9話 予期せぬ再会
足跡と血痕は、私たちを小さな洞窟へと導いた。
暗さのせいで中の様子を見ることはできない。
神経を張り巡らせると、誰かがいると感じた。
微かに動いている。どうやら生きているようだ。
洞窟の中を少し進むと、思った通り1人の人が倒れていた。
出血がひどい。初めに見た悲惨な現場と同じく、周りの地面が赤く染まっている。
「うぅぅ…うぅぅ…」
うめき声をあげる男性に駆け寄り、マフラーで出血していた部分を縛る。
腹部を中心に【ヒール】を施すと、荒かった呼吸が収まってきた。
「大丈夫ですか?分かりますか?」
「あぁ…俺は…生きてるのか…?」
「生きてますよ。止血して【ヒール】を施しました。傷が開くと思うので、しばらくは動かないでください」
「みんなは…?旅の仲間は…?」
「残念ですが、見つけられたのはあなた1人です」
「そんな…ルインさん…」
「何ですって?」
男性の発した「ルイン」という言葉に、私とルジーが反応する。
そういえばこの男の声、どこかで聞いたような…。
――『ルインさん。あんまり意地悪言わないで連れてってやったらどうです?』
『黙ってろ、ジズ。俺たちに余裕がないのは、お前も分かってんだろ?』
そうだ。
私たちに助け舟を出そうとしたものの、ルインに睨まれて黙ってしまったジズという男だ。
「あなた、ジズね?」
私が言うと、ジズは目を見開いた。
「なぜ俺の名前を?それにあなたたち、ルインさんを知ってるんですか?」
覚えていないか。
夜だったし、ルジーがメインで話していた。
仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが。
「アン王国の王都を出た後、老人と女性の2人組に声を掛けられたよね?」
「…はい。連れて行ってくれと頼まれましたが、ルインさんが断りました。かなり荒っぽく」
「そうよね。老人を突き飛ばしたものね」
「っ!?なぜそれを!?もしかして…」
「私たちを連れて行っていれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに」
ジズの呼吸が再び荒くなってきた。
怪我人相手に厳しく言い過ぎたか。
「まあいいわ。今はゆっくり休むことを考えなさい」
「そうもいかないんです」
ジズは何とか首を動かして私の方を見ると、必死に訴えかけた。
「俺たちのことを襲ったのは、ユキグマというモンスターです。この雪山でもトップクラスに危険なモンスターなんですが、どうやらこの洞窟は奴の巣のようで。あなたたちを拒絶した僕などに構わず、早く逃げてください。奴が帰ってくる前に」
「そうしたいところなんだけどね」
私はジズの顔をまじまじと見ると、苦笑を浮かべた。
「そのユキグマだっけ?ちょうど今、入口のところまで来ちゃったみたいなんだよ」