20話 新人vs幹部
「【目くらまし】」
「なっ!?」
斬りかかってくると思ったら、アーヴィンさんは煙で視界を奪ってきた。
一瞬でその姿が見えなくなる。
私は冷静になって気配を察知した。
右後ろから来るっ!!
間一髪で体をひねり、振り下ろされた剣をかわす。
そのまま【ファイアーボール】を放ったが、バランスを崩しながらの攻撃になったため外してしまった。
「回避してカウンターか。戦闘の基本は出来てるみてえだな」
煙が晴れた先に、剣を右手に持ったアーヴィンさんが立っている。
戦闘の基本とか学んだことないから、勘に頼ってがむしゃらにやってるだけなんだけどね。
ある意味、才能じゃなかろうか。
「【加速】」
再び距離を詰められた。
容赦のない剣の攻撃を避け、私も【加速】を使って距離を取った。
同じスキルを使って私の方が速いということは、こちらの方が俊敏さに長けているらしい。
「逃げているだけでは勝てないぞ。【加速】」
距離を詰められたが、今度の私は避けない。
アーヴィンさんは怪訝そうな顔をしながらも、思いっきり剣を振った。
私の左肩に刃が食い込んだ。
「ギブアップか?」
アーヴィンさんが得意げに笑った瞬間、私の体が揺らいで消え失せる。
「何っ!?」
何もなくなった空間を見つめて、アーヴィンさんは茫然とした。
その右手を【ファイアーボール】が襲い、剣が叩き落された。
「ぐっ…っ!?」
右手を押さえて後ろを振り向いた先に、無傷でピンピンしている私がいる。
さっきアーヴィンさんが斬ったのは、【造影】で生み出した私の影。
それを囮に使い、【加速】【忍び足】【消音】【隠伏】を重ねがけして背後に回り込んだのだ。
「いつの間にスキルを…?詠唱も動作音も聞こえなかったぞ…?」
戸惑うアーヴィンさん。
今回勝利を確信して笑ったのは、私の方だった。
「ギブアップしますか?」
きっとアーヴィンさんはギブアップしない。
だから【ウォーターボール】を撃とうと狙いを定めた。
しかし…
「負けましたっ!!」
アーヴィンさんは、すんなり両手を上げた。
「え?」
「負けました!!イキってすいませんごめんなさい申し訳ございませんでしたぁぁぁぁ!!」
「えええ!?」
見事な土下座を決め込むアーヴィンさんに、私は戸惑ってしまう。
そこへジークさんの太い声が響いた。
「終了!!リリアナの勝ち!!」
勝った。
勝ったんだけど、アーヴィンさんの豹変ぶりに脳がついていかない。
「分かったか?アーヴィン」
「はい!!もう文句は言いませんっ!!」
その返答を満足げに聞き、ジークさんは私に耳打ちした。
「アーヴィンが幹部まで上がってきたのは、その潔さが理由でな。普段はクールぶってるが、いざピンチに瀕したらプライドを捨てて逃げられる。その性格のおかげで生き延びて、強くなってきたんだ」
「は、はあ…」
「要はリリアナを認めたってことだよ。アーヴィンも決して弱いわけじゃない。お前が上回ったってだけだ」
ジークさんが笑顔でグーサインを出す。
何はともあれ、これで無事に作戦が進むのなら良かった。
まだ土下座中のアーヴィンさんと彼を慰めている幹部2人に、ジークさんが呼び掛けた。
「さて、作戦会議に戻るぞ。青犬を潰すんだ。綿密な計画を建てなくちゃな」
その一声で、私たちは訓練場をあとにする。
アーヴィンさんが、すすっと近づいてきて言った。
「偉そうな態度を取って本当にすいませんでした」
「いえいえ。Gランクって聞いたら誰でも不安になりますよ。アーヴィンさん、これからよろしくお願いしますね」
私が手を差し出すと、向こうは一瞬ためらってから握ってくれた。
仲直りの握手を交わして笑い合う。
「多分同い年くらいですよね?さん付けされるのなれてないんで、アーヴィンでいいですよ」
「じゃあ、私もリリアナで」
「いや、それは恐れ多いですっ!!」
「何でですか…」
あまりに性格が変わり過ぎて、私は思わず吹き出してしまった。
また1人、このウィース王国で友人が出来たのだった。