7. 願い9
「主、これは?私と似ている簪があります」
「日本の工芸図鑑的な本。愛ちゃんが貸してくれたんだ。ヤヤの事が載ってるかもしれないし、そうじゃなくても何か情報が掴めるかもしれない。零番地の壮夜さんも、情報を集めてくれるって」
そう言うと、ヤヤは申し訳なさそうに頭を下げた。
「零番さんまで…私が騙したのに…」
ヤヤが来てから数日経つが、愛は零番地へ、どう報告をするか迷っていたようだった。まだ、段ボール箱の中の物を全て改めてないので、それからでも良いかと思っていたようだが、そういう時に限って、壮夜が進捗の様子を見に来たのだ。
そこで、ヤヤが壮夜に自分の存在を隠して荷物に忍び込んだ事を謝り頭を下げたのだが、それにより、壮夜はヤヤが暴れた経緯を知ると、顔を青くして、ヤヤも含め愛達に何度も頭を下げていた。
自分が運んだ荷物の中に、禍つものになりかけたつくも神が居た事、それに気づかなかった事に責任を感じたようだ。
今回は、ヤヤがつくも神だと見抜かれないようにしていたので、壮夜だけの責任ではない。愛だって誰も気づかなかったのだから。
愛は、騒ぎにしたくないので、零番地には黙ってヤヤを迎え入れられないかと考えを巡らせていたが、意外と真面目な壮夜は、これは自分の失態、責任問題だと言い、上司に報告するという。なので、愛はどうにかヤヤを家に置いておけるように、壮夜の責任問題も含めて壮夜の上司と掛け合ったという。
もし、ありのまま報告されたら、一度は人を襲った化身だ、ヤヤは他の店に回され、心を消される可能性があった。
だが、愛の尽力もあってか話は上手く纏まり、退職覚悟だった壮夜も、その処分も無いようだった。より一層の注意を払い仕事をするとし、ヤヤの事は、「三番地さんの判断なら」と、大目に見てくれたようだ。それも、愛や正一が、真面目に仕事と向き合ってきた結果かもしれない。
そんな事もあり、壮夜は、せめて何かヤヤの為に力になりたいと言っていた。それに対し、ヤヤは複雑なのだという。
ヤヤとしては、自分を責めてもいいのに、壮夜はヤヤを責める事なく、ヤヤの気持ちに気づかないでごめんと、申し訳なさそうに謝るのだという。壮夜は、見た目はチャラチャラしているが、責任感が強く、物や人に対しても思いやりのある人のようだ。
「良いんじゃない?好意は受け取っておこうよ。これで責めてくれって言っても、あの人、なんか悲しみそうだし。その分さ、何かあった時に力になってあげようよ」
「…はい!」
多々羅の寄り添う言葉に、ヤヤは少し安心したように頷いた。
「でも、零番地って何処にあるんだろう。いつも壮夜さん、バイクで来るんだよ」
「零番地は全国各地にあるそうですよ。零番地の上に、宵街っていうお店があって、そこが一番偉いんだとか。何処にあるのかは噂でも聞いた事ありません。中には、一番さんは、零番さんよりも宵街に近いという噂もありますが」
「一番…そういえば、愛ちゃんが一番さんの事を知りたがってたな」
「私も愛殿に聞かれました、一番さんの事」
「え、本当?」
多々羅は驚いてヤヤを見た。
「はい。でも、私も所在は分かりません。もう店を畳んだのではと言う噂もあります。一番さんは、もう何代目になるのかは分かりませんが、昔から謎の多い店でした。宵街と一番には近づくなと、物達の間では有名ですよ。私が生まれる前からありましたから」
「…え、そんなに古いの?」
創業何百年だと、多々羅は途方もない時代の流れを感じて固まった。
「私は、宵街や一番さんは、正体が見えなくて怖いです。だから、その正体を暴きたいとは思えません。触らぬ神に祟りなしです。…あ、私も神ですが」
苦笑うヤヤに笑み、多々羅は本のページを捲ると、ヤヤが興味深そうにページを覗き込んだ。
触らぬ神に祟りなし。愛も、あの瞳のせいで、そんな風に思われているのだろうか。




