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瀬々市、宵ノ三番地  作者: 茶野森かのこ


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6. 禍つもの6

「多々羅君が中に居るんだ!中からドアが開かないようにされてて、」

「分かった、どいてな」


舞子も物の化身は見えないが、その存在も愛の力の事も分かっている。舞子はすぐさま状況を理解したようで、愛を下がらせると足を開いて立ち、一つ深呼吸をした。それから気合いの掛け声を放つと、体を素早く回転させ、ドアを蹴り飛ばした。その回し蹴りの威力は凄まじく、愛が体当たりしてもびくともしなかったドアは、真ん中に穴を空け、大きな音を立てて壁から外れてしまった。


「…さすが…」

「元日本チャンピオンは、伊達じゃないでしょ」


その細い体と美しい顔立ちからは想像つかないが、これでも彼女は、キックボクシングの元日本チャンピオンだ。

と、感心してる場合じゃない。愛が部屋の中へ入ろうとすると、その中から多々羅が飛び出して来た。その体に、無数の黒い翼や腕を生やして。


「多々羅、!」


ど、と体を床に仰向けに押さえつけられ、愛の顔が苦痛に歪む。多々羅は唸り声を上げながら愛の体に跨がると、その襟首を両手で掴んできた。

舞子には、多々羅の顔が見えているのだろうか、愛の目には、多々羅の顔が真っ黒に染まって見えた。


「ちょっと、何やってんのよ!」

「待って!」


すかさず足を出そうとする舞子を、愛は焦って手で制した。


「舞子さん、先生呼んできて!早く!多々羅は禍つものにやられてる!」

「わ、分かったよ!」


舞子は躊躇いつつも出しかけた足を引っ込め、愛を心配そうに見つめながらも、店の外に駆け出した。


「多々羅君じゃないな、お前誰だ!」


多々羅の襟を掴み叫べば、愛の襟元を掴んでいた多々羅の手が愛の首に回され、ぐ、と手に力を入れられる。


「お前は知ってるぞ、翡翠の片眼!ここには禍つものも紛れてくる筈だ!出せ!居るんだろう!私の片割れを!」

「くそ、知るか…!お前誰だよ、多々羅君から離れろ、」

「私がやるんだ!主の望みを叶えなければ!あの方の想いを!」

「ある、じ…?」


愛は多々羅の腕を掴み、首を絞められながらも、考えを巡らせようと必死だ。

一体、何が取り憑いているのか、主の想いを背負うコレは何者なのか検討もつかないが、今、愛に出来る事は一つだけだ。

愛は震える手を伸ばし、表情の見えない多々羅の頬に触れた。


「た、たら…聞こえる、か?多々羅…ねむ、眠るな、これは、君の、体だ、君にいかれちゃ、困る…」


それから、息も絶え絶えに、愛は頬から手を滑らせ、多々羅の服の襟首に指を引っ掛ける。それから、震える指に力を込め、体中の力を振り絞って首に力を込めると、思い切りその襟首を掴み引き寄せた。その拍子に、僅かに首を締める手が緩み、愛は僅かな隙間で息を吸い、多々羅を眼前で睨みつけた。


「目を覚ませ、多々羅!よそ者に心を許すな!お前は、御木立(みきたて)多々羅だ!」


愛のまっすぐな叫びに、首を掴む多々羅の手からは、次第に力が抜けていく。多々羅の顔に貼り付いた黒い影が僅かに薄くなり、愛は緩んだ首もとから大きく息を吸い込んで、咳き込みながらも、多々羅の襟を掴む手は緩めずに、ゆっくりと上体を起こしていく。


「お前は、瀬々市愛(ぜぜいちあい)の手を引いて回った、お節介な、俺の、友人の、御木立多々羅だ、他の物の、意思に心を奪われるな、多々羅!」


上体を起こし、二人で向き合う体勢の中、愛は多々羅の両肩を掴み、僅かに見えた瞳に訴え叫ぶ。まだ、多々羅の顔の所々には黒い影が貼り付いているが、黒く濁る瞳は、微かに揺れ動いているのが見える。


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