29話 終戦
【番犬】を1人撃破、【忠犬】はなぜか私との戦いを放棄。
予想以上に体力を温存したまま最深部へとたどり着いた。
【気配察知】で探ったところ、デーブ以外は誰もいないようだ。
途中で何人もの武器を持った盗賊とすれ違ったことからして、上の騒ぎを聞きつけた周りの部下は戦闘に行ったのだろう。
そっとデーブのいる部屋を覗き込むと、丹念に剣を磨いている。
金属製の鎧を着ているし、自らも戦闘に向かおうとしているのかもしれない。
鎧かぁ…。
ザグマイトやヨドを撃破した【鎌鼬】だが、レベル自体はC。
金属製で分厚い鎧を貫けるかというと、正直微妙なところだ。
となると、やはりレベルSの【ファイアーボール】【ウォーターボール】で攻撃するのがベストかな。
幸い、私がいることはまだバレていない。
それなら【暗殺者】たるもの、物陰からこっそり仕留めてやろうじゃないか。
私は素早く部屋に侵入して机の陰に隠れ、デーブの頭に狙いを定めた。
使用するスキルは、ザグマイトを撃沈させた【ウォーターボール】。
あの時と同じように密度と質量を高めて…
「…っ」
完璧。決まった。
そう思った瞬間。
「ぶへっくし!!」
デーブは腰をかがめて大きなくしゃみをした。
その上を【ウォーターボール】が通り過ぎていく。
えぇ…嘘でしょ…。
【ウォーターボール】は、そのままデーブの背後の壁に穴をあけた。
その音にデーブが反応し、びしょびしょになって崩れた壁を見つめる。
「誰だ…?」
まだ見つかってはいない。
頭がだめなら腹部だ。
きっと鎧越しでもダメージを与えられるはず。
私はもう一発、【ウォーターボール】を放った。
「ぶへっくし!!」
デーブがまたくしゃみをして腰をかがめる。
しかし、この高さなら確実に当た…
「うおおお!!」
突然、デーブが椅子から地面に転がり落ちる。
よく見ると、くしゃみの振動からか椅子の脚が折れていた。
またしても当たらず、壁に穴をあける【ウォーターボール】。
さすがに見つかった。
「そこかぁ!!」
デーブが壊れた椅子を投げつけてきた。
机が壊れ、背中を向けてうずくまる私の姿がむき出しになる。
「お前、どうやって入ってきた?」
「普通に入ってきたけど。階段降りて」
「んなわけねえ。上にはギノがいるはずだ」
「ああ、彼なら盗賊団やめるって。私と戦わずに出ていっちゃったよ」
私の言葉に、デーブの顔が紅潮した。
「ふざけんじゃねえ!!ギノがそんなこと言うわけねえだろ!!」
「だって、実際に私ここまで来れてるし」
ナンバー2でしかも【忠犬】の肩書を持つギノの裏切りは、義理を大事にするデーブにとって相当堪えたようだ。
怒りのままに剣を取り、思いっきり振りかぶる。
冷静さと静けさを武器にする【暗殺者】を相手に、感情のままに行動して周囲へ気を配らないのは命取りになる。
ザグマイトは突然傷を負ったことで、そしてデーブは腹心の裏切りを知って冷静さを失った。
2人がたどる運命も、また同じだ。
「食らえぇぇ!!【スレイ…がぁぁ!!」
スキルの名前も言い終わらないうちに、デーブは地面に突っ伏した。
そのすぐ後ろで、私は服に着いたほこりを払う。
「馬鹿な…いつの間に…」
「最初から、あなたは私の影と話していたのよ」
一発目の【ウォーターボール】が外れた時点で、私は【造影】を使っていた。
そして【隠伏】で隣の机の下に隠れ、さもうずくまった影が本体かのように会話する。
デーブの怒りが最高潮に達し、私の影しか見えないほどに視野が狭くなったところで、素早く机の下から出て背後に回り込んだのだ。
あとは簡単。
至近距離から【ウォーターボール】を撃つだけだ。
「くそ…が…」
テンプレの捨て台詞を残して、デーブは気絶した。
私は容赦なく縛り上げ、ほっと一息をついた。
そこへ、完璧なタイミングでジークさんがやってくる。
「リリアナ!!首尾は…って、もう終わってたか」
「ちょうど今ですよ。他のみんなは?」
「地上はミリィが制圧した。地下に残っていた奴らも、俺とアーヴィンを中心にあらかた捕まえたよ」
「じゃあ、これで街と牢屋が無事なら…」
「ああ。作戦大成功だ」
青犬盗賊団アジト制圧。
デーブ、【狂犬】、【番犬】4名を含む、ほぼ全ての盗賊を逮捕した。
唯一ギノだけは、ジークさんたちの前に現れることもなかったという。
そして私たちが盗賊を引き連れて街へ戻ると、門の前でエルグさんが自慢げに腕組みしていた。
後ろには逮捕された数十の盗賊たち。
今ここに、ヘイリア領、特にオインの人々を長年苦しめてきた盗賊団が消滅した。




