25話 作戦の中心
スキルを使って身を隠しながら調査を続けること3日。
私はついに青犬盗賊団のアジトを見つけた。
しかも運の良いことに、賊たちは奪還作戦の相談をしていて襲撃の日取りも分かった。
それから何度かの作戦会議の末、青犬盗賊団の壊滅作戦が完成した。
牢屋の防衛部隊はエルグさんが指揮し、選抜された冒険者と衛兵たちが配備される。
そしてデーブを捉える部隊には私とジークさん、アーヴィンさん、ミリィさん、そして選抜された冒険者たち。
「もう1回確認するぞ」
エルグさんは1人1人と目を合わせてから、当日の動きを確かめた。
「エルグたちは牢屋を守りつつ、襲撃してきた盗賊を確実に捕らえる。騒ぎに乗じて囚人たちが逃げ出すことのないよう、そちらにも気を配る。大丈夫だな?」
「問題ありません」
エルグさんは、ジークさんの目を見て深く頷いた。
「対して俺らはアジトに突入する。リリアナ以外で幹部や雑魚を相手にし、その隙にリリアナはデーブの元へ突っ走る。この作戦は、俺らがいかにリリアナの体力消費を抑えられるかにかかってるからな」
何だか、いつの間にやら作戦の超中心人物になっている。
それもまあザグマイトを倒してしまったからで、そこで自信がついたから大きな不安はないのだけれど。
「決行は明後日。しっかり体調を整えておけよ」
ジークさんが会議を締め、今日は解散となった。
宿屋に帰ると、ルジーが窓を磨いている。
「ただいま~」
「お帰りなさいませ」
「よく働くね」
「リリアナ様こそ。少しずつ噂になっていますよ」
「え?何が?」
「例の盗賊団首領を逮捕した件ですよ。公式に冒険者協会などから発表は出されていませんが、噂というのはどこからともなく広がるものですからねぇ」
確かにあの時の門には結構人がいたし、ザグマイトは目立つから誰かが見て話を広めてもおかしくはないか。
別に何が何でも隠したいわけじゃないが、変に大事になるとこそばゆい。
街を歩く時にじろじろ見られるのとか嫌だしね。
「そういえば、あのジズが訪ねてきましたよ。リリアナ様に味わってほしいと、チーズやらバターやらを置いていきました」
「あの」という部分を強調するあたり、ルジーはいまだに許し切れていないらしい。
気持ちは分からないでもないけど。
「そうだルジー」
ルジーがやや不機嫌になったので話題を変える。
「そろそろ家を借りるお金が貯まりそうなんだけど、適当に目星をつけておいてくれる?」
「そのことなんですが…」
珍しくルジーが何かを言い淀んだ。
しばし沈黙した後、顔を上げて言葉を紡ぐ。
「何と言いましょうか…実は私、農業に興味があるのです。老い先短い身ですし、自分の好きなことをやってみたいと」
「なるほど」
「ですのでリリアナ様。この街を離れ、近くの農村に移住してもよろしいでしょうか?」
「いいよ」
私は即答した。
断る理由など、どこにもない。
「ルジーには苦労かけたもの。好きなことを楽しんでほしい。それに、遠くへ行っちゃうわけじゃないんでしょ?」
「はい。近隣の農村で住処を探します」
「ならだめなんて言わないよ。さみしくはなるけどね」
「ありがとうございます」
ルジーは深々と頭を下げた。
もう主人じゃないって、何回も言ってるんだけどなぁ。
顔を上げたルジーは、優しく微笑んで言った。
「もうすぐ例の作戦が決行されるのでしょう?お風呂もの用意もできています。ゆっくりお休みになって英気を養ってください」
「ありがとう」
私も笑顔で返し、荷物を置いて浴場へ向かった。