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瀬々市、宵ノ三番地  作者: 茶野森かのこ


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4. 恋する女子高生4


「…少し離れてくれる?集中したいから」

「え、念力的な感じ?超能力!?」

「どう思って貰っても構いませんが、特別な力なんてありませんよ」


あからさまな貼り付けた笑顔に、椿はきょとんとして足を止めた。

愛はそれを見て、意図的な威圧感を出してしまった事に少し後悔したが、今は早く探し出した方が良いだろうと、構わず準備を進めた。


愛は椿から紙を受け取ると、椿から離れた場所でしゃがみ、パイプの煙を紙に吹き掛けた。しゃがんだのは、少しでも煙が見えないようにする為だ。

足元に、犬のような足跡が出てくる。椿は、こちらの様子を遠巻きに見ているだけだ、煙も恐らく誤魔化せただろう。

愛は足元に目を向けた。足跡が見えるのは、愛だけだ。愛はそれを追いかけ、茂みの方から、公園の中へと目を向けた。


「え、こっち?」


椿が不思議そうにしながら、一定の距離を保ちつつ、着いてくる。離れて欲しいというお願いは、一応は聞いてくれているようだ。


愛はそのまま進み、小さなアスレチックやブランコを横切った。公園の奥には大きめの砂場があり、その手前、愛は滑り台の前で足を止めた。滑り台はゾウの形をしており、ゾウの鼻を滑る事が出来るようだ。その胴体部分には穴が開いていて、中を通り抜ける事が出来た。足跡はその中に続いており、中を覗くと、誰かが持ってきてあげたのか、タオルケットにくるまって猫達が眠っていた。親猫に、子猫が三匹、子猫の腕の中には遊び道具になったのか、少し汚れたお守りがあった。


「あった、あれか?結構汚れてるな」

「あー、はは、オモチャになってるのかな」


椿も愛の後ろから顔を覗き込ませ、その穏やかな光景を見て笑っている。愛はお守りに手を伸ばそうとしたが、その手を椿が止めた。


「いいよ、取ったら可哀想だもん。眠ってるし」


愛は、再びお守りに目を向ける。お守りからは、桃色の着物を着た、艶やかな長い黒髪の小さな女性が、猫達を守るようにしてこちらを見上げていた。愛は化身の姿をしっかり確かめようと、眼鏡を少しずらしていたので、化身は翡翠の瞳に気づき、怯えた様子で身を引いた。


「翡翠の…!」


だが、愛の後ろに居る椿に気づくと、化身の彼女ははっとした様子で、足を止めた。何か迷うように視線を落としていたが、やがて決心するように顔を上げた。


「私はこの子達といるわ。この方が椿も前に進めると思うの」


前に進める、その意味は愛には分からなかったが、ここで会話を重ねたら、椿に変に思われてしまう。だが、化身の思いをしっかり確かめなくては、この場を去れない。その為に、恐れられると分かっていながらも、眼鏡をずらして化身の姿を直に見ている。


愛は、眼鏡越しでも化身の姿は見えているし、その姿をより良く見る為に、眼鏡を外して化身と対峙するが、眼鏡を外すのはそれだけではない。

眼鏡をして瞳を隠していると、自分の正体を偽っているような気がしてしまうからだ。だから、いつも眼鏡を取って化身と向き合ってきた。せっかく会話を重ねて心を開いてくれても、その後に、それが翡翠の瞳を持つ人間だと知ったら、化身達はショックを受けたり疑心暗鬼に陥ってしまうかもしれない、そんな不安があったからだ。


だから、まっすぐと化身の思いと向き合う為、愛は翡翠の瞳を晒す。そんな愛だから、椿に不審がられるからといって、言葉も尽くさずに化身の彼女の願いを、ただ受け入れる訳にはいかなかった。


愛は眼鏡を直してから、ちらりと椿を見上げた。椿は愛が自分を振り返ったのに気づくと、照れたようにはにかんでいる。そのほわほわとした様子に、愛は暫し考え、再び化身の彼女と向き合った。


まぁ、この女子高生とは、この依頼が完了すればもう会う事もないだろう。


おかしな奴だと思われても、どうでもいい。愛はそう気持ちを振り切り口を開いた。


「…あなたは、それで本当に良いの?」

「うん、もう決めたから!」


愛は化身の彼女に尋ねた筈だが、背後から吹っ切れたような明るい声が聞こえた。愛は、君に言ったんじゃない、そう言い返しそうになり、声を出す前に唇を結んだ。椿には化身の姿が見えないのだ、自分に声を掛けたと思っても仕方ない。着いてくるなと、もっと強く言えば良かった。探し物を目の前にしている今、椿にあっち行ってろとは言えない。

どうしたものかと、こっそり頭を悩ませる愛に、化身はきょとんとして、それからおかしそうに笑った。


「ごめんなさいね、噂とは印象が違ったから。それに、椿も元気みたい」


化身の彼女は、そう微笑んだ。愛は頷く代わりに、そっと表情を緩めた。椿のおかげか、化身の彼女からは、愛を恐れる様子は伝わってこない。それとも、もう覚悟を決めているからだろうか。


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