3. 再会と宵と用心棒6
再会は、もっと懐かしさや、それにともなっての感動やらが込み上げるかと思いきや、いきなりのゴミ屋敷、何だか気まずい、というか、多々羅にとっては、出鼻を挫かれたような思いだった。
「…あ、えっと、急に悪いな。俺、御木立多々羅、覚えて…ますか?」
この空気を一先ず変えようと、多々羅はぎこちない微笑みを乗せて話しかけたが、途中で雇われの身だと思い出し、何より大人になった愛に少し緊張してしまい、敬語になってしまった。愛は、ふて腐れた顔のまま振り返った。
「覚えてる、多々羅君だろ。俺を女と勘違いして、色々引っ張り回した」
嫌な事を覚えてる。多々羅はその口振りに頬を引きつらせたが、初日なんだからと、どうにか心を落ちつかせた。我慢や心を平静に保つのは、得意な方だ。
「そ、そうそう…元気そうで良かったよ」
「そっちも…それより、良く受けたなこんな仕事。この通り、俺はダメな人間だ、辞めたきゃいつでも辞めて良いからな、正一さんには俺から言っておくし」
そう言って、取り出したゴミ袋に片っ端からゴミをかき集める愛。
その様子を見ていたら、多々羅は何だか夢から覚めた思いだった。
久しぶりに会った愛は、びっくりするくらい可愛げがなかった。そりゃ男だし、別に可愛さは求めていなかったが、愛が男と分かってからは、同い年でも弟のように接していたので、どうしてもあの頃の可愛い愛を思い出してしまう。
溜め息を吐きかけた多々羅は、そんな自分に気付き、慌てて頭を振った。
自分から仕事を辞めてここに来たのだ、それに、再会してまだ数分、相手の事を勝手に決めつけて良いわけがない。多々羅はここに、自分を見つめ直しに来たのだ。
多々羅はそう気合いを入れ直し、愛の手からゴミ袋を取った。
「ゴミは俺やりますよ、ほら、分別とか面倒でしょ?愛…店長は、そっちの服の方お願いします。それって、洗ってないですよね」
「まだ着てないのもある」
「え…」
服はゴミに埋もれている。言葉を失くした多々羅に、愛は居心地悪そうに唇を尖らせた。
「な、何だよ、積んだら混ざっちゃったんだよ!」
「…成る程、じゃあ、洗っちゃいましょうか、全部。今晩着る服は、ありますよね」
まさか、全部の服がこうなった訳じゃないだろうと、多々羅は辺りを見渡した。ここはリビングだし、部屋にはタンスやクローゼットがある筈だ、その中身が空な訳ではないだろう。
だが、そんな多々羅の考えは、はっとして固まった愛により、その考えを改めなければならないようだった。
「…じゃあ、着れそうな服、ピックアップしときましょうか。明日の分は、夜干しておけば乾くでしょう。あと、床に転がってる雑貨も、とりあえず一纏めにしといて下さい」
「分かった」
頷き、言われた通りに動く愛に、多々羅は少し拍子抜けした。随分、素直に動くんだなと。意地を張って素直に人を頼らないと聞いていた分、意外だった。
片付けながら知った事だが、愛は家電の使い方もほとんど分からないらしい。なので、レンジには卵を破裂させた後があり、洗濯機も使おうとして諦めたのか、中途半端に洗濯物が水に浸かったままで、掃除機には、紙くずが吸い込み口に詰まって放置されていた。
「…ダメだなこりゃ」
俺がいてやらないと。
するっと出てきたその思いに、多々羅は自分でも驚いた。そしてそれは、胸の内を擽り、多々羅の心を温めていく。
愛の為に出来る事が自分にもある、少なくとも家事に関しては。
愛は、自分を必要としてくれるかもしれない、そう思えば、多々羅は希望が見えた気がしたし、少しだけ自信を取り戻せた気分だった。




