表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瀬々市、宵ノ三番地  作者: 茶野森かのこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/120

4. 恋する女子高生6


***



「え、いきなり?」


話は現在に戻り、多々羅は椿から愛との出会いの話を聞いていた。

椿からの話なので、愛が化身と対話していた事は、多々羅に語られる事はなかった。椿が、愛が猫に語った話をしている間、多々羅は、それは猫ではなく、お守りの化身に掛けた言葉だったのだろうと、その様子をぼんやり思い浮かべていたのだが、出会って間もなく告白した椿には、驚いて目を瞬かせた。


「だって、超かっこよかったんだもん!探し歩く横顔が真剣で、猫を見つめる瞳が優しげで、マフラーで手を温めてくれて!あの、完璧そうなのに、ちょっとずれた感じ!」

「…はは、なるほど」


椿の熱弁に苦笑いながらも、確かに愛なら好きになっちゃうかな、と思う。これも弟のように可愛がってきた贔屓目だろうか。但し、あのゴミ屋敷に成り果てた生活態度を見たら、どう思うだろう。


「でも、大事なお守りなのに良かったの?」

「良いの。さっき言った、自然消滅になった元彼から貰ったお守りだったし。未練タラタラでお守りに縋ってたんだけど、手放す良い機会だったんだよ。きっと、新しい恋に出逢う為だったんだって思ったの!まぁ、玉砕続きだけどね」


椿は苦笑いつつ、それでも「だから、お願いね!」と、大会の日時場所を書いたメモを多々羅に握らせ、念を押す。親心なのか兄心なのか、玉砕続きの椿には申し訳ないが、それでも愛を大事に思ってくれる人がいるのは、多々羅にとっては安心するし、嬉しい事だった。


「了解。応援してるよ」

「ありがと!じゃ、そろそろ帰るね!」


「またね!」と、明るく去って行く彼女を見送っていると、そっと応接室のドアが開いた。


「帰ったか?」


応接室から、愛が警戒しながら顔を覗かせている。そんなに嫌がらなくてもと、多々羅は困ったように苦笑った。


「帰りましたよ。あと、聞きましたよ、お守り探しの話」

「…あぁ、あのお守りか」

「今も、猫達と一緒にいるんですかね?」

「あぁ、今も猫と一緒に暮らしているよ」


断言した愛に、多々羅は「そうなんですか」と目を丸くした。


「禍つものになるとは思わなかったけど、動物の心までは俺には分からないから。あの後、もう一度公園に戻って、化身の彼女から話を聞いたんだ。そうしたら、猫にタオルケットを掛けてくれた子供が親を説得して、翌日にはあの猫の親子を引き取ってくれるって話で纏まっていたんだ」




椿のお守り探しをした翌日、愛が公園に行くと、あの滑り台の下には、既に猫の姿は無かったという。

近くで犬を散歩させていた女性に聞くと、つい先程、保護されたという。お守りを抱いている猫は、近所でも噂になっていたらしい。


「きっと、猫ちゃんを守ってくれたんでしょうね。あの猫ちゃん、保護される時もそのお守りをしっかり抱いていて、あのご家族がよく声を掛けていたからかな、大人しくてね、安心した様子で保護されてましたよ。子猫ちゃんも一緒にね」と、その女性が教えてくれた。


彼女は、猫を引き取った家族とは公園友達のようで、その後も猫達の話を聞いており、少し前に愛が公園を通りかかった時に再会した時も、愛の事を覚えていてくれたようで、その時に、今の猫達の事を教えてくれたという。




「子猫もすっかり大きくなって、親猫は、今もお守りを抱いて寝てるらしい」


因みに、最近公園に行ったのは、別の目的地に向かう途中、道に迷った末の事だった。化身の様子も気になっていたので、あの女性と偶然でも出会えた事は幸運だった。

愛の話を「へぇ…」と、感心したように頷いた多々羅には、道に迷った事は悟られていないようで、愛はこっそりと胸を撫で下ろしていた。



「今も大事にしてくれるなんて凄いな…お互いが支えになってたのかな」


物と猫の交流に、多々羅はちょっと感動すら覚えていた。見えない存在が、寒さに耐える親猫をずっと励ましていたのだろうか。親猫が、どうしてお守りを咥えていったのかは分からないが、もしかしたら、お守りの化身が椿の為を思って自分から去ろうとして、側にいた猫に頼んだのかもしれない。何にせよ、お守りも猫も幸せならいうことない。そんな思いで愛を見上げれば、愛は心なしか嬉しそうで、多々羅もなんだか嬉しくなる。

愛と同じ景色が見えたような気がして、心が浮き足立ってくる。その浮き足立った気持ちのまま、多々羅はチャンスだとばかりに身を乗り出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ