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瀬々市、宵ノ三番地  作者: 茶野森かのこ


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3. 再会と宵と用心棒17


そして目を開けた先、そこには多々羅が先程見た通り、あの少女がいた。


先程と同じように、彼女はこちらを窺うように、じっと多々羅を見つめている。それに、先程は気づかなかったが、彼女の後ろには、もう一人子供がいた。男の子だろうか、その子は少女と同じ顔をしており、恐々と、少女の小さな背中から顔を覗かせている。


二人とも、年齢は七歳位だろうか。揃って大きな瞳に小さな唇で、お人形さんのような愛らしい顔立ちだ。

見た目はそっくりな二人であるが、違いもある。手前の少女は、勝ち気そうな印象で、桃色の長い髪に白いワンピース、フリルの襟には金糸で波のような模様が入っている。

その後ろに居た少年は、手前の少女と同じ背格好だが、今にも泣き出しそうな顔をしている。水色の短い髪に白いシャツと半ズボン、襟のフリルには少女とお揃いの模様が入っていた。

そんな違いはあるが、二人はやっぱりそっくりで、有名な双子のキャラクターみたいだと、多々羅は思った。


多々羅が呆然としたままでいると、手前の少女は立ち上がり、そのまま腰に手をやると、ふんぞり返るように胸を張って多々羅を見下ろした。


「なんだ、ただのへなちょこじゃない」

「…へなちょこ」

「愛に対して失礼な態度ばっかり取って!あたし達、怒ってるのよ!」

「…おこ」


少女が何か言うと、彼女の背中に怯えたように隠れながらも、少年が怖々と顔を覗かせ、言葉足らずにおうむ返しする。多々羅は、その様子をぽかんとして見つめていた。

見慣れてしまえば、可愛いものだ。しかし、この子供が本当に物の化身なのだろうか、多々羅はその確信が持てず、思考は堂々巡りを繰り返し、目を回しそうになっている。


「…見える?聞こえる?」


愛に声を掛けられ、多々羅ははっとして顔を上げた。混乱の極みに、息をするタイミングを失いかけていた。


「は、はい、」


頷いてはみたが、混乱する頭では、最早、愛が何を指して聞いているのか、分からなくなっていた。この子供達の事を言っているんだよなと、間違っていないよなと、混乱の続く多々羅に、愛はその隣にしゃがみ込むと、目の前の子供の頭を順番に撫でた。それにより、多々羅は今、愛と同じものを見ているんだと知る。愛に頭を撫でられた二人の子供は、顔を見合せ、擽ったそうに笑った。多々羅がそれを見て愛に視線を戻すと、愛は穏やかに微笑んでいて、その横顔が、幼い頃の愛の姿を思い起こさせ、多々羅はじんわりと胸に温かいものが広がっていくのを感じた。


「この子供達は、ショーウインドウに飾っているティーカップの化身だ。桃色の髪の女の子が、ユメ。水色の髪の男の子が、トワだ」


「それから」と、言いながら愛は立ち上がり、くるりと振り返る。多々羅もそれを視線で追いかけながら後ろを振り返ると、真後ろには見知らぬ男女の姿があり、多々羅はびくりと肩を跳ねさせた。

後ろに佇んでいた男女は大人の姿をしており、女性の方はにこりと微笑みを浮かべながら、ふわりと宙に浮くようにしてやって来る。彼女は、多々羅を追い越してユメとトワの後ろにしゃがむと、二人の肩にそっと手を置き、多々羅に申し訳なさそうに微笑みかけた。


「私は、オルゴールの化身、アイリスよ。あなたの足を引っ掛けたのはこの子達だけど、あなたの背中を押して転ばせたのは、私。ごめんなさい、あなたを敵だと思ってしまったの」


オルゴール、そう聞いて、多々羅はショーウィンドウに目を向けた。アイリスの姿は、オルゴールの上で踊っている花の精の人形と、全く同じだった。長いブロンドの髪を両サイドから一房ずつ取り、それをピンクのリボンで結んでいる。淡いピンクのロングドレスを纏い、手足はスラリと長い。元が陶器だからか、肌はつるりと美しかった。笑顔が優しく、包容力を感じさせる女性だ。


「それで、俺がお前の肩を掴み、押さえつけた。脅せば出て行くと思ったんだ…すまなかった」


その声に、多々羅は再び後ろを振り返った。こちらへ歩み出てそう頭を下げたのは、座り込んだ姿勢から見上げたせいもあるだろうが、天井に頭がつくのではと思ってしまうほどの大男だ。二メートルは軽く越えている、いや、三メートルくらいあるのではと、多々羅はその巨体に驚いて怯えたが、実際は二メートルより少し低いくらいだ。


「彼は、同じくショーウインドウに並んでいる、鉄扇のノカゼだ」


愛の説明に、多々羅はショーウィンドウに並ぶ鉄線を思い浮かべた。

ノカゼは紺地の着流しを着ており、その生地の柄は鉄扇と同じく、紙の繊維がちりばめられたような模様に見えた。それから、鉄扇同様に大きな傷が顔の右側にあり、それが右目を塞いでいた。腰帯には、閉じた状態の鉄扇だろうか、それが刀のような大きさになって差してある。屈強な体つき、その太い腕を見て、多々羅は青ざめた。あの腕でもし殴られたら、恐らく気を失ってしまう、いや、下手したら命だって危ないかもしれない。


「彼らは、この店の用心棒なんだ。皆、物の化身で、つくも神だ」

「え、」


物の化身で、つくも神で、それが用心棒。

物の化身というだけでも、ようやく受け止められたのに、加えられた彼の肩書きに、多々羅はぽかんとして彼らを見上げた。

月明かりを背に受ける彼らは、皆、心なしか誇らしそうだ。だが、多々羅はその堂々とした姿に、臆病に身を縮こませた。


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