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8話 【ファイアーボール】の普通じゃない使い方

 まずいまずいまずい。

 私たちは雪山の恐ろしさを全くと言っていいほど知らなかったようだ。

 防寒着も意味をなさない。

 寒い。雪がぶつかり肌が痛い。目も開けられない。


「リリ…アナ…様…」


 ルジーが必死に私へ近づこうとしているが、自然の本気に疲れのある老体では逆らえない。

 このままでは、立ち往生したまま大往生になってしまう。何て言ってる場合か。


 何か方法はないのかな?

 山小屋まで戻るのは不可能。

 山頂から強い風が吹きおろしていて、背中に受けて戻ろうものなら真っ逆さまに転落だ。

 かといって、向かい風の中を山小屋まで歩くこともできない。

 せめて、何か風よけになるものがあれば…。

 欲を言えば暖も取りたい…。


 …暖か。

 私の頭の中に、1つの考えが浮かんだ。

 早速それを実行に移す。


 まずは、温度を極限まで低くし密度を小さくした【ファイアーボール】を出す。

 この場面において、無詠唱でスキルが使えるのは非常にありがたかった。

 次はその【ファイアーボール】を巨大化させる。

 限界ギリギリまで引き延ばす。この時、中が空洞になるように調整する。


 完成した【ファイアーボール】にやけど覚悟で手を近づけると…

 おお、暖かい。やけどしないくらいのちょうど良い温度。

【ウォーターボール】で水浴びした時のように、覚悟を決めた中へ飛び込む。


「ら、楽園だ…」


 風も雪も入って来ず、ただひたすらに暖かい。


「ルジーをこの中に入れてあげないと」


 周囲の気配を探り、ルジーを【ファイアーボール】の中に引っ張り込む。

 突然もたらされた楽園に、ルジーは驚いてきょろきょろと視線を泳がせた。


「これはいったい…」


「密度を小さくして引き延ばすことで【ファイアーボール】の中に空洞を作り、温度を低めに調整して中に入っても大丈夫なようにしたの。おまけに【ファイアーボール】は術者の意思通りに動かせるから、吹雪の中でも進めるわね」


「今おっしゃったこと、全て普通は出来ないことですよ…」


 ルジーの呆れ返ったため息がこぼれる。

 私は得意気に笑ってから、【ファイアーボール】の外に神経を張り巡らした。

 相変わらず吹雪は続いているが、雪の下に道はある。


「ルジー、私の後ろをぴったりついてきて。絶対に【ファイアーボール】の外へ出ないように」


「承知しました」


 斜面を登りつつ外の様子に気を使い、さらに【ファイアーボール】も動かす。

 負担の大きいタスクだが、命がかかっているため気は抜けない。

 慎重に慎重に進み、何とか山小屋にたどり着いたころには、すっかり夜になっていた。


「リリアナ様の技術と機転がなければ野垂れ死ぬところでした。ありがとうございました」


「ちょ、やめてってば」


 ルジーが頭を下げるので、私は慌てて顔を上げてもらう。


「私もルジーがいなければここまでこれなかったし、お互い様でしょ?助け合っていこうよ」


「そうですね」


 ルジーが柔らかな微笑みを浮かべた。




 幸いなことに、この日以降天候が崩れることはなかった。

 登山が一段落し、今度はウィース王国に向けての下山が始まる。

 柔らかな陽射しに包まれ出発した私たちだったが、すぐに衝撃的な光景を目にすることとなった。


「ルジー…これ…」


 私が見つけたのは、真っ赤に染まった雪の地面だった。

 1か所だけではない。あちらこちらの雪が、踏み荒らされて赤く染め上げられている。

 周りには、大量の荷物も散乱していた。


「血液…ですね。道中で、モンスターに襲われたのかもしれません」


 さらに注意深く調べると、足跡が一組だけ下に向かっている。

 足跡がたどる道には、ぽつぽつと血痕が残っていた。


「逃げ延びた人がいるのかもしれません。ですが、この出血から察するにかなりの重症。生存しているかどうかは…」


「可能性があるのなら行ってみよう」


 足跡と血痕は、本来の山道から外れて続いている。

 それでも、こんな惨状を見せられて助けに行かないという選択肢はない。

 私たちは滑らないように注意しつつ、生きているかも分からない怪我人のもとへ急いだ。

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