39話 幻影人形
遺跡の1階にレイファの気配はない。
となると上か下かだが、上に通じる階段は崩れた壁などで完全に塞がれていて登ることが出来ない。
「ってことは下か」
地下への階段はきれいに整備されている。
誰かが定期的に使っている証だ。
階段を降りると、普通ならランプが必要なくらいの真っ暗闇が待っていた。
それでも私には【暗視】があるため気にせず捜索を続ける。
「ふふっ」
笑い声と共にレイファが現われた。
しかし、そこから人間らしき気配はしない。
「偽物ね」
私が【ファイアーボール】をぶつけると、あっさり消えていった。
幻影に生命体の気配がないのが唯一の救いだな。
これで気配まであったら、全く見分けがつかない。
「さてと…」
地下にはいくつもの扉がある。
レイファからすればこの1つ1つを調べさせたいところなのだろうが、【気配察知】をもってすればこの層に彼女がいないことははっきりと分かる。
さらに下へ続く階段があったので、私はこの層の捜索を早々に打ち切ってそれを降りた。
「ここにも…いないな…」
廊下の奥の方へレイファの影が現われたが、それを無視してさらに下へ進む。
いた。
この層にレイファの気配がする。
右斜め前…私との間に壁は6枚…椅子に座ってる…。
「見つけたよ。…っ」
私が放った【ファイアーボール】が壁をぶち抜き、レイファの元へ突き進む。
それと同時に【加速】を発動し、素早く彼女のいる部屋へ飛び込んだ。
「…なっ!?」
目の当たりにした光景に私は衝撃を受ける。
予期できないはずの【ファイアーボール】が、レイファに左手1本で止められていた。
「さすがね。ここまで早く見つかるとは思わなかったわ」
片手で【ファイアーボール】を受け止めながら、レイファは余裕の微笑みを浮かべている。
「【反射】」
レイファが呟いた途端、【ファイアーボール】は私が開けた穴を逆行して飛んでいった。
少しの後、ドゴォンと壁が破壊される音がする。
…強い。
幻影からは感じられなかった、ただならぬ殺気を感じる。
ザグマイトだのデーブだのは勝負にならないレベルだ。
これまでに向けられた殺気としては、【番犬】ギノに次ぐ2番目のものだろう。
「…っ」
私は重い【ファイアーボール】を至近距離から撃ち込んだ。
「【幻影人形・鋼鉄形態】」
【ファイアーボール】が胸部にめり込む。
血を吐いて倒れたレイファの後ろに、微笑みを浮かべたままのレイファが立っていた。
「今のも…幻影…?」
「そうよ。ただの【造影】とは違うの。少し虚像を造れるからといって、《定理の七官》の立場を得られるわけがないでしょ?」
「《定理の七官》って一体何なの?」
「あなたが勝ったら教えてあげるわ。【幻影人形・巨人形態】」
レイファがこちらへ向けて手を伸ばす。
私の背後に、本体より二回りは大きいレイファの幻影人形が現われる。
「【重拳】」
大きく振りかぶった右の拳が、私の後頭部を思いっきり殴りつけた。
「がふっ…」
「思ったほどじゃなかったわね…」
私のうめき声にレイファがため息をついた。