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43話 ギノと青血連盟

 夜がやってきた。

 月明りに照らされた湖面がキラキラと輝いている。

 私は、青緑憐花が花を咲かせる時間まで夜通し起きていることにした。

 近くで拾ってきた枯れ木に火をつけ、その焚き火に手をかざしながら湖の様子を眺める。

 暖を取るだけなら【ファイアーボール】で十分なのだが、ミーア湖周辺の風情ある雰囲気には焚き火の方が合っている気がした。


 パチパチという木の爆ぜる音を聞きながら、木製のコップに淹れたお茶を飲む。

 ミーア湖の水を温め、香りの良いピンク色の花の上から注いだものだ。

 ウィブロックの書いていた通り、ミーア湖の水はほのかに甘くて元気が出る。

 それで淹れたお茶もなかなかの味だ。


「気持ちが落ち着くね…」


 お茶請けが干し肉とカサカサのパンしかないことを除けば、夜の1人優雅なピクニックという感じがする。

 一応ここは、魔境と呼ばれる森なのだが。


 夜明けまではまだまだ時間がある。

 特に暇をつぶせるものを持ち合わせていない私は、これまでに起きたことを整理してみることにした。


 事の発端はおよそ5年前。

 フラント王子を陥れようとしてノーグン王子が策略を巡らせたことから全てが始まり。

 彼の陰謀のせいでアルミ―家に濡れ衣が着せられ、私は婚約破棄からの投獄、父上と母上も処刑された。

 しかし裏で秘密結社である青血連盟が暗躍していて、結局ノーグン王子も殺害される。

 王宮と王都には火が放たれ、その混乱に乗じて私とルジーはアン王国を脱出した。


 紆余曲折あったものの何とか雪山を越え、私たちはウィース王国で新たな生活を始める。

 私は冒険者として働き始め、地下牢での訓練が予想外の成果を生んでいたことでいくつかの手柄を立てることが出来た。

 青犬盗賊団の討伐作戦の際には、【忠犬】と呼ばれていたギノと遭遇。

 しかし彼は戦うことなく、青犬盗賊団を脱退して去っていった。


 そういえば、彼もアルミ―の名を知っていたな。

 これまで会った中で「リリアナ・アルミ―」を知っていたのはギノとレイファだけ。

 もしかしてギノも青血連盟とつながっているのだろうか。

 そうならきっと、レイファよりも上位の幹部のはずだ。

 殺気のレベルが違った。


 青犬盗賊団を討伐した報酬を領主シオンさんのところへ受け取りに行き、そこで青緑憐花を採取してきてほしいと言われた。

 必要なものをそろえて森に入り、レイファとの戦闘や遺跡の地下からの逃走を経て今に至るわけだ。


 こうして振り返ってみると、冒険者になってから1か月と少しでかなり濃い経験をしている。

 その前の地下牢生活もなかなかない体験だと思うけど。


「やっぱり青血連盟が気になるな」


 青血連盟はアン王国を壊滅的な状態に追い込んだだけでは飽き足らず、幹部クラスが私に接触してきている。

 レイファが独断で動いたとは思えないし、きっと彼らなりの理念や目的があるはずだ。

 これからも、事あるごとに青血連盟とは対峙するかもしれないな。

 事実上の両親の敵でもあるし、その目的を明かして相応のリベンジは果たしたい。


「今ごろルジーは何してるかなぁ…」


 あれこれと夜通し思考を巡らせているうちに、東の空が少しずつ明るくなってきた。

 そして、湖を取り囲むように青緑色の花が一斉に咲き誇る。


「咲いた…すごい、これが青緑憐花…」


 圧巻の光景に、私は茫然と立ち尽くした。

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