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46話 戦わず

「う…」


 意識が覚醒し、徐々に周りの音が聞こえてくる。

 ゆっくりと目を開ければ、倒れる前と変わらない青空が広がっていた。


「生きてる…」


 あれだけ強力なモンスターの前で意識を失ったにもかかわらず、こうして生きているのは奇跡といっていい。

 その上、水龍の気配が消えているのだった。


 ほっと一息ついて冷静さを取り戻す。

 すると、自分が右手で何かを握っていることに気付いた。

 体を起こし見てみると、手の中にあるのは核晶。

 うっすらと何かで斬りつけたような傷がついている。

 私の【鎌鼬】によって生まれた傷だろう。

 つまり、これは水龍の核晶だ。


「いつの間にこんなものが…」


 そう呟いて顔を上げた私は、目に飛び込んできた風景にがくぜんとした。

 あの美しかったミーア湖の面影がどこにもない。

 湖は干上がり、周りの地面は焼き尽くされ、美しい花々は燃えカスになっている。


「何が起きたの…」


「起きたか」


 呆然とする中で、聞き覚えのある声が響いた。


「全く派手にやってくれたな。加減というものを知らないのか?」


「あなたは…」


 青い髪の毛。

 左頬の大きな傷。

 冷たい視線。


「どうしてここに?ギノ」


 元、青犬盗賊団【忠犬】であるギノ・ガーティア。

 盗賊団のアジトで会った時と話し方は変わっているが、それ以外の雰囲気は全く同じだ。

 氷のような冷たい殺気も健在。

 何か妙なことをしたら殺すぞという意思を感じる。


「このミーア湖の惨状は、あなたがやったの?」


 私の質問をギノは鼻で笑った。


「冗談はよせ。これをやったのはお前だろうが」


「私が?私は意識を失って倒れてたはずなんだけど」


「意識を失って…なるほど、覚えていないわけか。ただ、俺は全部を見ていたぜ。誰が何と言おうと、ミーア湖をこんな有様にしたのはお前だ」


 ギノが嘘を言っているようには見えない。

 意識を失っている間に、【ファイアーボール】を乱射でもしてしまったのだろうか。


「ひょっとしてお前は、これが全て【ファイアーボール】によって起きたものだと思っていないか?」


 私の心を見透かしたようにギノが言った。


「気付いているとは思うが、ミーア湖の水は特別だ。いかにお前の【ファイアーボール】が素晴らしいものであろうと、それでミーア湖を干上がらせることはできない」


「じゃあ、一体どうやって…」


「後で説明してやる。まず、それをよこせ」


 ギノが指差しているのは、私の右手にある水龍の核晶だ。

 私がそれを手渡すと、ギノはミーア湖の中央部へ一気に加速した。

 それから湖底に穴を掘り、そこへ核晶を埋める。


「何をしたの?」


「ミーア湖の種を植えて来た」


 戻ってきたギノはそう答えた。


「あの核晶を埋めておけば、時間はかかれど湖はいつか復活する。周りの草花も含めてな」


「そんな話、聞いたことないけど」


「お前が無知なだけだな」


 ちょっとイラつくが、やはり嘘を言っているようには見えない。

 これでミーア湖が回復するというのなら、おそらく高額であろうあの核晶も喜んで手放そう。


「さてとだ、無知なリリアナ」


 手についた泥を落とし、ギノは私の正面に腰を下ろした。


「ここに2つの選択肢がある。どっちを選ぶかはお前次第だ」


 ギノが右手の人差し指を伸ばす。


「選択肢1。俺と今からここで戦う。もし勝てれば、お前の身に何が起きたのか教えてやろう。逆に負ければ、お前の命はない」


 続いて、ギノは右手の中指を伸ばした。


「選択肢2。青緑憐花の入ったカバンを持って、今すぐここを去る。俺もお前に手出しはしない。確実に領主の娘へ薬草を届けられる。その代わり、お前の身に何が起きたかは教えない」


「どうして私がシオンさんから依頼を受けたことを知ってるの?」


「さあな」


 はぐらかされてしまった。

 ギノは2本の指を私の目の前で立て、もう一度問いかける。


「1か、2か。さあ選べ」


 自分の身に何が起きたのか知りたいという好奇心はもちろんある。

 しかし、負けてノアの病気が治らなかったら責任は取れない。

 そして、ギノを相手にして「あ、勝てる」という感覚はやってきそうにない。

 決して、100%負けるということでもないけれど。


「2にする。私に何が起きたかは、また会った時に教えてもらうよ」


「いいだろう。俺も、お前とはまた会えると確信している。その時までに、少しは世間のことを知っておくんだな」


 そう言うと、ギノは立ち上がり去っていった。

 彼の背中が木々の向こう側に消えていったところで、私も立ちあがり青緑憐花の入ったカバンを拾う。


「帰るか…」


 またしてもギノと戦うことはなかった。

 今回に関しては、私が戦いを避けたともいえる。

 しかし今はそれでいい。

 きっと彼は、また私の前に現れる。

 そして私たちは、いつか真剣に戦うはずだ。


 私は、青緑憐花の無事を確認してから森の中を歩き始めた。

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