表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/47

38話 幻影

「ふう…少し休憩するか…」


 かなり歩いたし、太陽が高く昇って日差しもきつい。

 私は手ごろな木陰に避難して水を口に含んだ。


「結構日差しあるな…。帽子を持ってくるんだった…ってわあぁあ!?」


 私は慌ててその場から飛びのいた。

 1体のグリーンウルフがこちらをじっと見つめている。

 全く近づいてくる気配を感じなかった。

 たかが低級モンスターが私の【気配察知】をすり抜けられるはずがないのに…。


「…っ」


 突然の出現に驚いたとはいえ、相手は所詮グリーンウルフ。

 私はすぐに気を取り直して【ファイアーボール】を撃った。

 無音の攻撃が間違いなく脳天を捉える…はずなのに。

【ファイアーボール】が命中したはずのグリーンウルフは、ぐらっと揺れたと思うと消え去った。

 そして数メートル先にふらりと現れる。


「…っ…っ」


 陽炎のように現れては消えるグリーンウルフを攻撃し続けるが、一向に手ごたえがない。

 私が戸惑っているうちに、グリーンウルフは【ファイアーボール】の射程圏外へ行ってしまった。


 選択肢は2つ。

 特に危害を与えてくる気配のないモンスターは無視して先へ進むか、進路は外れるがこの奇妙な現象を追いかけるか。

 数十秒の思考の後、私は自分の好奇心に負けた。

 印をつけながら追えばきっと迷わない…はず。

 それに迷ってもまた太陽をあてにすればいい。

 どんな時にも太陽は東から登って西に沈むのだから。


「…っ」


 グリーンウルフに近づいて【ファイアーボール】を放つと、当たったはずの体が揺らいで少し先に現れる。

 延々とそんなことを繰り返していたら、突如として大きな遺跡が出てきた。


「何だこれ…」


 明らかな人工物だ。それもかなり古い。

 崩れた外壁に空いた穴の前にずっと追いかけてきたグリーンウルフがいた。

 じっとこちらを見つめているが、攻撃してくるわけではない。

 かといってこちらの攻撃も当たらない。気味が悪い。


 ふと、【ファイアーボール】を撃っていないのにグリーンウルフが消えた。

 しかし消えたから元の道に戻ろうとなる私ではない。

 魔境の森にこんな遺跡を見つけて入らずにはいられなかった。


【消音】や【忍び足】などを駆使して遺跡の中に忍び込む。

 外観はボロボロだが、内部は不自然なほどきれいに保たれていた。


「おいで。こっちよ」


「…っ」


 突然聞こえた声に反応し、私は【ファイアーボール】で壁を破壊する。


「ようこそ」


 崩れた壁の向こう側に、全身を紫色の衣装で包んだ女が両腕を広げて立っていた。


「リリアナ・アルミ―でしょ?」


 囁くような女の声。

 なぜ私の名前を知っている…?


「あなたは誰?」


 女はクスリと笑ってから、被っていたフードを取ってその顔を見せた。

 紫色の長髪がこぼれる。


「私の名前を知りたい?」


「とっても」


 もったいつけるように深く息を吐いてから、女はようやくその名と身分を明かした。


「私は青血連盟《定理の七官》第七位、幻影のレイファよ」


「青血連盟…」


 エカテート王国に拠点を置く秘密結社であり、アン王国を崩壊させた元凶。

 私から家族と平和な暮らしを奪った組織のメンバーが、どうしてこんなところにいるんだろう。


「何が目的なの?」


「私の役目は#理__ことわり__#を定められた通りに保つこと。果たしてあなたが理を壊す異端なのか見定めさせてもらいたいの」


「簡単に言えば、私と戦いたいってこと?」


「理解が早くて助かるわ」


 レイファの雰囲気がガラッと変わった。

 しかし負ける気はしない。


「…っ」


 至近距離で放った【ファイアーボール】がレイファの腹部を撃ち抜く。

 しかし、その体はグリーンウルフと同じように揺らいで消失した。

 私しかない部屋にレイファの声だけが響く。


「言ったでしょう?私は幻影のレイファ。本体はそこにはいないわ」


「どこにいるのよ」


「さぁ?探してごらんなさい」


 レイファの挑発に応え、私は遺跡の中で捜索を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ