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3. 再会と宵と用心棒7


***



そして、それから一週間後の現在。多々羅の取り戻せた自信は、早くも下降傾向である。


愛についても、考えてみれば多々羅は表面上の事しか知らない。

家事が出来ない事、方向音痴な事、不思議な瞳を持っている事、そのせいで体に影響を及ぼす事。その綺麗な瞳を、自分では悪いものと思っている事。

多々羅がいくらその瞳が綺麗だと言っても、愛の心には届かない。愛は、愛自身に対してどこか投げやりに見える。それが多々羅にはもどかしかった。多々羅も、その力については、自分も愛を信じられるのかと不安が過ったりもしたが、化身と向き合う愛の姿を見たら、疑うなんて出来なかった。化身が見えない多々羅にも、愛が言葉を掛けた先には誰かがいることが分かったし、その人に対して、愛は真剣で、まっすぐに思いやりを届けていたように感じる。

その結果、彩の嬉しそうな笑顔を引き出せたのだ。

どんな理由があろうと、物の化身が見えるその瞳は、誰かの力になれる誇れる物のように多々羅は思う、この日、改めてそれを感じたのだ。


でもきっと、それだって愛には伝わらない。二人の間には、愛が作った壁がある。


その証拠に、探し物の仕事について、多々羅は詳しい事は何も知らされていない。パイプの事だって、今日、初めて知った。

そして、愛はよく、嫌ならいつ仕事を辞めても良いという。


「……」


落ち込みそうになり、いや、まだまだこれからだと、内心首を振る。だってまだ、再会して一週間しか経っていない。分からない事があるのも当然だと、多々羅は自分を勇気づけた。





スーパーで買い物を済ませ、二人は夜道を歩いていく。不足した食材等を買い、今日は遅くなったので、お弁当を買って済ませることにした。


「気になってたんですけど、物って勝手に移動出来るんですか?」


彩のペンダントの事だ。鞄から抜け出し、建物の裏側まで、どうやって移動したのだろう。


「まぁ、化身になれたら、ある程度はな。だけど自分の力だけじゃ、そんなに遠くへは移動出来ない。今回の場合は、鞄から出る位が精一杯だったと思う。鞄から出た後は化身の姿となって、猫や鳥を呼んで運ばせたんだろう」

「動物と話せるんですか?」

「そうみたいだよ」


へぇ、と頷きながら、化身になって、物はどんな風に動くのだろうと想像してみる。テーブルの上に置いていたと思った物がたまに床に落ちているのは、気づかぬ内に落としてしまったのではなく、物が動いた証なのだろうか。

いくら考えても分からないが、そうやって移動したから、あのペンダントはあんなに狭く暗い茂みに居たのだろう。


「そういえば、依頼って、幾らで引き受けているんですか?」

「一回三千円」

「え…このペースで、店やっていけるんですか?」


多々羅が来て一週間経つが、依頼人は彩一人だけだ。


「問題ない。探し物屋の仕事は、他にもあるから。本来は、そっちがメインなんだ」


そっちがメイン。その言葉に多々羅は目を瞬いた。宵ノ三番地とは、探し物をする為の店だと多々羅は思っていたので、それだけではなかったのかと、軽く衝撃を受けていた。


そんな話をしていると、店についた。ドアに鍵を回して開ける。暗い店内を進み、二人は二階へ向かった。リビングの明かりをつけると、愛はカレンダーへ目を向けた。多々羅は、やはり聞かずにはいられなくて、愛の背中に声を掛けた。


「メインの仕事って?どんな仕事なんですか?」


好奇心を疼かせて尋ねてみれば、予想通りに溜め息が返ってきた。


「多々羅君には出来ない仕事だから、話す必要もないだろ」

「そんな言い方…出来なくても、こういった仕事もありますよって、教えてくれても良いじゃないですか」


食い下がる多々羅に、愛は疲れたように頭を振り、多々羅を振り返った。


「じゃあ、言い方を変える。その内辞めたいと言い出すだろうから、多くを語りたくない」


それには多々羅はムッとした。きっと聞いても教えてくれないだろうなとは思っていたが、毎回辞めさせようとするのは聞いていて面白くない。こんなにも力になりたがっているのに、毎回拒否されれば、さすがに傷つくし腹が立つ。


「どうしてそう決めつけるんですか、辞めませんよ!俄然、興味津々です!」

「多々羅君は、分かってないんだ。この仕事は危ない事もある。俺の目を見ろ、気持ち悪いだろ」

「嫌味ですか?綺麗ですよ」

「そうじゃなくて、」


そこへ、ブーっと、ブザーが鳴った。店を閉めている時に活躍するこの家のインターホンだ。店の扉の傍らにある、白く丸いボタンがあるのだが、それがこの家のインターホンだ。


「珍しい、こんな時間に。お客さんですかね」

「…タイミング悪いな、あいつ」


溜め息を吐いた愛に、多々羅はピンとひらめいた。


「もしかして、仕事ですか?」

「…どうせついてくるだろうから、紹介しておく。ちょっと店に来てくれ」


重たい足取りの愛と違って、多々羅は意気揚々と愛の後をついて行った。


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