2話 牢獄での日々
暗闇の中で、ひたすらスキルの練習をする日々。
下手に大きな音を立ててバレることのないよう、威力を抑えて【ファイアーボール】や【ウォーターボール】を撃つ。
【ウォーターボール】は、巨大化させることでお風呂の代わりにもなった。
息を止めて中に飛び込み、一気に水浴びするのだ。
「そろそろ、新しいスキルも覚えたいな」
ルジーに新しい指南書を持ってきてもらうか。
そんなことを考えていたら、扉が開いた。
「リリアナ様、昼食です」
「ありがとう」
「こちらもお持ちください」
ルジーは、トレーと一緒に指南書を3冊渡してくれた。
「どうしたの?一気に3冊も」
「それが…」
ルジーは慎重に周りを見回してから、声のトーンを低めていった。
「どうやら、アルミ―家に関わっていた者たちの逮捕も始まっているようなのです。私も捕まってしまうかもしれない。その3つの指南書があれば、最低限生き抜けるはずです」
「そんな…父上や母上は?まだ生きている?」
「処刑された方はまだいません。お父上は領土を立派に治めておられたので、領民に慕われております。いくら王家といえども、下手に手出しは出来ないはずです」
「そう。それは良かった」
最後に両親と会ったのは、投獄される2か月前くらいだった。
ルジーの言う通り立派な領主だった父が、反逆など企てるはずがない。
フラント王子は何を考えたのだろう。
「ルジー、いつもありがとう。無理はしないでね」
「もちろんです。それにもし囚われたとしても、機が来れば必ずお助けします」
「頼りにしてるわ」
ルジーはにっこり笑うと、独房の扉を閉めた。
そしてその日の夜。
夕食を持ってきたのはユジーではなかった。
「飯だ」
いかつい男が、乱雑にパンを投げ込む。
「ルジーは?ルジーはどうしたの?」
私が聞くと、男は鼻で笑った。
「あのジジイなら捕まったぜ。今頃、アルビの牢獄にぶち込まれてんじゃねえか?」
「嘘…」
「残念だったな、婚約破棄令嬢。いや、元令嬢か」
男の下品な笑い声が響く。
私はせめてもの抵抗にと、精いっぱい相手を睨みつけた。
しかし、そんなことなど意に介さず男は続ける。
「お前、王宮じゃ笑いの的だぜ。王家だって俺みたいな召使だってお前の話をするんだよ。婚約破棄令嬢リリアナ。泣きわめきながら牢獄にぶち込まれた裏切り者の娘ってな」
「冤罪よ」
「どうだかな。まあ、あのジジイはもう来ねえ。今度からは俺が、お前のエサを持ってきてやるよ。婚約破棄令嬢さん」
男は雑に扉を閉じると、鍵を閉めて去っていった。
悔しさのあまり、涙がこぼれる。
そして何よりも、囚われたルジーが心配になった。
アルビの牢獄は、王宮の地下牢と並んで悪名高い牢獄だ。
ルジーは老人。果たして耐えれるのだろうか。
それにしても、指南書を持ってきてくれた判断は正しかった。
「ルジー…」
機が来れば助けると約束してくれた。
しかしルジーも囚われてしまった以上、立場は同じだ。
私も、ルジーを助けるチャンスを探さなくては。
「スキルの練習に励むしかない」
私はパンを拾って飲み込むと、新しい指南書を使って練習を再開した。