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瀬々市、宵ノ三番地  作者: 茶野森かのこ


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2. 星のペンダント3


「そうですね。物にも意思がありますから、持ち主の思いは重要です」

「物の、意思?」


きょとんとする彩に、多々羅は血の気が引いた思いで、焦って身を乗り出した。


「あー!えっと、例え話ですよ!物も大事にすれば、欠かせない大事な相棒になっていくように、ね!相棒になる位だから、物への思いやりは大事だし、その持ち主の熱量が、物探しをする我々の背中を押してくれるんです!ね、店長!」

「…お前、さっきから何を言ってるんだ?」


必死にフォローをした多々羅だったが、愛から怪訝な表情を返され、「いや、アンタが何を言ってるんだ!」と言いたいのを、懸命に抑えて無理矢理に笑顔を作った。


「ところで、本当に探して良いんですね?」


そんな多々羅をよそに、愛は念を押して彩に尋ねた。彩は再びきょとんとしたが、「勿論です!」と声を強めた。


「先程、縛られてると言ってましたが、それは事実ではありませんか?ペンダントが無くなって、これで跳ばなくて済むと気が楽になったりは?」

「…それは、」

「ちょっと失礼ですよ!大事だと分かったから、こうしていらっしゃってるんじゃないですか!」

「うるさい、俺は彼女に聞いてるんだ」


彩は俯き、そっと口を開いた。


「…確かに、そんな風にも思いました。背中を押してくれた筈のペンダントが、重かった。これは、私の栄光の証でもありましたから」


彩はぎゅっと手を握る。


「でも、駄目なんです。失って気付きました。私は、あのペンダントが、母の思いがあったから、ここまで来れたんです。私は、これ以上強くはなれないかもしれない、でも、無様に負けた時も、ペンダントはずっとここにありました。それは、これからも一緒じゃないと。私のスケート人生に、あのペンダントは必要なんです、負けて転んでも共に戦って、それで最後まで一緒に見届けてほしい。あのペンダントは、戦友みたいなものです。私がスケートを滑れなくなっても、それは私の宝物なんです」


彩は、そこにある筈のペンダントに触れた。多々羅の記憶にある彼女は、輝かしい活躍をしていた記憶しかないが、その裏では苦い思いも沢山してきたのだろう。共に戦ってきたペンダントには、彼女の頑張ってきた歴史が刻まれているのではないか、そんな風に思った。

そしてそこには、影で支えてきた母親の思いも込められている。

多々羅は愛に視線を向けた。愛が躊躇うのなら、彩の援護に出ようと思ったからなのだが、愛は彩を見つめて頬を緩めており、その優しい眼差しに、多々羅は思いがけず目を瞬いた。


「…分かりました。きっと見つけて説得します」

「え?」


しかし、愛はまた彩を不思議そうな顔にさせるので、多々羅ははっとして身を乗り出した。


「さ、探し出します!ですよね!お引き受けしました!」


多々羅が三度フォローに入ると、愛は再び怪訝な顔をしたが、彩はほっとした様子で頭を下げた。


「ありがとうございます!よろしくお願いします!」

「承りました。それでは、最後にペンダントを外した場所は?」

「はい、スケートリンクのロッカールームです。その時は、私も頭に血が上っていたので、投げるように鞄に入れて、そのまま帰ったんです…でも、家に帰ったら無い事に気づいて。それから家もロッカーも探したんですが、いくら探しても無くて。スケートリンクのスタッフさんにも聞いたんですが、落とし物の届け出も無いらしくて…」

「そうですか…分かりました。多々羅君、そこの開きの中に抽斗があるから、中から紙と万年筆を取ってくれる?」


多々羅は返事をして、席を立った。示されたキャビネットの下部、開きの戸を開けると、右側に抽斗、左側には空きスペースがあり、革の鞄が入っていた。とりあえず一番上の抽斗を開けると、中には小箱があり、その中に、手のひらサイズの和紙のような紙が束になって入っている、その隣には、インクと万年筆があった。

多々羅がそれを取り出している間に、愛は彩に向き直る。


「それから、ペンダントの近くにあった物をお借りしたいんです。ペンダントを外した時にしまっているケースだったり、ペンダントと同様に常に持ち歩いている物とかありますか?」


彩は小首を傾げたが、言われるまま足元に置いた鞄を膝に乗せ、中を探った。


「常に…財布やスマホ、化粧ポーチ、」


なかなか、借りれそうに無い物ばかりだ。


「手袋、」

「手袋?」

「はい、練習中につけているんですが、いつも一緒に持ち歩いてます」

「それって、お借りする事は出来ますか?」


手袋なら、予備があるのではと思っての事だ。


「構いませんが…何に使うんですか?」

「重要な証言をもたらしてくれます」

「…証言?」


それには再び、多々羅が間に入った。


「えっと!ほら、警察犬的な!匂いを頼りに探したりするんですよ!ね、店長!」


そう言って、多々羅は彩に背を向けたまま、笑顔で紙と万年筆を愛に差し出す。その顔は笑っているが、いい加減恨みがましい顔つきだ。


「…まぁ、そうだな。ありがとう」


多々羅の笑顔の圧に、愛は気圧されつつ礼を言ってそれを受け取った。彩はそんな二人の様子には気づかないようで、「…成る程」と、納得して頷いていた。無理矢理に引っ張り出した理由だったが、彩に不審がられていないようなので、多々羅はとりあえずほっと胸を撫で下ろした。

愛はといえば、何故、多々羅が焦ったり怒っているのかが分からないようで、多々羅の様子を気にしつつも、受け取った紙と万年筆を彩に差し出した。


「最後に、ここにお名前と連絡先をお願い出来ますか?」

「はい」

「出来れば、ペンダントの事を思い浮かべて、見つけたい気持ちを念じて書いて下さい」

「え?」

「おまじないです」


愛は、にこりと微笑んだ。




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