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瀬々市、宵ノ三番地  作者: 茶野森かのこ


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4. 恋する女子高生1



それから多々羅(たたら)は、用心棒の四人を相手に、毎日少しずつゴーグルとイヤホンに慣れる訓練を始めた。

多々羅の仕事は、今のところ家事と店の掃除くらいだ。店番をしていてもまず客は来ないので、訓練を行う時間はたっぷりあった。


愛は倉庫部屋にこもり、壮夜(そうや)から受け取った仕事をしている。倉庫部屋には、作業中も作業をしていなくても鍵がかけられているので、多々羅は中の様子をこっそり窺う事も出来ず、愛がどんな風に仕事をしているのかは分からないままだ。だがきっと、物の化身の思いを丁寧に聞いているのだろうと、多々羅は想像した。


多々羅も化身と対話が出来れば、愛の力になれるかもしれない、それに、愛の気持ちも少しは分かるかもしれない。その為には、ゴーグルとイヤホンに早く慣れなくては。


「でも不思議だな…どうしてこのゴーグルは、化身の姿が見えるんだろ」


信之(のぶゆき)は、化身を映す鉱物があると言っていたが、それは一体どういう物なのだろう。声が聞こえるイヤホンも、仕組みが気になる所だ。何にせよ、こんなものを作ってしまう正一(しょういち)には尊敬でしかない。


「正一は、零番地の人から貰った物で作ったって言ってたわ」

「…言ってた」


多々羅の呟きに、ユメとトワが答えてくれる。トワは相変わらずユメの後ろに隠れ、泣きそうな表情を浮かべている。トワにとって、多々羅は信用ならない存在なのか、それともトワの性格上の問題なのかは分からないが、子供を泣かしているみたいで胸が痛む。つくも神なのだから、誕生してからの年月は多々羅よりも長いのだろうが、ユメとトワの見た目はどう見ても子供だ。なので、多々羅はなるべく怖がらせないように意識しながら、言葉を続けた。


「零番地って…壮夜さん?」


その問いかけに、ユメが口を開きかけたが、同じタイミングで多々羅のポケットが震え、多々羅は「ごめんね」と二人に断りを入れ、スマホを取り出した。画面を見ると、結子(ゆいこ)からのメッセージが届いていた。


(ゆい)ちゃんだ」

「あら、彼女?」


耳元で柔らかな声が聞こえ、多々羅はびくりと肩を跳ねさせた。見ると、アイリスが多々羅の肩口からスマホを覗き込んでいて、多々羅は驚きながらも後ずさった。


「え!?いや~違う違う!」


アイリスの問いに否定しながらも、彼女という響きに、頬の緩みが抑えられない。まだ結子とは付き合ってもいないが、夢くらい見ても構わないだろう。

結子とは、再会してから時折連絡を取り合っている。話の内容は愛についてばかりだが、それでもこうしてやり取りが出来るのは嬉しいし、多々羅の胸を高鳴らせる。

愛をだしにしているような申し訳なさはあるが、そこは大目に見てくれと、心の中で愛に謝りつつ、多々羅はスマホのメッセージを確認した。


“仕事はどう?”

“相変わらず暇してます。結ちゃんは?”

“私も、バタバタして変わらない感じ。美味しいイタリアンのお店見つけたの、たーちゃん行かない?”


「え…!」


思いがけないお誘いだった。


“是非!”そう打ち込むと、

“良かった!じゃあ、また連絡するね”と、返事が返ってくる。多々羅は手を震わせた。


「マジか…!誘われちゃったよ!これってデート!?」


多々羅が喜びに振り返ると、アイリスも嬉しそうに笑顔を見せてくれた。


「あら、やったじゃない!チャンスあるんじゃない?」

「えぇ?そっかな、そうなっちゃうかな!?」

「浮かれてるな…」


ノカゼは肩を竦め、腰に手をあて多々羅を見下ろしている。その迫力に、多々羅は思わず身を引いた。まだ、ノカゼの迫力には慣れないみたいだ。


「あ、ごめん、そうだよな!仕事中だし、」

「男なら、リードされてばかりいては格好がつかないだろ」


こんな事で浮かれるなんてと、ノカゼに呆れられたかと思ったが、予想に反して恋を後押ししてくれるような発言に、多々羅は目を丸くしながらも、ノカゼが自分を受け入れてくれたような気がして、嬉しくなる。

ノカゼは口数が少なく、初対面が彼に襲われているような状況だったので、多々羅はまだ彼に恐怖心を抱いていたのだが、いつの間にかその気持ちがすっと消えていた。


「そうだよな…!告白はやっぱり俺からだよな!」

「ふふ、素敵ね」

「あ、でもこの事、愛ちゃんには内緒にしてよ、色々気まずいしさ」


照れながら言えば、皆は了解してくれた。

多々羅は自分を追い出そうとした用心棒達相手に、気づけば恋の話が出来るほど心を許していた。自分の順応性の高さをこんな所で気づかされるとは驚きだが、せっかく出来た友人も、誰にも紹介出来ないというのが、残念だ。


「こんにちは!」


用心棒達と恋バナで盛り上がっていると、元気な声と共に、カランカランとドアベルが鳴った。

予想外の来客に、多々羅は慌ててゴーグルとイヤホンを外し、用心棒達も来客に姿が見える訳ではないが、条件反射なのか本体へ帰っていく。


多々羅が焦って店の入り口を振り返ると、そこには女子高校生が居た。高校の制服姿で、白いワイシャツにチェックのタイ、チェックのスカートにスニーカー、背中には大きな黒いリュックを背負っている。黒い髪を高い位置でお団子に結い、目がぱっちりとした、小柄で可愛らしい女の子だ。


「い、いらっしゃいませ!」

「…あれ?愛ちゃんは?」


多々羅を見て、彼女はきょとんとしている。


「居ますよ、今、お呼びしますね」


愛の知り合いかと思い、多々羅は応接室を通り倉庫部屋へ向かう。ドアをノックして、「お客様ですよ」とだけ言って愛を連れてくると、彼女はぱっと表情を明るくしたが、愛の方はげんなりといった様子で表情を歪めた。


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