表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瀬々市、宵ノ三番地  作者: 茶野森かのこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/120

3. 再会と宵と用心棒23

「うーん…右目にその痕跡があるのは確かだよ。思いを拗らせた化身は禍つものとなって、人に取り憑く事がある。禍つものの事は聞いてるでしょ?」


禍つもの、と聞いて、彩のペンダントの化身と愛の会話を思い出す。


「…そう言えば、今日、ペンダントの化身と愛ちゃんがそんな話をしてました。でも、愛ちゃんの言葉しか俺には聞こえないのでよく分からなくて。人を襲うって、どういう事ですか?何の為に?」


それに、愛が彩のペンダントと会話していた時は、多々羅(たたら)にとっては全てが初めての事で、愛の仕事の邪魔してはいけないという意識の方が強く、愛の言葉もあまり呑み込めていなかった。

そんな多々羅に、信之(のぶゆき)は少し驚いた顔をして、こめかみを掻いた。


「そっか…うーん、どうして正一(しょういち)さんは説明しなかったのかな…」

「あの、そもそも禍つものって…?」


多々羅が尋ねると、信之は困惑を一旦押し込め、多々羅に向き直った。


「うん、そうだよね。物の化身は、その物の意思の表れでしょ?その思いを拗らせたのが禍つものって言って、自分の思いを貫こうとして暴れたり、人や物の化身を襲って、その心を奪ったりするんだ」

「え…心を奪うんですか?」

「そう。原因不明の不治の病とか、心の病とか言われてた症状の中にも、実は禍つものが人に取り憑いたせいだった、っていう事が幾つもあるんだ。物の化身については、宵の店の関係者しか伝えられていない…というか、見えない人には信じようもなかったから、誰にも信じて貰えないのも仕方ないかもしれないけどね。

禍つものはね、思いが強ければ強いほど力を増すんだ。思いの力の源は心にある。だから、もっと強い力を欲して、心を奪おうと人を襲い人に取り憑く。心を失くした人間は廃人のようになって、酷いと命を奪われかねない。

愛君の目には、その禍つものの力の痕跡があった」

「それで、瞳の色があの色に…?」


信之は頷いたが、同時に、どこか腑に落ちない表情を浮かべている。


「ただ普通はね、痕跡なんか残らないんだ。それが祓われているとしたら尚更ね、祓い損ねたなら、愛君はあんな普通に生活は出来ない。だから、襲われて祓われた痕跡っていうのは正しいかもしれないけど、その確信が持てないんだ。

禍つものを祓っても後遺症が残る人はいる、それこそ、視覚や聴覚といった感覚が奪われたり、軽くても、頭痛や怠さが酷くて起きているのがやっとって状態だったり、それが日によって違ったりね。人によってケースは様々だ。

愛君の場合は感覚もしっかりしてるし、倒れるような事も、大人になってからは落ち着いてきてる。

それでも、瞳の色が変わる事はない。さっきも言ったけど、普通痕跡は、体の表面に残らないんだ。

いくら力の強いつくも神が禍つものになって人を襲ったとしても、襲われた人の瞳の色が変わる事はない。

もし可能性があるなら、僕らも知らない力を持つ禍つものがいるのか、わざと力を残していったのか…だとしたら、どうして禍つものは、愛君の体から去ったのか。

愛君は、うちの病院に運び込まれる以前の記憶を失っているから、真相は何も分からないんだよ。

それにもしかしたら、襲われたせいではないのかもしれないし」


その言葉に、多々羅は、え、と声を上げた。信之は困ったように肩を竦めた。


「真実は誰にも分からないなら、その可能性も無いとは言えないでしょ?途中で祓う事を止めたとしたら、愛君の為だったって事もあるのかな、とか。

でも、それはあまり現実的じゃないから、きっと襲われたんじゃないかって、愛君は思ってる。あの瞳を見て、化身は怯えるらしいから…きっとあの瞳の色は、愛君を襲った禍つものの一部。怯えられるのは、愛君を襲った禍つものは余程恐ろしいものだった。そんな恐ろしい禍つものなら、人を襲って当然じゃないのかって」


「無理もないよね」と、信之は少しだけ寂しそうに笑った。


「化身が愛君に怯えるのは、愛君が恐ろしい禍つものの力を持ってるんじゃないかって、思ってるからみたいなんだ。だから、愛君も自分が何者なのか不安になるんだと思う。瞳の色が変わった理由が分からないんじゃ、自分でも自分を疑いたくもなるよね。実際、普通の人には無い力が備わってるわけだし…。

正一さんも、研究の傍ら情報を得ようと飛び回ってるみたいだけど、なかなか難しいみたいだ」


「そうだったんですか…」と、多々羅は俯いた。先程まで持っていた自信が、みるみる内に消えていく。


自分は、今まで愛に、どんな言葉をかけてきただろう。


気軽に綺麗だとか、羨ましいとか、言っていいものではなかったのかもしれない。愛にとっては、傷跡だけ残っているのに記憶がないのだ、しかも、そのお陰で不思議な力を得て、結果怯えられている。愛にとって翡翠の瞳は負担でしかなく、自身に対して恐怖を感じてもおかしくない。

愛は、何かを探していると言っていた。それは、何故自分が襲われたのか、自分が何者かを知る為なのだろうか。

それらを考えれば、多々羅は自分を責めて落ち込むしかなかった。自分は、愛の気持ちを知ろうとも分かろうともせず、愛を傷つけていたかもしれないと。


そんな多々羅に、信之は柔らかに目を細め、多々羅の頭をポンと撫でた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ