47話 帰還
行きと帰り合計で9日かけ、私は無事に森を抜け出した。
カバンから鍵を取り出し、扉を開けて金属製の壁の外側へ出る。
事前に指定されていた近くの集落まで歩き、老執事と再会した。
「よくぞご無事で…」
「まあ、いろいろあったけどね。一刻も早く領主の館まで行きたい。馬車を出してもらえる?」
「もちろんでございます」
ミーア湖の水はやはり特殊なようだ。
青緑憐花は花こそ閉じているものの、根や茎、葉は至ってきれいな状態を保っている。
「出発いたします」
私が馬車に乗り込んだのを確認して、老執事が一礼した。
ゆっくりと馬車が動き出す。
本当は今すぐにでも眠ってしまいたいが、盗賊にカバンを奪われたりしたらたまったものではないので我慢する。
睡魔と戦いながら馬車に揺られ、何とかシオンさんの館へと到着した。
門が開き中に入ると、ちょうどジークさんがこちらへ歩いてくる。
私を見るやいなや、笑顔で駆け寄ってきた。
「帰ってきたか!!無事でよかったぜ!!」
「こんにちは。何とか帰ってきました」
「目的は果たせたのか?」
「一応は。まあ、これで病気が治ると決まったわけじゃないですけど」
「それもそうだな。俺もたった今、領主様から頼まれていたものを届けてきたところだ」
ジークさんにはまた別の仕事があったのか。
「奥さんの名前はレイアさんっていうんだが、ちょうど帰ってきて館におられるんだ。採ってきたものは、彼女に渡せばいい」
シオンさんの奥さんは、王都で薬学の研究をしていると言っていた。
私たちが薬に必要な材料を採取に向かったと聞いて帰ってきたのだろう。
「それじゃあな。俺は街に戻る」
「はい。お疲れ様でした」
ジークさんは手を振ってから館を去っていった。
私は老執事に玄関を開けてもらい、館の中に入る。
玄関のところにシオンさんが立っていた。
「ジークの大きな声がしたので何事かと思ったんだが…。リリアナ、よく無事で」
「こんにちはシオンさん。青緑憐花、しっかりと採取してきました」
「そうかそうか。本当にありがとう。さあ、入ってくれ」
シオンさんの後について、私は屋敷の地下へと向かう。
案内された部屋に入ると、中でノアにそっくりの女性が紙束とにらみ合っていた。
「レイア。リリアナが帰ってきた」
シオンさんが呼び掛けると、レイアさんは顔を上げてこちらへ視線を送る。
私が会釈すると、向こうも会釈で返してくれた。
「青緑憐花を持ってきました」
私はカバンの中から10本の容器を取り出し、目の前にある机に並べた。
レイアさんは素早く机に近づくと、部屋の灯りにかざして容器のうち1つをじっと見つめる。
しばらく眺めたところで容器を置き、私に頭を下げた。
「ありがとうございます。これで、薬の試作を始められます」
「いえいえ。お役に立てたら何よりです」
レイアさんは頭を上げると、早速1つ目の容器を開けた。
部屋を見回してみると、見たことのない草花や動物の骨などが大量に置かれている。
これらを試行錯誤して、娘の病気を治す薬を作り上げるのだろう。
「ここからはレイアの仕事だね。よろしく頼む」
「任せて」
「私たちはいこうか、リリアナ」
レイアさんを部屋に残し、私たちは外へ出た。
「シオンさん、少しお話したいことが」
「分かった。じゃあ、広間でゆっくり話そう」
私たちは、最初にここへ来た時と同じ広間で向かい合って座った。
「それで話って?」
「森で青血連盟の幹部、それから元青犬盗賊団【忠犬】のギノと会いました」
「…青血連盟に【忠犬】?」
「はい」
レイファやギノと出会った話をする。
シオンさんはそれを興味深げに聞いたあと、腕を組んでう~んと唸った。
「青血連盟がなぜ…。【忠犬】と関わりがあるんだろうか」
「ギノと青血連盟の繋がりは分かりません。でも1つ言えるのは、盗賊団時代の彼が実力を隠していたということです」
「青血連盟については、良からぬうわさを多く耳にする。彼らがウィース王国で暗躍するようなことになると厄介だな。【忠犬】との関係も含めて、こちらでも調べてみよう。貴重な情報を感謝するよ」
「よろしくお願いします。私も青血連盟のことは気になるので」
「何か分かったらリリアナにも伝えよう。今回は本当に助かった。依頼の報酬を用意しているので、受け取って帰ってほしい」
「分かりました。ありがとうございます」
かなりの額のお金を受け取り、私は館の敷地外へ出た。
老執事が馬車に乗って待っている。
「また何かあったらよろしく頼むよ。治療が上手くいったら、ノアにも会いに来てくれ」
「ぜひ。では失礼します」
シオンさんに見送られ、私は馬車で街へと出発した。