24話 逮捕
「街まで走って30分ってところか…」
せっかくザグマイトを倒したのだ。
手配書の賞金をもらわないと損。
しかし、ザグマイト1人を街に連行するのも私の力では無理だ。
「使えそうなものを探すかな」
用意しておいたロープで盗賊たちを拘束し、一度洞窟を出る。
するとそこへ、馬車に乗った男が通りかかった。
「お~い!!少し止まってもらえませんか!!」
私が大声で呼びかけると、こちらに気付いて止まってくれる。
かなり大きな馬車だが、特に荷物は積んでいないようだ。
「この馬車って、もう2人くらい乗れますか?…ってあれ!?」
馬の手綱を握っている人の顔を見て、私は驚きの声を上げた。
向こうもびっくりしている。
「ジズ!?」
「リリアナさん!?」
馬車の主はジズだった。
雪山ぶり2度目の再開だ。
「もう傷は治ったの?」
「はい、おかげさまで。その節は本当にお世話になりました」
「なら良かった。この馬車は?」
「雪山を降りてから故郷に帰ったんです。両親が酪農をやってまして、ちょうど街に乳製品を届けてきたところです」
ジズに血をダラダラ流して死にかけていた面影は全くなく、すっかり元気になったようだ。
街から帰るところだから荷台が空っぽなのか。
「悪いんだけど、もう1人乗せてもう一度街に行ける?」
「もちろんですよ!!リリアナさんの頼みなら何でも聞きます!!」
「もう1人は気絶してるの。運ぶの手伝って」
「分かりました!!」
ジズは地面に杭を打ち込んで馬を繋ぐと、私について洞窟の中に入った。
最初に作ったメモを見ながら、私たちは分岐を通過していく。
「そういえば、リリアナさんはこんなところで何してたんですか?」
「私、冒険者になったのよ。今日はこの辺で任務があったの」
「ああ、ユキグマを瞬殺しちゃうんですから、冒険者向いてますよね。ってことは、もう1人も冒険者の方ですか?」
「いや、盗賊」
「と、盗賊!?」
ジズが足を止めた。
「やばいですって!!盗賊って…盗賊ですよね?」
「大丈夫だよ。気絶してるし縛ってあるから」
「本当ですか…?」
「本当本当」
私がジズを安心させたところで、ザグマイトと戦った場所にたどり着いた。
あちらこちらに転がっている盗賊たちを見て、ジズが唖然とする。
「リリアナさんが1人でやったんですか?」
「軽いもんよ」
戦いの最初はめちゃくちゃ焦って絶望していたんだけど、そんなことは言わなくてもいいだろう。
私はザグマイトを縛っているロープを持ち上げ、ジズに指示を出した。
「こいつだけ連れて行く。少しは引きずってもいいから、馬車まで頑張って運んで」
「了解です。ん?うわ!?ザグマイト!?」
「だよ」
「リリアナさん、こいつが誰だか知ってます!?」
「もちろん」
「…。リリアナさんにはもうついていけないです…」
ぶつくさ言いながらも、ジズはザグマイトの巨体を抱え上げた。
ロープを引っ張っていくかと思ったが、どうやら背負ったまま馬車まで向かうらしい。
「意外と力あるんだね」
「酪農って結構な重労働ですからね。力仕事なら任せてください」
結局、ジズは1回も休むことなくザグマイトを運びきった。
荷台に積み込んでしっかりと固定し、私もその横に座る。
「では出発します」
「うん。よろしく」
ジズが馬に合図し、馬車が動き出した。
思ったより速いな。
馬車があれば依頼に向かうのも楽かもしれない。
でも戦闘の邪魔になってしまうか。
走るより断然早く街に着き、門のところで馬車が止まる。
ちょうど、門のところにはジークさんがいた。
「ジークさん」
「おおっリリアナか。どうだ?見つかったか?」
私が首を横に振ると、ジークさんはガハハと笑った。
「そう簡単に見つかんねえよな。気にすんな」
「それがですね」
「ん?」
「アジトは見つからなかったんですが、また盗賊を捕まえました。気絶してるので、あの馬車に乗せてあります」
「やるじゃんか」
ジークさんは私の指した馬車に近づき、荷台を見て顔色を変える。
「おい…これ…」
「襲われたのでやむなく戦いました」
「普通はそこで勝って気絶させて縛って街まで連れてきたりしねえんだよな…」
ジークさんは若干呆れつつ、ザグマイトを抱え上げた。
「何と言うか…まあ…ご苦労様。懸賞金を楽しみにしててくれ」
手配書に書いてあった賞金はなかなかの額だった。
あのお金があれば家を借りられるだろう。
もしかしたら買えちゃうかもしれない。
「ルジーに報告しよっと」
私はジズにお礼を言って宿屋に帰った。