44話 簡単には終わらせてくれない
まずは、あらかじめ用意していた容器に湖の水を汲む。
そして青緑憐花を1本抜き取りその中に入れた。
透き通った水の中で青緑色の花が輝いている。
持ってきた10個の容器全てに花と水を入れ終え、ふたを固く締めてカバンにしまった。
あとはこれを持ち帰れば今回の依頼は完了だ。
完了なのだが…
「ま、そう簡単には終わらせてくれないよね」
森の向こう側から太陽がその姿を現すのと同時に、ミーア湖から巨大なモンスターが現われた。
水の体が巨大な龍をかたどっている。
体内にある核晶が透けて見えた。
龍がこちらを向いて大きく口を開ける。
私は青緑憐花の入ったカバンを抱えて駆けだした。
その動きを龍の頭が追いかけてくる。
――【加速】。
私が一段とスピードを速めた瞬間、さっきまでいた場所に巨大な水の玉が放たれた。
地面がえぐり取られその先の木がなぎ倒される。
見た目からして強いのは分かっていたけど、やはり攻撃は相当な威力だ。
「…っ」
カバンを庇いながら【鎌鼬】を撃つが、風の刃は水の体をすり抜けていく。
全くダメージは与えられない。
龍が水面に口をつけて湖の水を吸い上げ、ものすごい勢いで噴射した。
私はそれを、胸の前で【ファイアーボール】を使い受け止める。
高温の【ファイアーボール】が勢いよく噴射され続ける水を蒸発させていった。
しかし同時に、少しずつ【ファイアーボール】の方も削られていく。
こうなればどちらが先に消耗しきるかの勝負だ。
発生し続ける水蒸気で視界が奪われる。
しかし、相手が見えなくなったのは龍の方も同じだ。
私はこの隙におなじみの【造影】を使い、【消音】【忍び足】【隠伏】で攻撃範囲からこっそり抜け出す。
その時、【ファイアーボール】が激しい水流に破られた。
もし判断が一歩遅れていれば胸を貫かれていただろう。
さっきからギリギリの戦いを強いられてるな。
「…っ」
龍の真横の回り込み、重さを意識した【ファイアーボール】を高速で撃ち込む。
水を噴射し続ける龍の横っ面を直撃した。
しぶきが飛び散り、間違いなく龍の頭部が消失する。
「やった…ん?」
喜んだのも束の間。
首がにょきにょきと伸びて頭が再生する。
けろっとした様子で龍は巨大な水の玉を放った。
「嘘でしょっ!!」
体をひねってかわして龍を見据える。
あいつの体は水。
そしてその体は湖に浸っている。
言ってみれば私は完全アウェーだ。
ここは向こうの土壌なのだ。
「こうなったら…」
私はカバンを木陰に隠し、じっと水龍を見据えた。
奴はきっとミーア湖の主。
この先もここに来る可能性があることを考えれば、ここで倒しておきたい。
かといって切れないわ再生するわ攻撃の威力は高いわ…。
私は初めて、強いモンスターと戦うことになった。
今まではゴブリンみたいな雑魚か盗賊団ばっかだったからな…。




