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3. 再会と宵と用心棒21


***



多々羅(たたら)は気がつくと、瀬々市(ぜぜいち)の家の前にいた。

先月お邪魔したばかりだが、その時と家の様子が何か違う。


何だろう、何が違うのだろうと首を傾げていれば、黒いランドセルを背負い、二人の少年が多々羅の横を駆けて抜けて行った。大きな坂道を駆け下りながら、不意に前を行く少年が振り返った。それから彼は、楽しそうに手で敬礼ポーズを作った。


「愛隊員、今日も登校前の見回りに向かいます!」

「りょ、了解です、多々羅隊長!」


敬礼ポーズでやり取りをする二人に、多々羅は途端に懐かしさが込み上げて、辺りを見渡した。何かが違うと感じていたが、そう思うのも当然だ、ここは多々羅の過去の世界だ。


ということは、これは夢の中だろうか。


「行くぞー!」と、景気の良い声が聞こえ、多々羅は再び少年達に目を向けた。


元気良く前を走るのが多々羅で、多々羅を懸命に追いかけるのは愛だ。

朝の清々しい空気を切り、二人は楽しそうに駆けていく。小学校への通学路は、二人にとっては大事な見回りごっこの時間で、低学年の頃の二人の日課だった。

大きな犬のいる家では犬に吠えられつつ、懐いてくれた猫の家では猫の背を撫でて挨拶し、公園の中は遊具の回りを見ながら「不審物なし!」と確認し合う。たまに落とし物を見つければ、登校途中にある交番に届けたりもした。そうすると、「見回りご苦労さん。でも、早く学校行けよ」と、お巡りさんが敬礼ポーズで見送ってくれる。二人は、「はい!」と元気良く返事をした。



その様子を眺めながら、多々羅はぼんやりと思う。


今思い返せば、本当に子供で、何でも遊びに変えて、何でも楽しくて、よく笑っていた。多々羅は愛といるだけで楽しかったが、愛はどうだったのだろう。

多々羅は、小さな自分達が駆ける姿を遠くから眺めながら、寂しさが胸に押し寄せるのを感じた。


「愛隊員、急ぐであります!」と、小さな多々羅が愛に手を伸ばすと、「了解です、多々羅隊長!」と、愛はその手を掴む。


多々羅は、二人を追いかけようとしたが、その前に、多々羅の足元から透明の分厚い壁が現れ、多々羅の行く手を阻んだ。


この壁を乗り越えられる気がしていたのだけど、あれは錯覚だったのだろうか。


越えられない壁の向こう、スーツを着て大人になった愛がこちらを振り返り、寂しそうに彼らの元へ向かっていく。残されたのは、大人になった多々羅だけ。多々羅は焦り、壁の向こうの愛に声をかけた。




***




「待って、」


はっ、と息を吐き出し、多々羅は目を開けた。目の前には、見慣れた天井があり、ここが自室だと知る。


「…夢、だよな」


深く息を吐き、ぽつりと呟く。愛との過去の記憶は楽しいものばかりだった筈なのに、今はとても寂しい気持ちになる。あの頃と今とでは、随分変わってしまったからだろうか。


それにしても、昔の愛は、あんなに屈託なく笑っていたんだなと、ぼんやり思う。

そう言えば、昔は愛と言い合いになる事は無かった、そう思って、多々羅ははっとして体を起こした。すると、急に起き上がった為か、こめかみがズキッと痛み、多々羅は苦痛に顔を歪めた。頭に触れると、おでこに冷えピタが貼ってある事に気づいた。


「…あれ、俺…」


確か、店内で愛と言い合いになり、途中で気が遠くなったのではないか。それから、どうしたんだっけ、と、頭を傾げていると、トントンとドアをノックする音が聞こえた。返事をすると、ドアから顔を覗かせたのは、髭を生やした優しい顔の男性だった。


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