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瀬々市、宵ノ三番地  作者: 茶野森かのこ


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7. 願い5


***



「時代は変わるものですね…」


それから数日後、多々羅(たたら)は買い出しに出掛けていた。


多々羅の肩には、あのメジロの(かんざし)のつくも神、ヤヤが乗っている。少年の姿をしているが、今は手のひらサイズ、本物のメジロと同じ位のサイズになっている。


「何だよ、江戸時代からタイムスリップした訳じゃなし」


そうヤヤに笑って返し、多々羅ははっとする。そろりと周囲を窺うと、さっと自分から離れていく視線。

今は人通りも多い昼間で、しかも信号待ち中、周りには多くの人が立ち止まっていた。周囲の人には当然ヤヤが見えていないので、突然、大きな声で独り言を話し始めた多々羅を不審がったり、奇妙な目を向けてもおかしくない。

それに気づいた多々羅は、なに食わぬ顔で耳を押さえ、イヤホンを付けハンズフリーで電話してる演技で誤魔化そうと試みる。


「そ、そーそー、時代錯誤だよな、あの人!」

「主は、嘘が下手なのですね」


ふふふ、と微笑ましそうに口元を押さえて笑うヤヤに、誰のせいだよ、と言いたかったが、ここは人の目がある。しかも、八つ当たりだ。多々羅はそう思い直し、出かかった言葉を引っ込めた。



あの日から、ヤヤは多々羅の肩に乗って生活を共にしている。なので、多々羅の鞄には、常に簪が入っていた。

つくも神は、通常の化身よりも能力が高く、物から離れて行動出来る範囲も広いらしい。だが、それにも限度がある。一定の距離を過ぎると簪の中へ戻ってしまうので、多々羅が外に出る時は、ヤヤの簪を必ず持ち歩いていた。


しかし、慣れない。話し掛けられると、つい普通に話してしまう。なので、多々羅は奇っ怪な目で見られてばかりだ。


店に戻ったら、愛に相談してみようかと、多々羅はそっと溜め息を吐いた。




**




「愛ちゃん、足。ねぇ、それで何か良い対応策ないかな」


店のカウンターに、相変わらず足を投げ出して座る愛を注意しつつアドバイスを求めると、愛は渋々といった様子で、足を床に下ろした。


「…俺は、つくも神を肩に乗せて歩いた事はないからな」


ふて腐れたように聞こえるのは、足をカウンターに投げ出していた事を注意されたからか、それとも、つくも神と出歩く多々羅が面白くないからだろうか。

多々羅は小さく溜め息を吐きながら、いつの間にか散らかっているカウンターの上を片付けながら、再び愛に尋ねた。


「でも、うっかり化身を街中で見た時は?」

「そりゃ…」


言いかけて、愛は言葉を飲み込むように唇を引き結んだ。何を思い出したのだろうか、その瞳は僅かに狼狽え、愛はその揺れる視界を遮るように雑誌を閉じた。


「愛ちゃん?」

「…いや、考えてただけ。そもそも、常に姿を現す化身は稀だからな。用心棒のあいつらは、元は正一(しょういち)さんとの約束があるから、こまめに姿を現してくれるけど。声を掛けても、普通は姿を見せない奴の方が多いよ」

「でも、麗香(れいか)さんの鏡とかは?」

「あれは、持ち主を心配してたから、それを訴える為に出てきてくれただけだ。言ったろ?物は、宵の店に怯えている奴がほとんどだ。俺達が闇雲に祓ったりしてなくてもさ、物からしたら、そんな力のある奴を前にしただけで怖いだろ」

「皆、愛ちゃんの事を知れば怖がる事もなくなるのに」

「…どうかな、俺だって自分の事が分からないから」


自嘲する愛が何だか寂しくて、多々羅は立ち上がった愛を追いかけた。


「俺は、愛ちゃんの事分かりますよ。(ゆい)ちゃんや凛人(りんと)だって、分かってます」

「…はは、ありがとう」


愛はそう笑って、応接室の奥へと下がってしまった。愛に気持ちが伝わらない。しょんぼり肩を落とした多々羅を、ヤヤが心配そうに見つめていた。






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