなく、恒星フレアのような爆発だ。負傷こそ軽微だったものの、エネルギーが底を尽きた三人は、地球人の姿となってヴォーダンLに見下されていた。
「怪獣を操る本体がどこかにいるとは思っていたが、まさか眼の前にいたとはな」
「アストロマンヘプタ。君たちが再度戦えるようになるまで、二十四時間はかかる。私はね、ヴォーダン星人の中でも特に戦闘に特化した個体だ。この星の人間を殺し尽くすのが先か、君たちの自慢の兵器が私を倒すのが先か。見物していたまえ」
「くそったれが。最初からそれを狙っていやがったな!」
「地球人の姿を取り続けたために老いてしまったヘプタ。戦うことを恐れ、逃げた息子。そして光線技を撃てない半人前。地球にとっては不運だったな」
「ちっちっちっ」
そこで、エレナが指を振った。
「地球は負けへんで、おっちゃん」
「何故かね?」
「この地球にはな、ATMと、最強のアストロマンがおるからや!」
「……ああ、そうだったな」
カズヤは、そこにいた。
「アストロマンとしての能力を受け継いだわけでもない。図体がでかいだけの地球人が、まだ残っていたな」
Ⅳ
ヴォーダン星人の平均体重は三万トン。対するカズヤの体重は千トン。体重六十キロの格闘家に、体重二キロの子犬が戦いを挑むようなものだ。
「正気か、君は?」
ヴォーダン星人はカズヤの精神を疑った。恐れず迷わず、カズヤはナットリウム光壁を纏った拳を付き入れてくる。ヴォーダンLの反撃をさらにかいくぐり、打ち下ろされる手刀は、竹の物差しで叩かれるようなもので、致命打には程遠い。ヒットの瞬間、光壁を爆発させて衝撃を送り込むも、せいぜい強めの静電気が体を貫くようなものだ。
効くはずもない手刀を、ヴォーダンは枯れ葉のように振り払う。振り払うたび、カズヤは数百メートルの距離をふっとばされるが、そのたびに受け身を取り、立ち上がり、向かってくる。
(そろそろ、諦めさせてやるか)
ヴォーダンLは、進化の結果攻撃器官となった口を開いた。
「恨むなら、君を戦わせた地球人を恨めよ」
だがカズヤを一瞬で焼き尽くすはずの必殺の火球は、逸れた。吐き出す瞬間、首筋の、ヴォーダン星人の痛覚が集中する部分に鋭い痛みを覚えたからだ。
「狙撃か? どこからだ!」
分からない。それこそ針のような痛撃の出どころを、ヴォーダンLは測りかねていた。視覚を拡大し、周囲を見回す。発達した目が捉えたのは――。彼に向けられた、無数の銃器だ。ヴォーダンの皮膚に最も効果のある帯域のレーザー銃だろうか。ATM隊員とおぼしき高校生が、三人一組となり、四方八方のビルの屋上から彼を狙っていた。地上からだけではなく、高空からは無数のドローンが超音波銃で刺してくる。シンイチが、放送局のカメラや衛星によりヴォーダンLを全方位から捉え、攻撃指示を出していたのだ。一発ずつでは蚊に刺されたほどのものだろうが、それこそ雲霞のような無数の闘志が、同時に百発以上、同じ場所を文字通りピンポイントで狙ってくる。
それよりもヴォーダンLの理解を超越していたのは……。
(避け続けているとはいえ、私の拳が当たれば、そんな虚弱な肉体はたちまち砕けるぞ。怖くないのか?)
モニター越しに、シンイチがヴォーダンLの戸惑いを見抜いた。
「カズヤ、もっと惑わせてやれ」
「わかった」
シンイチとアキラの言葉を受け、カズヤは正面に光の壁を出現させた。アストロ・プロジェクションで映し出すのは、シンイチの姿だ。
「こんなもの、盾にもなるものか!」
シンイチの姿を映し出す鏡を砕くヴォーダンL。だがその向こうにいたのは――。やはりシンイチだった!
巨大シンイチはヴォーダンの拳をひらりひらりとかいくぐる。躱し躱し、アストロ・チョップをヴォーダンLの脳天に見舞った。頭の先から爪先まで、微弱ではあるが衝撃が体を貫く。シンイチは、くいっと眼鏡を指先で押し上げた。
今度はアキラの姿に映像が切り替わる。光の壁を割って現れるのは、やはりアキラだ。正面から拳を打ち込むと思いきや、すかさず身をかがめ、くるりと周り、ヴォーダンLの膝の裏を蹴った。とびきり腹の立つ顔で、指先をくいっくいっと動かして挑発する。
そして最後は――。
「ユウ―?」
ユウが、自分の姿を映した鏡をぶち破り、詰り叱るような厳しい顔で、ヴォーダンLに、自分の父の胸板に、正拳を叩き込んでいた。
たじろぐヴォーダンL。そして知った。いかなる魔術を使ったか、ユウは最初から催眠になどかかっていなかった。カズヤがあの程度では屈しないことも、自分を必ず助け出すことも、最初からわかっていたのだ。
シンイチ、アキラ、そしてユウの姿は幻影にすぎない。だがヴォーダンLには、互いに頷きあう楡木父子、千里堂カヤと旧ATM隊員、学生時代のように肩を並べる岩橋と浜川とフタバ、菅原タカカズ、井手口ヒトミ、その他無数の地球人たちの姿まで見えていた。
「これほどまでに私を惑わせるとは。君は、一体、何者だ?」
「自分で言ってたじゃないか。ただ、でかいだけの、地球人さ」
アストロマンカズヤは、弱い。ただ巨大化できるだけの地球人である。
山をも砕く力も、弾を跳ね返す鋼の体も、一撃必殺の技も持っているわけではない。
だからこそ、勇気と力の限りを尽くし、仲間とともに戦うのだ!
「あなたにはいないのか。ともに痛みを感じ、戦う仲間が」
「そんなものは……いない!」
右手を高く掲げるカズヤに、ヴォーダンは察した。次の一撃で決めるはずだと。だが、カズヤには光線技は無い。
(ならば、真正面から、打ち返す。「最強のアストロマン」を打ちのめし、そして地球人から最後の希望を奪い取る!)
予想通り、カズヤが真正面から正拳を打ち込んできた。奇しくも、それは必殺のアストロニウム光線を打ち出す姿に似ている。
「アストロ・ダイアログ!」
叫びとともに突き入れられるカズヤの拳と、ヴォーダンLの拳が衝突する。
右拳から、ヴォーダンLの体に衝撃が走った。直後。
カズヤは、硬い壁に跳ね返されたかのように吹っ飛んだ。無様に尻餅をつき、立ち上がれずにいた。
(勝ったのだ)
当然の結果だと、ヴォーダンLは思った。やはり地球人が、自分を倒せる道理はないのだと。だが――。
(む?)
体が動かない。思うように動かせない。それどころか、関節を引っ張る屈筋と伸ばす伸筋、相反する二つの筋肉が同時に収縮する。一箇所でなく全身の筋肉がだ。
(なんだ……これはっ?)
止めようとしても止められない。限界以上の力を出そうとする筋肉に、挟まれた関節が悲鳴を上げる。腱が切れ、行き場を失ったエネルギーが火花を吹く。断裂の痛みがヴォーダンの全身を蹂躙する。
辛うじて意のままになるのは、悲鳴を上げるための口の筋肉だった。
「ぐ、グワアアアアアアーッ!」
全身の筋肉を引き裂かれたヴォーダンLは、絶叫とともに倒れた。
Ⅳ
夕刻。
宇宙人専用の拘置所に勾留されたヴォーダンLこと高峯ヒロシのもとに、オカモチを携えたコウジが面会に訪れていた。
ヴォーダンLの首には、たとえ脱走しようがどこからでも追跡電波を放つビーコン首輪が嵌められているが、手足はだらんと伸ばされ、座っていることさえしんどそうだった。
「君の息子にはしてやられた。〔アストロ・ダイアログ〕と言ったな。体中の筋肉が勝手に暴走して、自ら断裂した。地球人の新兵器か? どんな魔法を使ったのだ?」
「随意筋は脊髄から伸びた運動神経を走る電気信号で動かされる。これは脊椎動物なら逃れられない世界共通、いや宇宙共通の原理だ。カズヤは、君が最大筋力で打ち返す瞬間にその電気信号を君の体に跳ね返したんだ。二十倍以上の強さでね。リミッターを外された君の筋肉は、自らの限界を超えて断裂してしまった」
「ふ、ははははは……。これは形無しだ。自分の力に倒されるとはな。――だが、そんな技は私たちはおろか、君たちアストロマンでさえ持っていなかった。形をなすには、想像を超えた精神力と集中力が必要だぞ?」
「ユウちゃんは君が不在のまま育ったがね、ことあるごとに、シヲリさんから誇らしげに、『自分の父さんは世界の誰よりも強くて優しいヒーローだ』と聞かされていたそうだ。そんな彼女だからこそ、我々がエネルギー源とする太陽をまっすぐ見て育った。あの程度の傷ならカズヤは立ち上がると信じていた」
「ユウは、そこまで、自分を信じてくれると信じていたのか」
「そんな彼女だからこそ、カズヤは『鋼鉄製の俎と角材でできた戦闘ロボットに毎日殺されかけている』と文句を言いながらも特訓につきあったんだ。さっきの言葉を借りるよ。君を倒したのは、やはり君自身なのさ」
ヴォーダンLは今度こそ、体中の力が抜けたように大笑いした。
「先の言葉を撤回しなくてはな。あれほどの必殺技を放つとは、まさに最強のアストロマンだ」
「おいおい、君は、こうして生きているじゃないか。生きているからこそ、こうして語り合える。カズヤが破壊したのは随意筋だ。臓器はちゃんと動いているだろう? 敵を倒し、なおかつ生かして対話をするための〔必勝技〕、いや〔必生技〕というべきだな。さあ、冷めないうちに食べたまえ」
コウジは、オカモチの中身を出した。
「〔親子丼〕とは捻りがないじゃないか」
「ここから先は答えなくていい。少なくとも私には、君が侵略に前向きだったとは思えない。国会議事堂でなく、わざと『間違えて』絵画記念館に出現したのではないか? 今回の侵略も、逆らえない何者かに命じられているのではないか?」
何かを叫ぼうとしたが、ヴォーダンLは、かろうじて堪えた。
「これは独り言だ。聞き流してほしい。私の本星の家族は、何者かに皆殺しにされた。ただ一人、妹を除いてな」
その妹が、人質として捉えられている――。だがその真実を漏らせば、すぐに殺されてしまうのだろう。
ヴォーダン星人の大半はアストロマンとの戦いに懲り、穏やかに過ごしたいと思っている。ただ一部の、過去の栄光を忘れられず、征服という形でしか承認欲求を満たせず、失敗の連続でも面子を保つのに汲々としている連中がテロリストとなっている。狡猾な者ほど自分の手は汚さず、隠れて指示だけだしているのだ。宇宙は広く、アストロマンによる残党掃討も手が回っていない。
すまん、と、コウジは小声で答えた。
「その姿では食べられまい。地球人・高峯ヒロシの姿に戻ってはどうかね。本当は君も、そっちの方が性に合ってるんじゃないのか?」
同時刻。
地球人用の拘置所で、リリィはシヲリのもとを訪れていた。
「自分の娘に出し抜かれるなんてね」
理由はどうあれ、侵略行為に加担したからには無罪放免というわけには行かない。これから彼女には長い取り調べが待っている。
「あなたは知らないでしょうけど、旧防衛隊員が拉致され、操られるという事例はよくあったのよ。だからATM隊員には、『催眠をかけられる前に自分の意思で睡眠に入る』っていう訓練が施された。目覚めたときに自分の置かれた状況を確認し、操られたふりをする――。その技法は、今のATMにも引き継がれているわ」
「覚えておくと良いわ。高峯シヲリは一人では終わらない。私のような身上で、ヴォーダン星人の理想に共鳴する地球人は、それこそ星の数ほどいる」
「あなたは、理想とやらに共鳴したわけじゃないでしょう」
「そうよ。理想なんてどうでもいい。自分を大事にしてくれる家族のために戦うのは、そんなに悪いことかしらね?」
「分かるわ。別の形でね」
「別の形?」
シヲリの眼の前で、空間がグニャリと曲がる。デジタル写真加工を逆再生するような光景が終わると……。そこにいたのは、ヴォーダン星人だった。
「あなたは……!」
「二十余年前、あなたの言う、どうでもいい理想とやらのために私は送り込まれたわ。ATMに潜入し、内部から破壊する指令を受けてね。信用されるために、一緒に命がけで戦った。戦って、この惑星で暮らして、考えが変わったわ。過っている部分も多数あるけれど、私たち宇宙人が見倣うべき部分もある。なにより地球人は決して理不尽な暴力には屈しない。だったら、地球人として暮らして、時間をかけて、『美しい惑星を守る』という、本来の目的を果たせばいいって」
「そのために、アストロマンヘプタを利用したの?」
「目的と手段が入れ替わってしまったけどね」
「でもヒロシさんが言っていたわ。宇宙人が地球人の姿をとり続ければ、地球人同様に老いる。あなたも菱美コウジも、あと数十年で寿命に従わざるをえなくなるのよ?」
「私たちの意思は、カズヤたちが受け継いでいってくれるわ。暴力で従わせず、ゆっくりと無理のないよう、目覚めを促していく。事実、私たちより弱い体と未熟な精神しか持たない地球人は、そうやって少しずつ進化してきたわ」
「受け継ぐって……。ユウは、どうなるの? 侵略者の娘の居場所は地球にはないわ」
「あら、ユウちゃんを育てて気づかなかった? 側にいなくとも、この宇宙の何処かで自分を見守ってくれる親がいる。子供にとっては、それだけで十分心強いみたいよ。それに私たちの息子を侮らないでちょうだい。地球を守るヒーローが、女の子一人守れないはずがないでしょう?」
「BBQコンロよしっ、肉よし野菜よしっ!」
「ビールよしっ!」
夜八時の花火大会開始を控え、菱美家二階の物干し台では、カズヤとコウジが点検を終えた。シンイチとアキラも、差し入れを持って上がってきた。たこやきや綿あめを抱えたエレナと、屋台でたかられ、スッテンテンになったベクターも集まってくる。
花火をきわ立たせるべく、街が照明を落としていく。地上が闇を取り戻すに従い、本来の星空が現れてきた。
「ふふっ、ペルセウス座流星群の時期と重なるわね。ペルセウスといえば怪獣退治! まるで今日の私たちのようね」
ユウが、相変わらずの笑みで夜空を見上げる。
「あんなふうに、お前も退治できたらなあ〜」
「あ?」
「ゴメンナサイコロサナイデ」
睨まれ、カズヤは固まった。石化の魔法を解くように、夜空を一筋の流星が走る。
「何を願うの、カズヤ?」
「商売繁盛だな。姿を変えても〔ラーメン菱美〕が続いて、そして、いつか〔タグ〕も営業再開できますようにって」
「あんたね、あんたね――!」
ユウのその一瞬の顔を、武士の情けでカズヤは見ないようにした。
「な、情けないわねぇ! ヒーローなんだから、地球の平和を願いなさいよ」
「それについては全く心配してないね」
「そうね」
地球には、アストロマンと、ともに戦う仲間がいるからだ。
―了―
読んでくださり、有難うございました。