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6話 悲しい過去

「結論から申しましょう。当然のことながら、アルミ―家の国家反逆罪は全くの冤罪です」


「そうよね」


「はい。全てはフラント王子の弟、ノーグン王子が仕組んだことでした」


 頭の中に、フラント王子と瓜二つの青年が浮かぶ。

 あまり会話をしたことはないが、悪い人という印象はなかった。


「ノーグン王子は、第一王子の座を狙っていました。そうすると、長男であるフラント王子が邪魔です。そこで彼は、兄を引きずり下ろすための計画を立てました」


 確かにノーグン王子からすれば、フラント王子って絶対的に邪魔な存在だな。

 兄弟仲は良くなかったし、バチバチな政権争いをしていても不思議ではない。


「ノーグン王子はが立てたのは、かなり短絡的な計画です。邪魔なら消せばいい。つまり殺せばいいと考えたのです」


「随分と単純ね」


「全くです。ノーグン王子が暗殺者として任命したのは、メイドのフューリでした」


「メイド?なぜ?」


「非常に申し上げにくいのですが」


 ルジーは一瞬ためらってから、うつむきがちに言った。


「フューリはフラント王子の愛人でした」


 何てこった。

 じゃあ私は、浮気された挙句に捨てられて地下牢へ放り込まれたのか。

 悲しみやら言いようのない苛立ちやらが湧き上がってくる。


「ノーグン王子は、フューリをよりフラント王子にとって信用できる存在にしたいと考えました。愛人では不十分ということです。必然的にリリアナ様の存在も邪魔になりました」


「それで、あらぬ罪を着せて私を消そうとしたんだ」


「そうです。フューリに気持ちが傾いていたフラント王子にとっても、都合のいい状況だったわけです」


 私が消えることで、フラント王子はフューリをより大事にできる。

 ノーグン王子にとっては、計画通りに物事が進む。

 アルミ―家の反逆などという大事にしたのは、王子が婚約を破棄する理由としてふさわしい口実が必要だったからだろう。


「それで?フラント王子は殺されたの?」


「はい。私がアルビの牢獄に入れられてから数週間後に、フューリによって殺されたそうです」


「ノーグン王子の思い通りってわけだ」


「ここまではそうでした。しかし、最終的にはノーグン王子の計画も狂い、王宮にあんな惨状がもたらされたのです」


「彼に何があったの?」


「実は、フューリはエカテート王国にある秘密結社『青血連盟』のスパイだったのです。他にも何人かが王宮内に紛れ込んでおり、ノーグン王子も惨殺されました。そして『青血連盟』は、王宮と王都に火をつけました」


「エカテート王国が不安定っていうのは、そういうことだったのね」


 自分の国に拠点を置く組織が他国の王都に火をつけたのだ。

 不安定で済む話ではないだろう。

 国を根幹から揺るがす事態だ。


「父上と母上は?」


 私の問いかけに、ルジーは視線を下に落とした。

 数秒の沈黙の後、意を決したように言葉を紡ぐ。


「どうかお怒りにならないでください。私はリリアナ様に嘘をつきました」


「嘘?」


「申し訳ありません。リリアナ様がスキルの訓練を始めたころには、すでにご両人とも処刑されていました。リリアナ様が生きることを諦めてしまわれないよう、事実とは異なることをお伝えしてしまいました」


「そうなの」


「僭越なことをしてしまい、本当に申し訳ありません」


「いいのよ。むしろありがとう」


 もし両親が殺されたと聞いていたら、熱心にスキルの練習などしなかっただろう。

 ルジーの言う通り生きることを諦め、パンも食べずに獄中死していたかもしれない。


「怒っていらっしゃらないのですか?」


「どうして怒るのよ。私はルジーに救われた。スキルを覚えたのだって、こうして地下牢から出れているのだって、全部あなたがいなければできなかったことなんだから」


「そう言っていただけるとありがたいです」


 ルジーは心底ほっとした表情になった。


「ちょっと止まって」


 私はルジーに合図し、道のわきにあった茂みに【ファイアーボール】を撃ち込む。

 やはり犬のような鳴き声がし、グリーンウルフの死体が転がり出た。

 こんな大事な話をしていても気配に気づいてしまうとは、私の察知能力もなかなかのものじゃないだろうか。


「すごいですね…私は全く気付きませんでした…」


 ルジーが目を白黒させている。

 褒められて悪い気はしなかった。

 先ほどと同じく灰になるまで火葬し、茂みに燃え移った火を【ウォーターボール】で消す。


「父上や母上が見たら何て言うだろうね…。自分の娘がモンスターを焼くところなんて」


「リリアナ様…」


 おっといけない。

 つい湿っぽくなってしまった。


「さ、行こうか。進めるだけ進もう」


 気を取り直して、私たちはウィース王国へ歩き出す。


 両親も、地下牢で失った時間も、王宮や王都も、いくら悔いたところで戻ってこない。

 そう思える私は、どうやら地下牢暮らしでメンタルが強化されたようだ。


 後ろも過去も振り返らない。

 まだまだウィース王国への道は遠いのだから。

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