3. 再会と宵と用心棒9
「ほらほら、正一さんも居ないんでしょ?多々羅君を大事にしないと、逃げられちゃうよ」
「お前はさっきからうるさいぞ!仕事が終わったらさっさと帰れ!」
「はいはい、またね~」
壮夜から鍵を受け取り、愛は壮夜の背中を再び押していく。壮夜は追い出されるように店を出ていった。少ししてバイクのエンジン音が鳴り、それが次第に遠退いていく、恐らく壮夜の乗るバイクの音だろう。
「…仲良いんですね、零番地って言ってましたけど、この店の系列ですか?」
多々羅は気を取り直して、愛を振り返った。必要ないと言われたくらいで、めげる訳にはいかない、そもそも多々羅は正一に認められて雇われたのだからと、自分を勇気づけた。
それに、この店の事は、まだまだ知らない事ばかりだ。
この店の名前だってそうだ、この店は、“三番地”と名前にある。そういえば、店の番号にはどんな意味があるだろう。昔は、この辺の住所が三番地だったのかなと、なんとなく想像を巡らせていたが、もしかして“零番地”は本店で、“三番地”は三番目に開いた支店、という意味なのだろうか。
「別に仲良いわけじゃないよ。零番地は…、そうだな、系列店と思ってくれていい」
「本店とか?この店って、そんな大きな会社だったんですか?」
「本店とは違うけど、…まぁ、支店みたいなものは幾つもあるな」
探し物屋とは、そんなに店舗があったのかと、多々羅は驚いた。この店だけだと思っていたが、他にも店舗があるとしたら、愛のように物の化身が見える人間が、正一だけじゃなく、他にもいるのだろうか。
「あ、じゃあ、あの箱の中は何が入ってるんですか?探し物とは別の仕事って、あれの事ですか?」
「だから、多々羅君は知らなくても良い事だってば」
話の流れでこのまま聞き出せるかと思ったが、そんな簡単にはいかないみたいだ。
「教えてくれたって良いじゃないですか!俺、悪いけど辞めませんよ!」
「明日になれば分からないだろ」
「…写真」
ボソッと呟いた多々羅の言葉に、愛はびくりと肩を震わせた。しかし、愛はめげずに背を背ける。
「…み、見たければ、見ればいいよ!どっかにばらまいたって、俺は平気だし!」
「またまた、無理しちゃって。良いんですか?本当に良いんですか?誰にも知られたくない秘密なんでしょ?」
しつこく聞けば、愛はくるっと振り返って、多々羅にしがみついた。
「…やっぱり駄目だ!写真どこやった!」
「教えられませんよ、そんな事」
「…じゃあ、俺も教えない」
「えぇ?それはズルくないですか?」
「ズルい事言い出したのは、そっちだろ」
「ちょっと店長!」と、怒って階段を上がる愛を多々羅が追いかける。
こんな事をしている内は、まるで昔に戻ったかのような気にさせられる。必要ないなんて言ったのだって、ただの軽口で、本当は少なからず必要としていると、その本音を隠したいだけなのではないか、そう思えば、多々羅の心は少し軽くなる。
愛の本音がどこにあるのか、もし言葉通りだとしたら。そう思ってしまえば、せっかく立て直した決意が揺らいでしまいそうで、多々羅は愛の言葉から目を背けるのに必死で、だから、多々羅は気づかなかった。
誰も居なくなった静かな店の片隅で、白い光が、ぼんやりと灯っていた事に。




