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4. 恋する女子高生5


「ね、この子はもう大丈夫。それにこの猫達、もうすぐ保護されるみたいなの。私は、それまでこの子達を見守っていたいの。だから、どうかそれまで、私の心を消さないで」


そう切に訴える姿からは、彼女も愛の間違った噂を耳にしている事が伝わってくる。愛は小さく頷いた。

恐れられる事も、疑われる事も慣れている、今更、傷ついたりはしない。でも、こんな風に切に願われる時、心が少し痛んだりする。理由もなしに心をまっさらにするつもりはない、化身が暴走でもしない限り、愛は極力、化身の心を消すつもりはなかった。それなのに、噂の中の愛は片っ端から化身の心を消してしまうようで、化身達は、本来は必要のない恐怖と覚悟を持って、愛と対峙しなければならない。それが愛には心苦しかった。

そう思うなら、翡翠の瞳を隠し通して接すれば良いのだが、愛はそんなに器用でもなく。そんな自分に対しても、愛は情けなく、化身に対しては申し訳ない思いだった。


だが、彼女の言い分や願いは分かった、愛はそれを受け入れるつもりだ。彼女からは不穏な気配はしないし、真にそれを望んでいる事だと分かる、この状態なら、無理に店に連れ帰る必要もない、猫達と居た方が安心出来るだろう。


だが、椿がいる手前、どう話をしようか。化身の彼女に声を掛けて、また椿が反応しても面倒だ。愛が悩んでいると、不意に親猫が目を覚ました。それから、化身の彼女と会話するように顔を見合せると、その前足をお守りの上に置き、抱きよせた。その様子に、愛はそっと表情を緩めた。


「あなたの大切なものを奪いはしないよ、あなたの居場所を侵しはしない」


椿には、猫に語りかけているように見えただろうが、実際は化身に話しかけていた。化身の彼女は愛の言葉に、その表情に、目を瞬いて愛を見上げていたが、そっと親猫がすり寄ってきたので、はっとしたようにそちらに目を向けた。これも椿からは、親猫がお守りにじゃれているくらいにしか見えないだろう。化身の彼女は親猫の頭を撫でてやり、戸惑った様子で愛を見上げた。


「…それは、私の心を消さないってこと?私、連れていかれないの?私、好きな場所にいて良いの?」


その言葉に愛が小さく頷くと、親猫が、にゃあと鳴き、化身の彼女に再びすり寄るので、愛は椿を誤魔化す為にも親猫の頭を撫でてやった。親猫には愛の思いが伝わっているのか、嫌がる素振りも見せなかった。その様子を見て、化身の彼女は瞳を潤ませた。きっと、心を消されるとばかり思っていたのだろう。それから、親猫に抱きつくと、今度は嬉しそうに愛を見上げた。


「この子が、私を一緒に連れて行ってくれるって」


愛は、良かったと心の中で呟き、微笑んで小さく頷いた。この猫はいつまでここにいるのか、椿と別れたら、一度確認しに来よう。そう決めて、愛は立ち上がった。


「じゃあ、この依頼はこれで終わりですね。手元に探し物が戻らなかったので、報酬はいただきませんから」


では、そう頭を下げて帰ろうとする愛に、椿は「え!」と、驚いた様子で愛の後を追いかけた。


「もう、さよなら?」

「仕事は終わりましたから」

「仕事…あ、待って!まだあるよ、探し物!」

「大事で思い入れのある物以外は、探しませんよ」

「すっごい思い入れある!」

「そうですか。では、どんな物ですか?」


食い下がる椿に、愛が足を止めて振り返れば、椿はあからさまに目を泳がし、「えっと、えーっとね、」と、言葉を探しているようだ。探してほしい物はないのだろう、愛は溜め息を吐いて再び歩を進めた。


「あ、マフラー返さなきゃ!返しに行くね!」

「舞子さんに渡してくれたら良いですよ、お隣でしょ?ポストにでも入れてくれて構いませんから」

「ダメだよ!ちゃんとクリーニングに出して、手渡しで届けるから」

「面倒でしょ、そのままで良いですから」

「良くないよ!」

「私がそうしてほしいんです、ほら、早く家に帰りなさい」


あしらうような愛の様子に、椿はムッと表情を歪め、走って愛の前に立ち塞がった。前を通さないと睨む椿に、愛は溜め息を吐いた。雪も降っていてとにかく寒いし、もう一度、化身の彼女と話をしなくてはならない。本当に猫達が新しい場所に移動しても連れて行ってくれるのか、その確認だけはしたかった。だから、愛は早く椿に帰ってもらいたかった。


「何ですか、忙しいんですが」

「だって、見つけちゃったもん」

「何がです?」


愛が疲れたように返せば、椿はしゃんと背筋を伸ばし、キラキラした瞳で愛を見上げた。


「瀬々市さん、好きです!付き合って下さい!」

「…は?」



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