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瀬々市、宵ノ三番地  作者: 茶野森かのこ


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3. 再会と宵と用心棒20


「俺の瞳の色が違うのは、そういう、物に襲われた結果なんだ」

「…でも、それはまだ分かっていないんじゃ、」

「…確かに、俺は何も覚えてない。でも、正一さんや先生は、この瞳には化身の痕跡があるって言ってた。理由がどうのと言ってたけど、襲われた事に変わりない、痕跡があるっていうのは、結局はそういう事だ。俺は化身に襲われて、それを誰かが祓ったんだろう。祓いきれず、力が残ってしまった、そんなところだ」


愛はそう言ってから、俯いた視線をノカゼ達に向けた。彼らを気遣うように、その表情は幾分穏やかになった。


「まあ、そういう例もあるって事だ。勿論、そればかりじゃないから、こうやってノカゼ達がいる」


それから愛は、眉根を寄せ多々羅に向き直った。


「それに、この店で何かあってもノカゼ達が居るけど、外で、例えば彩さんのペンダントの化身が、例えばだぞ、腹いせに人を襲おうとしたらどうする。俺が側に居れない状況が作られてしまったら?多々羅君は、何も出来ないだろ」


愛は深く息を吐き、カウンターに寄りかかった。


「そんな仕事、やらせたくないし、やりたくないだろ」

「…え、じゃあ、もしかして俺にスケートやらせたのって」


はっとして尋ねる多々羅に、愛は気まずそうに視線を逸らした。


「…もしもの場合があるから、化身の姿を確かめるまでは側に近寄らせたくなかった…まぁ、写真の腹いせにってのは、あるけど」


やっぱり、愛の弱みをちらつかせた多々羅への仕返しもあったのか。

だが、多々羅はその仕返しされた事が吹き飛ぶくらいの思いだった。高く分厚い壁が、今は少しだけ透けて見えるようで。ちゃんと愛の思いを聞くことが出来て、多々羅は安堵から、体から力が抜けていくのを感じた。


「なんだそっか…俺、嫌われたわけでも、必要ないって思われてる訳でも無かったんですね」


はは、と笑う多々羅に、愛は顔を顰めた。


「…何笑ってるんだよ、今の話、絶対理解してないよな!」

「そりゃ、分かんない事はありますよ、でも、それなら、やっぱり俺が居た方が良くないですか?」

「は?」

「だって用心棒の皆は店で、ここの物達を守らないといけないし…持ち歩くのも難しいですよね?」

「確かに、私達はかさばるし、重いわ。私なんて特にね」


多々羅に話を振られ、アイリスが頷いた。化身のアイリスはとても華奢だが、本体は大きなオルゴールだ。


「ね!でも俺なら、道案内も出来るし、もし襲われたとしても、二人いたらどっちかが助けを呼ぶ事も出来るじゃないですか!そうですよ、ね、名案でしょ!」


多々羅は用心棒達に向かって言う。彼らを味方につける作戦だ。


「…確かに、正一が居なくなってから心配してたのよね…」

「俺なら、持ち運べるぞ」

「ノカゼは駄目よ、この店の要じゃない」

「私なら小さいわ!」

「…小さい」

「でも、割れたら大変でしょ?俺なら丈夫だし!」


すかさず多々羅が会話に割り込めば、ふむ、と考え込む用心棒達に、愛はぽかんとして、それから慌てて間に入っていく。


「いや、いやいや!どのみち足手まといだろ!」

「え、急に酷い事言う…!」

「だって、今は見えてるけどさ、外で俺が襲われて、多々羅君はどうやって俺を助けんの。何の力もない多々羅君がいてもさ、ただの足手まといだろ!」

「その時は、皆を呼びます」

「それじゃ遅いだろ」

「でも、店長が一人の時に襲われたら?」

「その時はその時だ、別に初めてって訳じゃない、何度もあることだ。俺は抗い方を知ってる。でも多々羅君はさ、何も出来ないだろ」

「俺だって、教えてくれたら、」

「そんなのないんだよ!」


苛立って言う愛に、多々羅はぐっと唇を引き結んだ。


「…店長は、ないないばっかりですね」

「…なんだよ」

「そうやって、あなたは逃げてるだけじゃないですか、自分の瞳の事だって、本当は何があったのか誰も分からないんですよね、それなのに悪いものだって決めつけて、それって向き合う事を避けてるだけじゃないですか?」

「知った風な口を利くな、俺は、だから探してるんじゃないか!」

「探してるって、何を、」


言いかけて、多々羅は言葉を奪われた。ぐらりと揺れる視界に、ぐわんぐわんと耳鳴りがする。


「あ、れ…」

「多々羅君!?」


伸ばした手は、愛の手に触れる事なく宙を掻いた。




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