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3. 再会と宵と用心棒18


「…じゃあ、俺を追い出そうとして?」


心強さを感じるどころではない、つくも神という話は一先ず置いておいて、用心棒が自分を襲ったということは、つまりそういう事だろう。暗闇に押し倒され、体の自由を奪い口を塞がれた。あのまま愛が来てくれなかったら、彼らは自分をどうするつもりだったのだろうか、もうこの店に来たくないと思うほど痛めつける気だったのだろうか。ちらりと、ノカゼを見上げればその瞳がこちらを見下ろしたので、多々羅はびくりと肩を跳ねさせ俯いた。


愛の役に立つどころか、店の用心棒に疑われているなんて、役に立つ以前の問題だ。そう思ったら情けなくてやるせなくて、多々羅はぎゅっと拳を握った。


そんな多々羅の気持ちを知るよしもないユメは、ふて腐れたように唇を尖らせている。


「だって!愛だってこの子を追い出そうとしてたじゃない!」

「…してた」


ユメとトワの言葉に、アイリスとノカゼも気まずそうに顔を見合せ、戸惑いながらも口を開いた。


正一(しょういち)から、新しい子がくるから守ってやってって言われたけど、愛が迷惑そうにしてたから…」

「だから、正一が言ったのは別の人間だったんじゃないかと思ったんだ」


彼らがこの一週間、何もアクションを起こさなかったのは、多々羅が正一の言った守るべき人間かどうか見極めようとしていた為なのだろう。そして、愛が多々羅を辞めさせようとしているのを見て、やはり正一が言っていたのは別の人間ではないかと、愛が迷惑に感じてるなら愛を守らなくては、そう思ったようだ。


それを聞き、愛は自分の態度のせいで彼らに誤解させたと知り、焦った様子で、「ごめん、違うんだ」と、説明した。


「確かに、辞めさせようとしてたけど、それは迷惑とかじゃなくて、この仕事が危険だからだ。正一さんがどう説明したか分からないけど、多々羅君は、この仕事の本質を分かってないから」


危険どころか、仕事の話も大して聞いていない。多々羅も宵の店に来る前に、正一に仕事の内容について聞こうとした、同じ職種だって、その会社や店舗によってやり方は異なるのだ、家事をやるにしても仕事をするにしても、情報はあった方が良い。

だが正一は、愛が教えてくれると笑って言うだけで、詳しい話どころか、家がゴミ屋敷に成り果てていた事すら教えてくれなかった。まぁ、ゴミ屋敷化に関しては、愛が徹底的に隠していたからかもしれないが…さすがの愛も、この家の変わり果てた姿を、正一には見せられないと思ったのかもしれない。


話はずれたが、それでも、多々羅は正一に対して不審に思うことはなかった。本当に危ない事があるなら、正一は言う筈だと多々羅は思っている。正一がそれを言わないのは、本当は危険などないからか、もしくは他に理由があるからだろうと。


多々羅はその理由が分からず、愛に詰め寄った。


「本質?何ですか?俺、教えてくれないと分かりませんよ。どうして教えてくれないんですか?」


正一は、危険があると知ったら、自分は愛の

仕事を手伝わないと思ったのだろうか。それにしたって、言わない理由にはならない。どうして誰も教えてくれないのか、そんなに自分は信用ならないのだろうか、こんな自分は、やはり愛にも必要としてもらえないのか。


落ち込む気持ちは、考えをあちこちに飛び散らせ、不安をいっしょくたに纏めて引きずりあげる。

ない交ぜになった思いの先には、誰の何にもなれない、空っぽのままの、穂守(ほがみ)の兄でしかない自分がいる。愛の前でもそれでしかいられない自分を認めなくなくて、だから多々羅は、つい必死になってしまう。


「俺、そんなに役に立ちませんか?信用出来ませんか?仕事も何も教えてくれない、そりゃ、俺は何も見えないし聞こえないし…」


言いながら、多々羅は自分の言葉を否定しきれなくて、やがて言葉を失った。そりゃそうだ、物の化身なんて見る力もない自分は、仕事の邪魔にしかならない。

どうしてこんな時に気づいてしまうのだろう、どうして、こんな自分でも役に立てるなんて思ったのだろう。


「…どう考えても、俺はお荷物ですよね」


正一も、どうして自分に仕事を勧めたのか、もしかしたらただの気遣いだったのかもしれない。自分ではそういうつもりはなくても、落ち込んでいたように見えたのかもしれないし、幼馴染みと一緒なら、気が楽だと思ったのかもしれない、自分にとっても愛にとっても。愛を心配している気持ちは本当だろうし、自分に対しては、ちょっとしたきっかけを作ってくれただけかもしれない、気持ちを前向きにするきっかけ、正一はただそれだけのつもりだったのかもしれない。


そんな風に落ち込む多々羅を見て、愛は目を瞬いていたが、やがて気まずそうに視線を泳がし、項を手で擦った。


「…お荷物じゃないから、教えたくなかったんだ」


ポツリと溢した呟きに、多々羅はきょとんとして顔を上げた。


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