37話 地下牢流サバイバル
むやみやたらに動き回ると、余計に迷って帰れなくなってしまう。
朝ゆっくりに出発して馬車で長めの移動、さらに2時間歩いたため夕方が近づいている。
今日はここで休み、明日の日の出を待つことにするか。
朝が来れば、太陽が昇ってきた方向とその後の動きからある程度の方角が分かるはずだ。
「食事はまたパンと干し肉と水と…」
アン王国から逃走した時のことを思い出しながら、荷物を置いて地面に座る。
体調に異変はないし、近くにモンスターがいる感じもしない。
ずっと気を詰めていても仕方ないので、私は全身の力を抜いて横たわった。
濃い緑色をした葉の影から真っ青な空がのぞいている。
まるでピクニックに来ているかのようなのどかさだが、今いるのは魔境と呼ばれる森なのだ。
「日の出前には起きないといけないから…早めに寝るか」
この場から動けない以上、特にやることもない。
私は今日の分の食料を取り出し、1人でささやかな食事を始めた。
パンは、街の気に入った店で出来るだけ長期保存できるものを買った。
味は二の次で、それなりに美味しいは美味しいけど水がないときつい。
干し肉は可もなく不可もなくといった感じだ。
どれも似たような味で飽きているというのもあるし、そもそもがあまり美味しいと思えない。
ああ…ウィース王国に来て最初の日に食べた、お肉をサンドしたパンが食べたい…。
さっさと食事を済ませ、次に私は体をきれいにすることにした。
地下牢にいた時と同じように、大きな【ウォーターボール】を展開する。
そして、周りに誰もいないのを確認してから服を脱いだ。
まあ誰もいるはずがないのだけど。
勢いよく飛び込んで手早く体を清めてから、きれいな服に着替える。
今日来ていた服は【ウォーターボール】の水で洗い、近くの木と木にロープを張って干した。
王宮の地下牢という地獄で身につけたサバイバル術が、まさかここで生きるとは思わなかったな…。
さっぱりしたら、続いてやるのは寝床の準備だ。
テントを持ってくることも考えたが、荷物になるし1人では設営できない。
しかし直接地面に寝っ転がるわけにもいかないので、周りを【ファイアーボール】で囲んで寝る。
ウィブロックの仲間たちは夜に消えたようだが、何かが近づいてくれば私は【気配察知】で反応する。
彼らが自らの意思で失踪したのでない限り、同じ道はたどらないはずだ。
「おやすみなさい…」
まだ外は微妙に明るいのだが、私は強引に目を閉じて眠りについた。
そして翌日、私はしっかり日の出前に目を覚ました。
【ファイアーボール】を抜け出て空を見上げると、左手側の空から徐々に明るくなっている。
ということはこっちが東だ。
そして右側が西、背中側が北だから…
「南はこっちだ」
まっすぐ私が見つめる先が、目指すべき南の方向。
私は朝食を取り、すぐに荷物をまとめて出発した。
また方向が分からなくなるといけないので、あらかじめ【ファイアーボール】で進行方向の木に印をつけておく。
荒業だが、コンパスが壊れっぱなしなので仕方ない。
「2日目開始っと」
今日もただひたすらに進むだけだ。
ウィブロックたちはミーア湖まで5日間かかっている。
私も初日はかなりのタイムロスをしたし、それくらいの日数は見た方がいいだろう。
「順調に行くといいんだけどね…」
私は一口水を飲んで、焦げ跡のついた木を頼りに冒険を再開した。