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瀬々市、宵ノ三番地  作者: 茶野森かのこ


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8. 捨てられた指輪1


**



「ただいま、問題無かった?」

「お帰りなさい。特に問題ありませんよ」


夕方前に愛は帰ってきた。多々羅(たたら)はキッチンで、夕飯の鶏と大根の煮物を作っていた所だ。

そうか、と頷く愛の顔は、どことなく疲れた様子だ。“時”には、舞子(まいこ)の相談を受けに行っていた筈だが、何かあったのだろうか。


「疲れてます?そんな顔してますよ」

「…そうか?気のせいだろ。ちょっと倉庫で仕事してるから」

「え、大丈夫?」

「店の物達も落ち着いてるし、大丈夫だよ」

「…そうですか」


そういうことじゃないんだけどと、多々羅は頷きつつ思った。多々羅が心配しているのは、愛の体調だ。問題無いと言うが、顔に疲れが出ているのは事実。やはり、今日は休んだ方が良いのではないだろうか。

多々羅は少し考えて鍋の火を止めると、愛を追って店に下りた。


「おや、アイリス殿」

「え?」


ヤヤの声に反応し、多々羅は壁に掛けた店用のエプロンから、ゴーグルとイヤホンを着けた。すると、店内にアイリス、ユメとトワの姿が見えた。ノカゼはまだ修理中で留守にしている。


「どうしたんです?皆さん」

「倉庫で仕事の時は、私達も警戒しようって話してたのよ」


アイリスの言葉に、ヤヤは申し訳なさそうだ。


「気にさせてごめんなさいね、ヤヤを責めてる訳じゃないのよ。前は正一(しょういち)が居たけど、今は愛だけだし、それに多々羅も居るしね。だから、ヤヤにも力になって貰いたいのよ」

「一番新入りなんだから、私が先輩よ!」

「…先輩」

「あ、ありがとうございます、皆さん!私、頑張ります!」


ヤヤが用心棒達と仲良くなれて良かった、多々羅がその様子を眺めていると、カランカランとドアが開き、多々羅は慌ててゴーグルを外した。

愛が鍵を閉め忘れたのもあるが、この店はクローズの札を下げても、関係なく客がやって来るようだ。

一応店は閉めているのでどうしようかと思ったが、店を訪ねて来たのは華椰(かや)だった。どこかへ出掛けた帰りだろうか、ポシェットを下げている。


「華椰ちゃん、いらっしゃい。オルゴール見に来たの?」

「ううん、ねぇ多々羅。ここって、探し物してくれるんでしょ?」

「うん、何か無くしちゃった?」

「…うん」


俯く華椰に、多々羅はしゃがんで目線を合わせる。


「どうしたの?」

「多々羅ー…」


うわ、と泣き出した華椰に驚き、多々羅は戸惑いつつもその体を受け止めた。


「どうした?心配しなくても大丈夫だよ、愛ちゃんは探し物のプロだから、どんな物でも見つけてくれるよ」

「本当?」

「うん!何を探してるの?」

「…あのね、綺麗な青い石の指輪なの、ママが大事にしてたの、あたしが無くしちゃったの」

「そっか、うん、分かったよ。俺達が探してあげる。きっと見つかるよ」

「本当?」

「うん!」


多々羅が頷けば、華椰はほっとした様子で涙を零した。



**



「勝手に引き受けて…」

「…すみません、でも、放っておけないじゃないですか」

「そうだけど…」


その後、多々羅は愛に声を掛け、応接室にて華椰の話を聞く事になった。

多々羅は、華椰の前にオレンジジュースを出した。華椰が度々遊びに来るので、このオレンジジュースは華椰の為に買っておいた物だ。いつもなら喜んで飲んでくれるのだが、華椰は落ち込んでしまっているのか顔を上げようとしない。


「どうして指輪を持って行ったんだ?」

「…綺麗だったから」

「欲しくなって?」


その質問に、華椰は頷く事はなく、ただ俯いてポシェットの飾りを弄っている。何か言えない理由でもあるのだろうか。


「…そっか、それで、どこで無い事に気づいたんだ?」


理由を聞かず、愛はなるべく優しく尋ねた。


「…さっき、橋を渡った時」


華椰は、きゅっとポシェットを握りしめた。その様子を見て、多々羅は華椰の隣に座った。


「大丈夫だよ!ちゃんと見つけてあげるからね!」


愛から何か言いたげな眼差しが突き刺さったが、幼い子供が泣き出すよりは良い。それから念の為、指輪を持って家に帰るまでの道筋を聞き、華椰を見送った。愛は、華椰が書いた和紙に視線を落とし、難しい顔をしている。


「出てきてくれたら、良いけどな…」


そう呟く愛を、多々羅は不思議そうに見つめていた。



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