22話 アジトの捜索
青犬盗賊団のアジトと疑わしき場所は、全部で4か所あった。
ジークさんに地図へ印をつけてもらい、早速1か所ずつ回っていく。
「まずはここか」
最初のポイントは、街から少し離れた岩山。
山のところどころに穴が開いており、身を隠すには絶好の場所だ。
今の私は、身を隠せるスキルをフル稼働してこっそり行動している。
もし近くに盗賊がいたとしても、すぐにはバレないはずだ。
慎重に岩山を歩き回り、穴という穴に入ってみる。
しかし、弱いモンスターが何体かいたものの人の気配はなかった。
盗賊団がここにいたという痕跡もない。
「外れかな…?」
仕方なく、私は次のポイントに向かった。
しかし、そこにも盗賊団のアジトはない。
そして3つ目の場所。
幾重にも枝分かれしている大きな洞窟に着いた時、私はようやく人の声を耳にした。
「うわっはっはっは!!なかなか上物の酒じゃねえか!!」
「へい。イリモニア領から来た商人から分捕りました」
「よくやった!!どれ、お前にも飲ませてやろう」
「これはこれは。ありがとうございやす」
こっそり聞き耳を立ててみれば、明らかに盗賊団の会話だ。
しかし、こいつらが青犬盗賊団かはまだ分からない。
野良の盗賊ということも十分にあり得る。
もう少し、話を聞いてみるか。
「美味いですねぇ、この酒。上品な味がします」
「へっ、お前が上品なんて口にする面かよ」
「ひでえ。しかし、これは上にも差し入れた方がいいんでは?」
「やなこったね。この酒は俺のもんだ」
「ですがね、こいつを差し入れりゃ上の評価が上がりまっせ?団内での立場も、ちいたあ上がるんじゃないですか?」
「なるほど…。お前にしてはいいこと言うじゃねえか」
今確かに「団内での立場」と言った。
ということは、彼らはやはり盗賊団のメンバーだ。
この洞窟が、青犬盗賊団のアジトになっている。
「それじゃあ、お頭のところに行くか」
「そうしやしょう」
どうやら、彼らはリーダーであるデーブのところに行くようだ。
この洞窟にはいくつも分岐があるため、デーブの居場所を知っておけば作戦時にタイムロスをしなくて済む。
私はこっそりと彼らを尾行することにした。
太った男と背の小さな男が、2人で洞窟内を歩いていく。
両手に持っているのが、商人から分捕ったと言っていた酒だろう。
彼らが分岐を過ぎる度に、私はどこをどちらに進んだかメモする。
そしてとうとう、品のない笑い声が響く広い空間へとやってきた。
「お頭!!美味い酒が入ったんで、持ってまいりました!!」
入口のところで、太った男が酒瓶を掲げる。
すると、中から低い声が響いた。
「やるじゃねえか。入れ」
「失礼します!!」
気配を探るに、中には10人ほどの盗賊がいる。
いくらスキルを使っているといっても、この人数では誰かにバレる可能性がある。
ましてや相手は二大盗賊団のボス。
さすがに入っていく勇気はないし、その必要もない。
必要な情報はすでに得た。帰ろう。
私がこっそり広場を離れようとした時、盛大に乾杯の声が響いた。
「俺らの首領、ザグマイトさんに乾杯!!」
「「「「「かんぱ~い!!」」」」」
ん?首領ザグマイト?
デーブじゃないのか?
しかもザグマイトって、どこかで聞いたような…。
私の頭の中に、リゼアが見せてくれた2枚の手配書が浮かぶ。
片方が青犬盗賊団リーダー、デーブのもの。
もう片方は赤犬盗賊団首領の…
「そうだ。ザグマイトだ…」
ってことは、ここは赤犬盗賊団のアジトなの!?
予定外の事態に混乱する私。
うっかり、土の壁に掛けられていた剣を落としてしまった。
カタカタカタターンと、大きな音が響く。
一瞬で、中の宴会の音が静かになった。
まずい。やってしまったかもしれない。
「おいてめえら」
ザグマイトの低い声が響く。
「外に掛けてある剣はどんな剣だ?」
怒気をはらんで震えている声。
広場の誰かがおずおずと答える。
「は、はいっ。ザグマイトさんのお父様の形見で、何よりも大切な剣ですっ」
「落としたのは誰じゃゴラァ!!ぶっ殺してやる!!」
ザグマイトは、怒りを爆発させてその姿を現した。
盗賊団首領の名にふさわしく、ジークさんにも負けない屈強な体つきをしている。
真っ赤に髪が染められ、その目つきは猟犬のように鋭い。
「てめえか、このガキ」
怒りに満ちたその視線は、間違いなく私に向けられている。
まずい。焦ったせいで、姿の隠し方が甘くなった。
「逃がさねえぞ」
ザグマイトが背負っていた大剣を両手に構えた。
その後ろから姿を現した広場の盗賊たちも、それぞれが武器を構えている。
まずい。まずいぞこれ…。