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瀬々市、宵ノ三番地  作者: 茶野森かのこ


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7. 願い2


「あ!」

「多々羅君、一昨日倒れたばかりだろ。ゴーグルもイヤホンも、体の負担になるって分かってる?」


眉間に皺を寄せて怒る愛に、多々羅は小さくなりながらも、愛をちらと見上げた。


「ちょっとだけ、ダメですか?ほら、ヤヤがどんな感じなのかなーって。一応俺の用心棒だし、俺、主人扱いされてるし、ヤヤの事を知っておくのは悪いことじゃないでしょ?」

「それなら、後から本人に聞けば良いだろ。ヤヤの姿は見えてるし、声だって聞こえるんだから」


多々羅は思わず言葉を詰まらせた。全くその通りで、今だって、ヤヤの様子はこの目でしっかりと見えている。照れたように笑って話している姿からは、ネガティブな印象は感じられず、上手くやっているのだなと思えた。

でも、棚の上の化身達は滅多に姿を見せないのだ、それを拝めるチャンスは逃したくない。


多々羅がゴーグルを使わせて貰える方法を頭の中で巡らせていると、そんな多々羅の気持ちに察しがついたのか、愛は溜め息を吐いて腕を組んだ。


「そっと見守る事も、俺達の仕事だし、自分の体の事を考えるのも、多々羅君の大事な仕事だと思うけど」


じとっと睨まれ、多々羅はさすがに身を引いた。愛が多々羅の体調を気遣うのも、愛自身が責任を感じているせいもあるだろう。

これ以上ごねたら、愛の優しさにも後悔にも傷をつける事になる。そうしたら、せっかくちょっと近づけた距離がリセットされてしまうかもしれない。多々羅にとってはそっちの方が耐えきれないので、愛の言葉に素直に従う事にした。ゴーグルの他にイヤホンも愛に渡してしまえば、多々羅には、愛やこの店との繋がりが一つ減ってしまったような気がして、しょんぼりと肩を落とした。


丸まった背中はわざとではなかったが、愛は申し訳なく思ったのか、迷いを見せながらも、多々羅の丸まった背中に声を掛けた。


「今晩さ、少し話をしよう」

「え?」

「この店の事や、化身のこと。まだちゃんと話してないだろ?正式に宵の人間となったからには、ちゃんと説明したいと思ってさ」


本当なら、もっと早く話をするべきだったんだろうけど。愛は、どこか申し訳なさそうな、罪悪感を感じているように言っていたが、多々羅は愛のその言葉にすっかり背中が伸びていた。


正式に、宵の店の人間になれたこと。愛がそれを認めてくれたという事実は、何度聞いても多々羅に新鮮な喜びをもたらして、多々羅は元気よく愛の提案に頷いた。




***



「多々羅君も知ってる通り、ここは元は正一(しょういち)さんの店で、正一さんも、先代から受け継いだ店なんだ」


夕食後のリビングにて、愛がソファーに腰掛けるのを見て、多々羅はやかんに湯を沸かした。珈琲をいれる為だ。


この宵ノ三番地には、多々羅も小さい頃、愛と共に訪れた事がある。その頃から比べて見ても、商品棚の物が変わった位で、店の内装は大して変わっていない。

正一がこの店を受け継いだのは、正一も物の化身が見え、それについて研究をする為だったという。物の化身の事を独自に調べていく内に宵の店に辿り着き、本職の仕事をこなしながら先代の助手として働き始めたのが最初だという。

ほとんど趣味だという研究成果のたまものか、多々羅が愛用している化身の見えるゴーグルや、声の聞こえるイヤホンを開発したりと、今もその情熱が途絶える事はないようだ。

因みに、愛の瞳の色を隠す眼鏡も、正一がどこぞから発掘してきた物らしい。


正一や愛以外にも、見える力を持つ人は居る。店名も、「三番」と数字がついてるのは、一番と二番があり、三番の後も数は続き、その数は十にも二十にもなるという。

愛が度々使うパイプによる煙には、物の化身の姿を引き出す事が出来て、和紙のような紙に想いを託せば、物を探す事が出来る。それらの道具等は、遠い昔から見える人達によって、ひっそりと受け継がれてきたという。


ただ、宵の店は、探し物をする為だけに受け継がれてきた訳ではない。


意思を持った物はその想いを拗らせ、禍つものになってしまう事がある。

大切にされなかった物、持ち主の元から自分の意思で去った物はそれになりやすく、その想いを晴らす為、その心を埋める為に力を欲し、人に取り憑いてしまう傾向にある。心を乗っ取られた人間は、そのまま命を吸いとられてしまう事もあり、危険なものだ。


心を奪う物も奪われた人間も、それの繰り返しでは誰も救われない。それを未然に防ぐ為に、「宵」の店が出来たという。

その不思議な力に、あの世とこの世の境の時間、宵の時から力が得られたと昔は信じられ、それが後々、店名の由来になったという。


なので、宵の店の店主達は、見えるだけでなく、禍つものや化身を祓える道具も受け継いできた。

祓うという事は、その物の意思を心を消すという事で、その物には記憶も何もなくなり、また新たに心を宿していくという。そうなれば、再び新たな持ち主の元へ行けるように修理し、商品として売るなり譲るなりしても問題ないという。


ただ、物自体に問題がなくても、人の手に渡るのを拒む化身もいる。そういった場合は、無理に持ち主を探しても逃げ出したり、禍つものになりかねないので、愛は、物の気持ちが変わるまで店に置いている。これは、正一の先代からのやり方だ。


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